疑問と謎の嵐が、豊かな研究の種

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

大野泰生

1.現在、どんな研究をしていますか?

数論的な性質、とりわけゼータ関数の値(ある種の数列の和の極限値)および、そういった値の集合で起こっている魅力的な現象(構造)を解明しています。様々なゼータ関数やそれらの特殊値の間に成り立つ関係の研究が、テーマの1つであると言うこともできます。素朴な対象であるがゆえに、捉えられる現象は自然で、調和が感じられます。手触り感のある対象から抽象的な対象までの様々な数学の交錯する部分でもあり、また、数学と理論物理学に跨る広い範囲に現れる様々な対象のモデルと見ることもできます。そのため、研究に用いられる手法も多様で、代数的視点、幾何的視点、解析的視点に基づき、それぞれの分野で知られている理論がふんだんに持ち込まれている分野でもあります。

2.興味を持ったきっかけは?

子供の頃から数表や数列を眺めることが好きで、対称性や周期性を中心としたパターンの解明に興味がありました。既に知られている事実でも、視点をかえることでもっと対称的に見える、周期的に見える、シンプルなパターンとして解釈できる、といった側面を発見すると嬉しくなりました。現象がより身近になるからだと思います。今でもこういった観察が私の研究には欠かせません。連続的な現象も好きですが、離散的な現象を観察してその背景に潜む素朴な原理を見つけ出すことがとても好きで、私にとって対象の本質に迫るための重要手段と言えます。したがって、数表、数列に限らず、様々な現象を何度も何度も眺めます。人間の観察力というものは不思議なもので、見るときによって気付くことや思い描くことに大小の差異があります。そういった多重観察を土台とする予想や結果として得られる事実は、自ずと現象や対象の親しみやすくシンプルな理解をもたらし、数論を含む純粋数学(pure math.)の世界に自然に馴染みました。調和の妙が度々生じる純粋科学の懐の深さに私が受け入れられたのではないかと思います。

3.メッセージ

周囲の反応、価値観、スピードに流されず、自らの気付きを大切にしてください。発見とも呼べない疑問や違和感であっても、誰も気にしない事柄であったとしても、そこに立ち止まった自分を大切にしてください。

高等学校までの学習は、ある意味で平均的な生徒を対象に企画された成功率の高い学習方法なのかもしれません。私自身は、講義を最後まで集中して聴くことが苦手であったし、進度は私にとって早過ぎた気がしています。熱心に聴いているつもりが、途中で感じた大量の疑問や驚きをきっかけに、別世界に飛び立ってしまい、気付くと妄想や迷走の中に居ることも少なくなかったように思います。我に返ると講義はずっと先に進んでいて大慌て。これでは良い成績もなかなか取れないわけで、講義を聴き続けるためには自分の疑問を封印するしかない状況でした。(そのような封印がうまくいくはずもなく、追い付けない講義内容への興味を失っていくこともありました。)しかし、大学に入りゼミに入り、大学院に進学するうちに、この逃れがたい疑問と謎の嵐が、豊かな研究の種であることを知りました。多くの人は通り過ぎるかもしれないけれど、自分は引っ掛かってしまう疑問や驚きは、独創的な研究の出発点でした。自分の思う存分、自分にとって気になる事柄や価値ある思索に耽ることが許されるのです。ですから、決して自分自身の気付きを甘く見ないことです。自分自身が見つけた、自分にとって価値ある疑問や発見は、すぐに評価されずとも必ず大切にしてください。いま不器用さを感じたり不適合に思える自分が居たとしても、学問という広い土壌ではそれがむしろ武器になる場面がきっとあります。その可能性を忘れないでください。

東北大学で人との豊かな出会いを経験し、たくさんの刺激を受け多様な価値観を学び、自らもその多様性のひとつと受け止め、それを活かす人生へと羽ばたいてもらいたいと願っています。