その美しい光景に魅了されました。これがプランクトンだったのです。

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

占部城太郎

1.現在、どんな研究をしていますか?

水生生物に関する研究をいろいろとしています。学生時代からずっと行っているのは、湖沼のプランクトン群集に関する研究で、種組成や個体群密度、つまり群集構造がなぜ湖沼によって異なるのか、その機構について生物間相互作用や集水域との関係、さらには人間活動や気候変化の影響など、様々な視点から解析を行っています。東日本大震災以後は、仙台湾沿岸の生物群集への津波影響とその回復過程も調べています。沿岸の生物群集は生物間相互作用や環境要因だけでなく、偶然の要素にも強く影響されていることが分かってきました。その他、全国河川の低次生産や生態系機能など、一般の方にはわかりにくい研究もしています。分かりやすいところでは、ミジンコなど、動物プランクトンの系統分類や生物地理についての研究です。生物屋なので、種を調べることが基本です。ミジンコ類について言えば、日本列島は最終氷期に氷河に覆われなかったので系統の古いミジンコ種が分布しています。また、北米から日本に侵入したミジンコ種もいます。これらミジンコ種の系統関係や地理的分布要因、地域湖沼での適応とその遺伝的背景などを調べています。ミジンコ類をはじめとするプランクトンは、水圏生態系を支えるもっとも重要な生物群なので、その変化は私達人間社会にも大きな影響を及ぼします。そのため、日本各地のダム湖や湖沼では、定期的な調査が行われています。しかし、最近は、生物の種類をきちんと同定出来る人材が少なく、絶滅危惧種よりも、それを同定できる人材が絶滅しつつあります。そこで、情報科学の先生と共同で、AIをつかった画像解析によるプランクトンモニタリン手法の開発などにも力をいれています。湖沼や河川の研究は、高山から国外まで、世界中のいろいろなところでフィールドワークが出来るので、とっても楽しいです。

2.興味を持ったきっかけは?

今から45年前、高校生のとき、沖縄でスノーケリングする機会があり、海の生物に惹かれました。そこで、日本で始めてスクーバダイビング(軟式潜水)導入した潜水部のある大学に進学しました。体力勝負だったので、講義そっちのけで毎日泳いでいた記憶があります。潜水技術を高めるため、夜間に潜水する訓練があったのですが、潜ってみると漆黒の闇の中に無数に光る小さな生物がいて、その美しい光景に魅了されました。これがプランクトンだったのです。そこで、水の中の生態系を支えているのがプランクトンだと気づき、もっと知りたくなって、プランクトンを研究している研究室に入りました。ところが、しばらくすると、自分は船に弱いことが分かったので、海洋学では勝負にならないだろうと思い、指導していただいた先生の進めもあって湖沼をフィールドに研究を始めました。始めてみると、湖によって動物プランクトンの種組成が全く異なっていて、なぜ異なるのか先生に尋ねてみたところ、さあ水質が違うからではないかと曖昧な答え。そこで、学生でありながら自分なりにいろいろ仮説をたて、当時は珍しい野外での実験なども行って調べたとところ、生息している魚種や量による影響であることが分かりました。魚の多いところでは、食べられにくい種が増え、魚のいないところでは餌をめぐる競争で優位な種が卓越しており、動物プランクトンの群集構造は水質ではなく捕食と競争のバランスにより決まっていたわけです。その研究成果を陸水海洋分野の国際誌に投稿したところ受理され、しかも、世界のあちこちから反響の手紙(当時はメールはなかった)や論文の請求(当時は別刷りという印刷体を研究者間で交換していた)が来て驚きました。自分の研究が世界に通用すると思い、気を良くして、そのまま研究者を続けて、現在に至っています。

3.メッセージ

自然界の森羅万象の理由を紐解くことはとっても楽しい作業だと思います。なぜだろうと思う好奇心は大切ですが、どうしたらその疑問が解決するか、想像力と創造力を併せ持つことのほうが大切です。先生の言うことは、だいたいいい加減なので、言葉を真に受けず、想像を開始するための糸口と考えましょう。しかし、良い想像のためは、これまでの知見を知り、思い描いた仮説をだれかと議論することが必要です。疑問と議論こそ、森羅万象に対する創造力の源泉だと私は思っています。