自分の関心をもとに様々な世界に飛び込んでほしい

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

金田 雅司

1.現在、どんな研究をしていますか?

主に「どのようにしてこの世界が創られたのか」に関心を持って研究しています。

自然法則は基本的にはとてもエレガントで、きれいな対称性をもっています。例えば小学校で「道のり=速さ×時間」というのを習いますが、右に進んでも左にすすんでもこの法則は変わらないですよね。同じようにこの世のあらゆる法則は方向によって変わらないと私たちは信じています。

他にも自然法則はたくさん「きれいな」対称性がありそうです。例えば、もし仮にこの世界が電気のプラスとマイナスが突然入れ替わってしまった時を想像してください。その場合でも同じ符号(プラス同士やマイナス同士)では反発しあう事も違う符号同士(プラスとマイナス)でひきつけあうことも変わらないでしょう。このように私たちの世界はどうも電荷をひっくり返しても世界が変わらないということで電荷の反転(荷電共役変換)の対称性が保たれているようにみえます。

ところがその自然法則によって形成された私たちの宇宙そのものは複雑に星が分布し、地球には豊かな構造を持った自然があり、とても空間的に対称的とはいえません。もし本当に自然法則が対称で、それによってこの世界が創られたなら、この世界は空間のどの場所からみても点対称な構造になっていそうで、そう思うと無味乾燥な世界しか創れないはずです。そう考えると、なんで突然こんな複雑で面白い世界が創られたのか不思議でワクワクする謎なのです。

この「宇宙が創られた不思議」は「反物質が消えた謎」という形で問題設定をされ、世界中の物理研究者が取り組んでいます。反物質とは、私たちの世界を構成する素粒子に対して質量とスピンが等しく、電荷など正負の属性が逆の反粒子のことです。また、加速器等で高エネルギー実験を行うとそのエネルギーから粒子と反粒子のペアを生成することができ、また粒子と反粒子は衝突するとエネルギーの形になり消滅することが知られています。私たちの世界も宇宙創成時に膨大なエネルギーが粒子と反粒子のペアとして生成され、その粒子がこの宇宙の物質を形作ったと考えられています。

しかし、もしそうだとすると、この世界には粒子と反粒子が同じ数だけ存在することになるので、やがて再度これらが互いに衝突・消滅し何も残らなくなってしまうはずです。ところが、私たちの世界にはなぜか反粒子を全く観測することはできず、粒子だけが観測できるのです。きっとその背後には私たちの知らない自然法則の「対称性の破れ」があると考えられています。

実はすでに先に挙げた電荷の反転については自然法則の中で対称性が一部破れていることが発見されています。私はこの謎を説明できるだけの大きな対称性の破れが自然法則にないか様々な物理実験を通して探索しています。

東北大ではフランシウムという地球上にはほぼ存在しない原子を加速器により生成して、この実験を行っています。フランシウムは最も重いアルカリ原子で、その最外殻にある電子はその大きな原子核の電場をうけるため、電場を反転等の環境の反転に対して敏感に影響を受けます。フランシウム原子を生成し、レーザーで閉じ込めることができるのは東北大のこの実験装置が国内唯一で、その強みをいかして、世界をリードする研究を進めていきたいと思っています。

2.興味を持ったきっかけは?

6歳頃に突如として「どうしてこの世界に私が存在しているのだろう」という疑問をもったのがきっかけです。当時星に興味があったので、宇宙の始まりについて図鑑等で読む機会があったのですが、なぜ何億年も昔のことをさも見たかのように説明できるのか不思議でしたし、ビックバン等の説明があまりにも整然としていてすごく作り話のように感じました。

もしかすると、真実が他にあってそれを隠すために大人たちが私をごまかすためにつくった話なのではないかなんて思いました。そんな疑問を大人に投げかけたいと思いつつ、当時の表現能力ではこの悩みを相談するのは難しく、ずっと悶々としましたし、もしかしたらこの世界はかりそめで、明日になったらすべて存在してないなんてことがあるんじゃないかと思って、寝るのが怖くなることもありました。今から思うと、いわゆる「中2病」が早く来すぎてしまったんだなと思っています。

そこからしばらくして、様々な理科の本や科学者の伝記を読み漁るようになって、どうも物理や天文の研究者は、最初はそういう問題意識から研究をスタートしたということに気づいていきました。おそらくこの恐ろしく難しい疑問が解決できることはないけれど、少なくともその問題に立ち向かうようなことを生業にすると、少し気分も楽になるのではないか、と思ったことがこのような物理を研究しようと思ったきっかけです。

3.メッセージ

私は物理チャレンジという全国から物理好きが集まるコンテストの第1回大会に参加したのですが、その時はじめてこういう分野の物理に関心をもつ同世代と出会うことができました。これはとても大きなきっかけで、自分以外に同じようなことに興味を持っている人が全国・世界には実はたくさんいるのだという事実は、とても勇気づけられるものでした。一方、6歳で興味を持ってから、そこに至るまでずいぶん長い時間がかかりました。その後実際に物理研究に携わるようになったのは大学4年生の時で、そこまではさらに長い年月がかかっています。

今から思うと、様々な分野で学校から飛び出してその世界に触れる機会があったのにもかかわらず、とにかく物理の分野には当時そういう機会が少なかったと感じています。例えば中高生の時は年に数回奈良の薬師寺に滞在してお坊さんと一緒に生活を共にしたりしていました。このように、生のその世界に触れる機会というのは本来元々興味を持っていなかったところでたくさん経験してきましたが、どうも物理は十分学習を経ていないと最先端の分野に触れるのは意味がないという考えがあったように思っています。

これらの経験から私は、何か悶々としていたり問題意識を持っている子どもができるだけ簡単につながることができ、その分野の生の世界に触れるような世界をつくっていきたいと考えるようになりました。

例えば、学校で気軽に素粒子・天文実験ができるように宇宙線の検出器を配布する活動を2018年から初めて、現在は全国およそ10校に検出器や検出器の材料を配布して、定期的に訪問しています。また、中高生に私たちの施設に来てもらって、実際にフランシウム原子を用いた実験を一緒に行う「加速キッチン」を毎年行っています。これは、実際に大型加速器を使って進行中の実験をそのまま一緒に共同研究できる日本で唯一の機会です。いずれも、まだいずれも小規模ですが、いずれは中高生が個人単位で気軽に素粒子に関わる研究を全国どこでもできる環境をつくるのが夢です。

こんな活動をしていると実は近年こういう出会いの機会がすごく他でも増えていると実感しています。例えばKEKのサマーチャレンジ、東北大学の「もしも君が杜の都で天文学者になったら・・・。」、CERNのBL4S等、各機関が大変面白い活動をしています。是非自分の関心をもとに様々な世界に飛び込んでほしいと思うし、そういう機会が皆さんの見えるところに届けられるように私も努力していきたいと思います。

例えば、東北大のサイクロトロン加速器は大学所有としては国内最大級の立派なものですが、たまに中高生から私に直接「みせてください!」とメール等でコンタクトがあります。そんな時は私は喜んで施設の見学、研究紹介、時には次の出会いを提供する手助けをします。気軽な気持ちで連絡してみるのが素敵な出会いの第一歩で、そんな機会を私も待っています。