東北大学 大学院理学研究科・理学部

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植物への病原菌感染に新機構 植物の病原菌感染を防ぐ画期的な薬剤の開発に期待

発表のポイント


● 植物病原菌感染の新しい仕組みの解明

● 病原菌感染と害虫に対する植物の抵抗性はコインの裏表の関係で、同時に強化することはできないとされていたが、それを復す発見

● 植物の病原菌感染を防ぐ画期的な薬剤の開発につながる

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図1:コロナチン(注1)は植物の気孔孔辺細胞に作用する。



概要


 世界の農作物生産量の15%は病害によって失われており、これは5億人分の食料に相当します。病害による農作物損失の解決は世界的課題です。

 植物病原菌は、葉の表面の開口した気孔から植物体内に侵入して感染します。これに対して植物は、気孔を閉鎖して感染を防ぎます。さらにこれに対抗して病原菌は、病原因子を分泌して気孔を再開口させ、体内に侵入します。病原因子は植物の虫害に対する抵抗性機構を占拠して作用するため、その作用を抑えて感染に対する抵抗性を高めると、虫害に対する抵抗性が低下するというジレンマがありました。

 東北大学大学院理学研究科 上田実教授、理化学研究所袖岡有機合成化学研究室/環境資源科学研究センター 袖岡幹子主任研究員/グループディレクター、名古屋工業大学材料科学フロンティア研究院 築地真也教授らは、病原因子の気孔再開口作用に、これまで知られていた機構以外にも小胞体の関与するバイパス機構が関与することを発見しました。新規機構は、虫害への抵抗性には影響しないことから、この新規機構に基づいて、植物の病原菌感染を防ぐ画期的な薬剤の開発が期待されます。


□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明


1.背景
 食糧増産は、現代の人類に課せられた重要課題です。国際食糧農業機関(FAO)によると、2050年までに世界人口は92億に達し、食糧供給と需要のギャップは拡大すると予測されています。現在、世界中で約10億人の人々が食糧不足に陥っており、今後40年間に70%の食糧増産が必要とされています。一方で、世界における農作物の予定収穫量の15%は病害によって失われており、これは5億人分の食料に相当します。耕地面積の拡大を期待できない以上、これらの損失の抑制は世界的規模での課題です。

2.これまでの知見と不可避な問題点

 植物病原菌Pseudomonas syringaeは葉表面に付着し、開口した気孔から植物体内に侵入して感染します(図1)。これに対して植物は、免疫応答として気孔を閉鎖し感染を防護します(気孔防御)。さらに気孔防御に対抗し、病原菌は感染因子コロナチンを分泌して気孔を再開口させ、体内に侵入します(図2)。コロナチンは植物の虫害に対する抵抗性をコントロールするCOI1-JAZ機構(注2)を占拠して作用するため、COI1-JAZ機構を抑えて病原菌感染に対する抵抗性を高めると、虫害に対する抵抗性が低下するというジレンマがありました。

3.今回の成果
 東北大学大学院理学研究科 上田実教授、理化学研究所袖岡有機合成化学研究室/環境資源科学研究センター 袖岡幹子主任研究員/グループディレクター、名古屋工業大学材料科学フロンティア研究院 築地真也教授らは、独自に開発した感染因子コロナチン立体異性体の示す生物活性の詳細な解析と、アルキンタグ生細胞ラマンイメージング技術(ATRI)(注3)によるコロナチンのシロイヌナズナ気孔孔辺細胞中での局在性解析によって、その気孔再開口作用が小胞体の関与する新規機構(ER機構)に基づくことを明らかにしました。植物細胞の生細胞ラマンイメージングは、シロイヌナズナの葉緑体形成不全変異体arc-6を用いることで初めて実現できた新技術です。

4.社会的意義と将来の展望
 細菌感染と虫害に対する植物の抵抗性は、互いにコインの裏表の関係にあり、片方を強化するともう片方が弱体化するというジレンマがありましたが、これを復す発見と言えます。この新規機構に基づいて、植物の病原菌感染を防ぐ画期的な薬剤の開発が期待されます。



用語解説


(注1)コロナチン
 植物病原菌Pseudomonas syringaeが生産する小分子。1970年代に植物毒素として発見されたが、その後、病原菌の感染因子としての作用が発見された。

(注2)COI1-JAZ機構
 植物が害虫による食害を受けた際などに各種の防御応答反応を誘導する機構。植物ホルモンのジャスモン酸イソロイシンが、COI1-JAZ受容体に結合することで誘導される。コロナチンは、ジャスモン酸イソロイシンの代わりにCOI1-JAZ受容体に結合することで、この機構をハイジャックすることができる。

(注3)アルキンタグ生細胞ラマンイメージング技術(ATRI)
 三重結合(アルキン)は、細胞内の生体分子とは異なる領域にラマン吸収を与える。これを利用して、アルキンを結合させた分子を細胞内に投与して、その局在性を観察する技術。



参考図


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図2:植物病原菌は、コロナチンによって気孔を再開口させ、感染する。



論文情報


雑誌名: ACS Central Science
論文タイトル:Non-canonical function of a small-molecular virulence factor coronatine against plant immunity: An In vivo Raman imaging approach
著者:M. Ueda, S. Egoshi, K. Dodo, Y. Ishimaru, H. Yamakoshi, T. Nakano, Y. Takaoka, S. Tsukiji, M. Sodeoka
DOI番号:10.1021/acscentsci.7b00099
URL:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acscentsci.7b00099



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科化学専攻
教授 上田 実(うえだ みのる)
電話:022-795-6553
E-mail:ueda[at]m.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話: 022-795-5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp

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