東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

小惑星衝突の「場所」が恐竜などの大量絶滅を招く -衝突場所により、すすが引き起こす気候変動の規模に変化-

発表のポイント

● 堆積岩中の有機物が多い場所に小惑星が衝突し、有機物の燃焼により発生したすすが気候変動を引き起こし、恐竜などの大量絶滅が起きた。

● 衝突場所の有機物量によって、陸上気温や海面水温の低下量は様々。

● 堆積岩中の有機物が多い場所は海の縁辺域の狭い領域に限られるため、小惑星が地球に衝突しても、大量絶滅が起きる確率は低かった。



概要


 一般に、大きな小惑星が地球へ衝突すると生物の多くが絶滅すると考えられています。実際に、6600万年前の白亜紀末に直径10 km程度の小惑星が地球へ衝突し、恐竜など75%以上の動物の種(しゅ)が絶滅したことが知られています。東北大学大学院理学研究科地学専攻の海保邦夫教授と気象庁気象研究所の大島長主任研究官は、直径10 km程度の小惑星が地球へ衝突した場合でも、このような大量絶滅*が常に起きるとは限らず、その確率は1割程度と低かっただろうという考察を発表しました。また、同じ小惑星でも衝突する場所により、気温低下がほとんど起きない場合から地球全体の月平均気温が11℃程度低下する場合まであることが分かりました。

 これは、6600万年前の小惑星の衝突した場所が少しずれていたら、恐竜などは絶滅せず、中生代の生物の世界が今も続いていたかもしれないということです。

 本研究の成果は平成29年11月9日14:00(英国時間)付けで、Scientific Reports 誌に掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト



20171110.png

図1:オレンジ色の部分に直径 9 km の小惑星が衝突した場合に大量絶滅が起きたと推定される。実際は6600万年前に黒星印の地点(メキシコのユカタン半島)に小惑星が衝突した。論文にはより詳しい図が載っています。(©海保邦夫)



詳細な説明


 約6600万年前に地球に衝突した小惑星が、堆積岩中の有機物を熱し、それにより生成されたすすが成層圏中に放出され、地球全体を取り巻くことで、地上や海上に届く太陽光を遮り、地上気温と海水温の低下、低緯度での干ばつを引き起こし、恐竜やアンモナイトなどが絶滅したとする研究成果が、同グループにより2016年7月に発表しました。
(参考:http://www.sci.tohoku.ac.jp/news/20160715-7973.html

 その後、海保教授は、すすの元である堆積岩中の有機物量が絶滅の決め手になると考え、当時の堆積岩中の有機物量の地球上の分布を調べました。その結果、有機物量は場所によって3桁も異なり、少ない量の地域が大部分を占めることを突き止めました。堆積岩中の有機物量が少ない地域に小惑星が衝突した場合、放出されるすすの量も少ないので、気温低下も少ないことになります。

 大島主任研究官は、気象研究所の気候モデルによる計算を実施し、成層圏中のすす量に応じた気候変動を調べました。海保教授は、すす量と気温の低下量の関係を用いて、白亜紀末の場合、大量絶滅を起こすのは、図1のオレンジ色の範囲(地球表面の13%の範囲)に小惑星が衝突した場合であると結論づけました。これらの地域は、海の縁辺域だったところです。海の縁辺域では、一般に生物生産が盛んに行なわれているために有機物が濃い堆積物が多く、また地下には過去40億年間に海や湖水で堆積した堆積岩があり、その中に生物が残した有機物が大量に含まれているために堆積岩も厚くなります。そのような有機物量が多い場所に小惑星が衝突した場合は、衝突の熱により有機物の一部から大量のすすが生成されることにより、陸域と海上とを合わせた地球全体の月平均気温で最大8℃から11℃程度の低下が起きると推定されました。また、有機物量が少ない海洋などの地球表面の68%の地域に衝突した場合は、0℃から4℃の気温低下が起きると推定されました。

 前者は大量絶滅が起きるケースです。後者を含むそれ以外のケースでは、大量絶滅が起きず、生命史が変わっていた可能性があると考えられます。

 本研究は、日本学術振興会・科学研究費助成事業(JP22403016, JP25247084, JP26701004, JP26241003, JP16H01772)および(独)環境再生保全機構・環境研究総合推進費(2-1403, 2-1703, S-12)の助成を受けて行われました。



今後の展望


 今後は、過去、未来にかかわらず、衝突によってどのくらいの規模の寒冷化事件がどのくらいの頻度で起きるのかが解明されることが期待されます。また、このような大規模な現象を計算することで、気候モデルに関しても多くの知見が得られました。この知見は、大規模火山噴火が起こった際の気候影響評価に活用できます。過去に発生したことが示唆されている大規模火山噴火に伴う大量絶滅の際の気候変動についても明らかにできると期待されます。



用語説明


* 大量絶滅
 動物の種(しゅ)の大部分がいなくなること。多細胞動物が現れて多様化してからの約6億年間に5回ほど起きている。



発表論文


Kunio Kaiho, Naga Oshima, Site of asteroid impact changed the history of life on Earth: the low probability of mass extinction. Scientific Reports, 7, (2017)
(URL: www.nature.com/articles/s41598-017-14199-x, DOI: 10.1038/s41598-017-141990-x)



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科地学専攻
教授 海保 邦夫(かいほ くにお)
電話:022-795-6615
E-mail:kaiho[at]m.tohoku.ac.jp

<気候モデルに関すること>
気象庁気象研究所企画室(広報担当)
電話:029-853-8535
E-mail:ngmn11ts[at]mri-jma.go.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022−795−5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る