失敗のないところに創造はない

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

寺田 眞浩

1.現在、どんな研究をしていますか?

研究室のHPに『化学の原点は「モノづくり」にあります』と謳っているように、有機合成化学を主たるフィールドとして、「触媒」を武器に欲しいものだけを作る選択的かつ効率的な物質変換法の開発に取り組んでいます。現在の文明社会は化学によって創り出された様々な有用物質によって成り立っています。例えば、医薬品や農薬などの薬効を示す生物活性物質は病気の治療や農産物の増産に不可欠となっています。これらの多くは、望む薬効を示す片方の鏡像異性体のみを合成(不斉合成)することが求められるようになっています。加えてケミカルスペース(分子の集合)のさらなる拡充を目的とした新分子創出も必要とされています。私の研究室では有機分子や遷移金属錯体の特性を生かした次世代分子性触媒を独自に設計することで選択性、汎用性、効率を追求するとともに、新たな分子群の創出に応える新しい分子変換法の開発を目指しています。触媒設計と反応開発を軸に低環境負荷を実現し、新たなケミカルスペースを生み出す高度分子変換プロセスを開拓し、生物活性物質や機能性物質などの創製につながる研究を展開しています。

2.興味を持ったきっかけは?

小学生の低学年の時に、父に連れられて石油プラント工場の見学をした際に、規模の大きさに驚愕して「こんな大きな工場ができるなんてすごいな!(小学生当時の思いなのでいたって単純)」という思い出が、もともと理科が大好きだったのと相まって化学(工学?)に興味を持つようになりました。当時の鮮烈な記憶が大規模工場のプラント設計がしたいとの思いに繋がり、中高と進学しても尾を引いて大学受験の志望校選びにも大きく影響しました。その当時、化学工学の研究で名を馳せていた東京工業大学を進路先に定め、めでたく合格することができました。ただ、大学での化学工学の講義は流体力学、熱移動、製図(プラントの設計図面)など、化学工学の基礎はあまりにも地味で(教鞭をお取りいただいた先生方、大変申し訳ありません)、むしろ大学1年生の前期から始まっていた専門教育の有機化学に興味を持つようになりました。炭素、水素、酸素、窒素など限られた元素しか扱っていないにも関わらず、様々な構造を取り、かつ反応形式も多種多様で、各元素を切ったり貼ったりすることが自在にできるのではと錯覚すらしてしまう有機化学が素晴らしく魅力的に見えました。教鞭をとられていた先生の講義が面白かったこともあり、研究室を選ぶ際はその先生の魅力に惹かれて決めました。幼いころから思い描いていた夢とは随分違った路を選ぶことになりましたが、研究室のHPのトップ画面に掲げている通り「自ら創成した分子で世界を変えてみないか」を追求できる有機化学に限りない魅力を感じています。

3.メッセージ

今も昔も変わらない研究者マインドの根幹「失敗のないところに創造はない」をメッセージにしたいと思います。これまで誰も試みていない新しいことに挑戦すれば、当たり前ですがそう簡単にはうまく行きません。望むことが起きない(=これを一般には「失敗」と呼ぶ)ことの方が圧倒的に多いことは、研究者であれば誰しも経験していることかと思います。新しいことに挑戦したからこそ失敗があるわけで、言い換えれば「挑戦のないところに創造はない」の方が直接的なのかもしれません。ただ、「失敗を恐れるな」という意図が明確に伝わる冒頭の「失敗のないところに--」の方が、私たち研究者が本来持っているべきマインドに相応しいと思います。成果主義に走ると「失敗を恐れて」すぐに成果につながるようなこぢんまりとしたことに手を染めてしまいがちです。その戒めを自身にも課す上で、敢えてこのメッセージを皆さんに届けたいと思います。答えの用意されていない問いに、自らの気力と知力をかけて「失敗を恐れずに」挑戦し続けること、その上で成し遂げた成果は皆さんにとって何にも代えがたい大きな財産になります。なぜならその過程で得た経験は必ずや皆さんの血となり肉となり自らの成長につながるからです。