東北大学 大学院理学研究科・理学部

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セルロース分子を"繋ぎ換える"新規酵素「セルロースエンド型転移酵素(CET)」を発見!

発表のポイント


● 植物が、成長や免疫、栄養の基礎となる「細胞壁」をつくるための新しいしくみを解明。

● 地球上最大のバイオマスである植物細胞壁から新規素材を作るための革新的な技術開発の道を拓く。



概要


 文部科学省科学研究費補助事業である新学術領域研究「植物細胞壁の情報処理システム」の研究プロジェクトの中で、領域代表の西谷和彦教授(東北大学)のグループは、五十嵐圭日子准教授(東京大学)と上田実教授(東北大学)の研究グループと共同で、セルロース(注1)分子をつなぎ換える酵素(注2)を発見し、セルロースエンド型転移酵素(Cellulose Endo-Transglycosylase;CET)と名付けました。CETの発見は、植物の成長や免疫・栄養のしくみに関する従来の考え方を覆すだけでなく、これまで不可能とされていたセルロース分子を植物自身の酵素によって修飾したり改変したりすることが原理的に可能となり、天然セルロース分子を、常温常圧下の、安全な水溶液中で、自在に加工し、付加価値をもった天然素材を創出する道が拓けました。この成果は4月26日にScientific Reportsに掲載されました。

20170426_100.png 図:キシログルカン分子同士、またはキシログルカンとセルロースの繋ぎ換えをおこなう酵素活性(XET, CXE)は、これまでも知られていました。今回シロイヌナズナより発見した酵素は、これまで"あり得ない"とされていたセルロース同士を繋ぎかえる働き(CET活性)をもちます。

□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明


 植物の細胞は、葉緑体を持ち、細胞壁に囲まれているなどの点で、動物の細胞とは決定的に異なる形と働きを持っています。細胞壁は、植物細胞の形を決めたり細胞の成長を制御したりするだけでなく、植物の免疫や栄養、乾燥環境への抵抗性など、陸上で植物が生存する上で必須の重要な役割を担っています。

セルロースと細胞壁の関係
 セルロースは、植物細胞壁の約半分を占める主要な成分であり、地球上で最大のバイオマスですが、そのほとんどが陸上植物によって作られています。光合成の過程で植物は、まず葉緑体で二酸化炭素(CO2)を固定してグルコースを作り、グルコースを長く(数千から数万個)繋げてセルロースを合成します。作られたセルロースは数十本が束になってセルロースナノファイバー(CNF、セルロースミクロフィブリルとも呼ばれる)として細胞壁の骨組みとなるのです。CNFは、物理的には鋼鉄以上の引っ張り強度を持ち、化学的にも非常に安定で容易に分解されない特性を持っています。この性質から、人類は有史以前から、セルロースを豊富に含む植物細胞壁を、材木、繊維、紙として使ってきました。また、食ベ物の食感や、機能性食品の効能を決めるのも、セルロースを主成分とする植物細胞壁なのです。
 一方、キシログルカンは、セルロースと構造がよく似た細胞壁の成分で、セルロースと接着して、その働きを補佐すると考えられています。

セルロースを"繋ぎ換える"酵素発見の意味
 植物細胞壁中には、セルロース分子以外にもセルロース分子とよく似た「キシログルカン(注3)」という成分が存在します。これまではこのキシログルカンがセルロースの束と束の間を"繋ぎ留める"働きをしていると考えられてきました。西谷教授らは、1992 年にキシログルカン分子を繋ぎ換える酵素を世界に先駆けて発見し、その後、この酵素がエンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素ファミリー(XTHファミリー)(注4)という蛋白質のグループに含まれることも明らかにしていました。
 今回CET活性を持つことを発見したシロイヌナズナの新規酵素も、このXTHファミリーと呼ばれる酵素の仲間の一つです。

今回の発見の経済的・産業的な意義
 現代のように科学が進んだ社会になっても、人類はセルロースを人工合成することができないため、植物がすでに細胞壁に蓄積したセルロースを使うしか方法がありません。しかし、植物の中で物性を変化させることが可能になると、セルロースの利用価値を紙や綿、材木を超えた高機能素材へと高める新技術の端緒になります。特に今回の発見は、常温常圧の水溶液中で、安全な植物の酵素によってセルロースから新素材を作り出すことができる道を拓いた点で、産業化に向けた重要なハードルを越える成果であると言えます。

研究プロジェクト
 この研究は、平成24年度文部科学省科学研究費補助事業として推進してきた新学術領域研究「植物細胞壁の情報処理システム」(領域代表者 西谷和彦教授 東北大学)の主要成果の一つです。



用語解説


(注1)セルロース
 グルコース分子がグルコシド結合で直線状に繋がった不溶性の高分子で、植物の細胞膜の上で合成されるとたちまち、数十本程度が細長い結晶となり、強靱で微細な繊維となる。これが植物の細胞の周辺に多数沈着して、細胞壁の骨格となる。セルロースに作用する酵素はこれまで、セルロースを加水分解するセルラーゼのみと考えられてきたが、今回の発見で、セルロース分子を切断するだけでなく、セルロースを繋ぎ換える酵素が存在することがわかった。このような酵素のはたらきによって、セルロースは一旦作られた後も、細胞壁の中でその構造を変えていると考えられる。

(注2)酵素
 数百のアミノ酸が繋がった蛋白質の一種で、化学反応を触媒(促進)する性質を持ったもの。ほとんどの生命活動は、この酵素の働きで進む。酵素は遺伝情報に基づいて、細胞質で合成され、働く場所に運ばれる。今回の実験に用いられたXTH3は細胞質中で作られた後、細胞膜の外側の細胞壁中に運ばれ、そこでセルロースに作用すると考えられる。

(注3)キシログルカン
 グルコースが一直線に繋がったセルロース分子に、キシロースなどの別の糖分子が側鎖として結合したひも状の多糖類分子。側鎖があるため、セルロースのように結晶化して束になることはないが、セルロースと構造が類似しているため、セルロースと水素結合(弱い分子間の相互作用)で接着する性質がある。

(注4)XTHファミリー
 キシログルカン分子間の繋ぎ換え反応、または切断反応を触媒し、細胞壁の構築や再編過程で中心的な役割を担う酵素のグループのこと。一つの植物種は約30種のXTH蛋白質をもつ。今回発見したシロイヌナズナの新規酵素もこのグループに属す。



研究手法


 セルロースという水に溶けない分子の繋ぎ換え反応の実証はこれまで困難でした。今回の研究では、可溶性のセルロースオリゴ糖やリン酸セルロースなどを用いて、質量分析や液体クロマトグラフィーにより反応産物を解析する方法を考案することにより実証することに成功しました。



論文題目


題目: The plant cell-wall enzyme AtXTH3 catalyses covalent cross-linking between cellulose and cello-oligosaccharide.
著者: Naoki Shinohara (東北大), Naoki Sunagawa(東京大), Satoru Tamura (東北大), Ryusuke Yokoyama (東北大), Minoru Ueda(東北大), Kiyohiko Igarashi(東京大),Kazuhiko Nishitani(東北大)
雑誌: Scientific Reports
URL:http://www.nature.com/articles/srep46099



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科
担当 西谷 和彦(にしたに かずひこ)
電話番号:022-795-6700
Eメール:nishitan[at]m.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院生命科学研究科広報室
担当 高橋 さやか(たかはし さやか)
電話番号:022-217-6193
Eメール:lifsci-pr[at]grp.tohoku.ac.jp

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