東北大学 大学院理学研究科・理学部

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宇宙のプラズマから電波が生まれる瞬間の特定に成功

 名古屋大学宇宙地球環境研究所(所長:草野完也)の小路真史特任助教、三好由純准教授、東北大学大学院理学研究科の加藤雄人准教授、東京大学大学院理学系研究科の桂華邦裕助教、笠原 慧准教授、京都大学生存圏研究所の中村紗都子研究員、大村善治教授らの研究グループは、日米の国際共同研究により、NASAの科学衛星「THEMIS衛星」注1の観測データから、周波数1Hz程度の電波が、宇宙のプラズマの中から発生する瞬間の観測に成功しました。研究グループは、独自のアイデアにもとづいて新しい解析手法を開発し、数秒程度で発生・消滅する宇宙空間のイオン群の穴の検出に世界で初めて成功しました。この発見により、宇宙に存在するイオン群の中に穴ができることによって、宇宙のプラズマの中で自発的に電波が生みだされていることが実証されました。

 本研究グループが開発した手法は、平成28年12月にJAXAによって打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」注2に応用され、宇宙に存在する電子によって作り出される電波の発生過程を明らかにします。また、宇宙に存在する様々な種類の電波が生まれる仕組みを解明するのに活用されていくことが期待されています。

 この研究成果は、平成29年9月14日付(米国東部標準時間(夏時間)10時)米国地球物理学連合の発行する論文速報誌「ジオフィジカル リサーチ レターズ」電子版に掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト



発表のポイント

1) ジオスペース注3のプラズマにおける新しい解析手法の開発
ジオスペースの電波が生まれてくる瞬間を特定することが可能となります。

2) ジオスペースの電波の発生場所の特定と発生メカニズムの解明
ジオスペースの電波の一種である「電磁イオンサイクロトロン波動」注4の発生源の特定とジオスペースのプラズマ分布の観測を新しい手法で解析することによって、発生メカニズムの解明に成功しました

3) 宇宙環境の理解への貢献
同様の手法でジオスペース探査衛星「あらせ衛星」の精密な観測データから長年謎とされてきた宇宙電波の一種であるホイッスラー波動・コーラス注5の発生原因を解明することが期待されます。さらに宇宙のプラズマと電波の相互のつながりを解明することによって、放射線やオーロラが変化する仕組みを明らかにし宇宙天気予報に活用することも期待されます。



研究背景と内容


 ジオスペースのプラズマからは、様々な電波が発生しており、プラズマの分布やエネルギーを変えてしまうことが知られています。特に周波数1ヘルツ程度の「電磁イオンサイクロトロン波動」と呼ばれる電波は、放射線(放射線帯の電子)の分布を変えたり、オーロラの発生に寄与したりすると考えられています。しかし、これまで、プラズマの中から電波が発生する瞬間は観測では捉えられていませんでした。

 名古屋大学宇宙地球環境研究所の小路真史特任助教、三好由純准教授(宇宙プラズマ物理学)を中心とする国際共同研究グループは、電波とプラズマの位相関係からプラズマ分布の揺らぎを特定し、相互のエネルギー授受を求める新しい解析手法を開発しました。NASAの科学衛星「THEMIS」のデータを、本手法を用いて詳細に分析することによって、「電磁イオンサイクロトロン波動」の発生する瞬間を特定することに成功しました。そして、電波が発生しているときには、その場所に存在するイオン群の中に、数秒間だけ存在する左右非対称な穴(ホール)が作り出されることを発見しました。また、この穴の存在によって、イオン群のエネルギーが電波を生み出していることを実証しました。

 本研究グループが開発した手法は、今後、宇宙プラズマの中で発生している様々な種類の電波の分析に応用されていくことが考えられています。特に、昨年12月に打ち上げられたJAXAの科学衛星「あらせ」の観測データに適用することによって、明滅するオーロラを作り出している起源といわれる、周波数数千ヘルツの電波:「ホイッスラー波動・コーラス」が生まれる様子が解明されることが期待されています。



用語説明


注1 THEMIS衛星
NASAが2007年に打ち上げた人工衛星。周囲のプラズマ環境及び電磁場を同時に観測することが可能。

注2 ジオスペース探査衛星 あらせ
宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所が2016年12月にイプシロンロケットで打上げた人工衛星。放射線帯の電子の数が変化する仕組みの詳細が解明されることが期待されている。

注3 ジオスペース
高さ400kmから約10万kmの間の宇宙空間には、プラズマ(電気を帯びた粒子群)が存在している。このプラズマの分布が変化することにより、オーロラの活動が変化したり、また宇宙空間の放射線(放射線帯と呼ばれる領域のエネルギーの高い粒子群)が変化したりする。

注4 電磁イオンサイクロトロン波動
宇宙空間で自然発生する電波の一種。宇宙空間に存在する高温イオンの磁力線周りの旋回運動と共鳴することでエネルギーを得て発生すると考えられており、地球周辺では1Hz程度の周波数を持つ。

注5 ホイッスラー波動・コーラス(コーラス)
「コーラス」とも呼ばれる宇宙空間に自然に存在する、電子の旋回運動と共鳴する電波の一種。周波数が数kHzの可聴帯の電磁波で、第一次世界大戦のころから、"小鳥のさえずり"にように聞こえる電波として知られている。



論文名


題目:Ion hole formation and nonlinear generation of Electromagnetic Ion Cyclotron waves: THEMIS observations
著者:小路真史(名古屋大学)、三好由純(名古屋大学)、加藤雄人(東北大学)、桂華邦裕(東京大学)、Vassilis Angelopoulos (カリフォルニア大学ロスアンゼルス校)、笠原慧(東京大学)、浅村和史(宇宙航空研究開発機構)、中村紗都子(京都大学)、大村善治(京都大学)
掲載誌:米国地球物理学連合速報誌: Geophysical Research Lettersに平成29年9月14日に掲載
DOI: 10.1023/2017GL074254.



研究チーム


小路 真史       名古屋大学宇宙地球環境研究所 特任助教
三好 由純       名古屋大学宇宙地球環境研究所 准教授
加藤 雄人       東北大学大学院理学研究科 准教授
桂華 邦裕       東京大学大学院理学系研究科 助教
V. Angelopoulos    カリフォルニア大学ロスアンゼルス校 教授
笠原 慧        東京大学大学院理学系研究科 准教授
浅村 和史       宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 助教
中村 紗都子      京都大学生存圏研究所 研究員
大村 善治       京都大学生存圏研究所 教授



参考図


20170915.jpg

地球周囲の宇宙空間であるジオスペースにおける自然電波発生の様子。図左下はNASAの科学衛星THEMISで観測された磁場のスペクトルで、14:40前後に周波数が上昇する電波(電磁イオンサイクロトロン波動)が観測されている(白点線で強調)。中央はイオンと電波の共鳴の模式図。右上図は電波発生の理論的に示唆される電波発生時のイオン群の分布で、図面右寄りに薄い密度の穴(青色で表現)が現れる。右下図が、THEMIS衛星が捉えたイオンの穴で、右上図の低密度領域に対応する。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地球物理専攻
准教授 加藤 雄人(かとう ゆうと)
電話 022-795-6516
E-mail: yuto[at]stpp.gp.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋亮(たかはし りょう)
電話 022-795-5572、022-795-6708
E-mail: sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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