東北大学 大学院 理学研究科・理学部|アウトリーチ支援室

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2017年3月24日レポート

3月7日(火) 電子光理学研究センター 清水肇教授 最終講義

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 3月7日(火)、電子光理学研究センター三神峯ホールにて、清水肇教授の最終講義「カイラル相転移前駆現象探索の道程」が行われました。
 清水先生は核物理(クォーク核物理)の研究に従事され、また、理学部附属原子核理学研究施設(核理研)が独立部局として電子光理学研究センターに改組した2009年12月から2015年3月まで、初代センター長を務められました。
 講義では、清水先生の生い立ちや、核物理研究の道に進むことになった学部生時代のエピソード、これまでの研究成果などをお話されました。冒頭で「たくさんの人たちに支えられ、大変感謝している」と清水先生がご挨拶され、さらに発表スライドやお話の中で清水先生とこれまでご縁があった方々のお名前がたくさん登場していたことがとても印象的でした。軽妙な語り口であっという間の90分でした。
 清水先生の今後のご健勝とますますのご活躍をお祈りいたします。

清水先生よりメッセージをいただきました
 
電磁カロリメータBGOegg建設の想い出

 私は、学位取得後から今日までに幾つもの大学を渡り歩きながら研究・教育に携わってきました。アメリカ合衆国Argonne National Laboratoryに研究員として3年、東工大の助手を4年、山形大では助教授・教授として10年、阪大核物理研究センターに2年、そして東北大で15年の年月を過ごしました。この間、クォーク核物理という比較的新しい研究分野の開拓に身を投じてきました。
 研究対象は、クォークで構成される粒子ハドロンと、そこに働く強い相互作用に関わる現象です。それは、量子色力学(QCD)で記述される世界ですが、非摂動領域のQCD現象が研究対象であり、難解な研究分野です。非摂動的に決められたQCD真空の励起状態としてハドロンを捉えると、ハドロン構造の研究とQCD真空の研究とは相互規定的だということになります。このような非摂動領域の研究の突破口は正に実験によって拓かれるという想いを強くして、そのための実験の立案と準備を進め、今日に至りました。そう簡単には結果は得られないであろうことは覚悟の上で、この分野の研究を進めてきましたが、案の定、ここまでに大した成果を挙げるに至っておりません。長い歳月を費やして、今ようやく光が見えてきたところなのです。しかし、悔いは全くありません。すぐに結果が得られる研究もあれば、なかなか結果が出ない研究もあります。学術的研究には色々なパターンがあって然る可なのです。
 QCD真空の研究に必要な4π電磁カロリメータ(後にBGOeggと命名)の建設を決意したのは20年ほど前のことです。それ以来、コツコツと準備を進めて参りました。このカロリメータは、一本1~2kg程度の大きさのシンチレーション単結晶1000本以上で構成されるために、非常に大きな予算が必要となりました。ちょうど今から10年前の2007年に運良く建設のための予算を獲得し、建設準備を開始しました。そこに至るまで、苦節10年。この大型予算獲得には、多くの方々の力添えがあったことを後で知りました。物理学の分野で強力に後押ししていただいたのみならず、化学や地球物理学など、他の研究分野の人々からの支援もあり、そのお陰で採択されました。関連の皆様に改めて御礼申し上げると共に、そのような後ろ盾を得られたことは誠に運が良かったと言う他はありません。
 当初、BSO単結晶による4π電磁カロリメータ建設を目指しました。BSOとは、Bismuth Silicate (Bi4Si3O12)のことで、既にシンチレーション単結晶として開発されていましたが、20年前には大型の単結晶を造る技術はまだありませんでした。結晶育成の専門家と共に約5年の歳月を費やして2002年に世界最大のBSO単結晶の育成に成功し、BSO大型化の技術を確立しました。電磁カロリメータ建設に際し、この技術を中国とロシアに持ち込み、大型BSO単結晶の大量生産を試みましたが、これが時間切れ失敗に終わり、BSO単結晶を用いることを断念しました。こうして、BSOに代わり、大型結晶大量生産の手法が確立しているBGO(Bismuth Germanate Bi4Ge3O12)単結晶1320本による4π電磁カロリメータBGOegg建設に向けた準備が開始されたのです。当初の計画から遅れること2年。
 5年間の研究の区切りの中で、最終年度を迎える直前に遭遇した東日本大震災は正に青天の霹靂であり、これによってあらゆる実験装置が破壊されました。就中、加速器が破壊されたために、その一部撤去・放射化物分別と復旧には約2年の歳月を要しました。山積みにしてあった鉛ガラス検出器が大部分破損するという状況の中で、組み込み直前であった1320本のBGO単結晶は不幸中の幸いなことに奇跡的に無傷でした。こうして、BGOeggは、震災復旧作業の最中、震災半年後から建設が再開され、それから約1年後に完成しました。
 BGOeggは数GeV領域のγ線検出器として世界最高のエネルギー分解能を示しています。現時点で、核媒質中でγ崩壊するη'メソンを世界最高の質量分解能を以て捉えており、核媒質中を伝播するη'メソンのスペクトル函数の直接測定が可能となっています。これにより、QCD真空の構造を知る突破口が開かれるものと期待しています。誰も知らない、BGOeggでしか測れない事象を発見する度に、研究者としての喜びを感じる今日この頃です。ここまで、苦節20年。定年を迎えましたが、私の研究は正にこれからが本番です。

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電子光理学研究センターの村松憲仁先生より
清水先生へのメッセージをいただきました  

 清水先生は、長年にわたり、クォーク核物理とその関連分野の研究を続けられ、ハドロン・原子核物理学の発展に大きく貢献されてきました。核物理コミュニティの活動においても数々の委員を務めてこられ、長年の研究活動を通して多数の人材を育成されてきました。電子光理学研究センターでは、初代センター長として、大学の枠を超えた共同利用・共同研究拠点の構築に御尽力され、震災後のセンターの復興に強いリーダーシップを発揮されたことは記憶に新しいところです。
 私自身は、先生が立ち上げられた電子光理学研究センターやSPring-8における共同研究プロジェクトを通して一緒に研究活動をさせていただき、多くのことを学ばせていただきました。実験装置の製作や実験の計画・進行における先生の情熱とこだわりは後進の誰もが強く感じるところで、細部や将来性に対して理を持って考え尽くすことの大切さを教えていただきました。最終講義では、長年の研究生活の中で我々の想像以上に数多くの実験装置を各所に残してこられたことをお聞きし、先生の研究姿勢のルーツについて納得しました。また、共同研究プロジェクトを進める上で生じた数々の問題を一緒に議論させていただいた経験は、私にとっていい思い出であり財産です。
 これまでも物理のアイデアを楽しそうに語られる先生のお姿が印象的でしたが、今後はいっそう悠々自適に研究活動を続けていきたいという強い御意思をお聞きしています。感謝の気持ちとともに、今後ともよろしくお願い致します。


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