東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

光で磁石の性質を消す ~磁石の起源を担う力が光で正反対となる原理~

20da3319b9fd507c38e181b6ca120c5663f8368c.png

磁石に強いレーザーを当てることで、スピンの向きが反平行となり、磁石としての性質が瞬時に失われる。矢印は電子スピンの向きを表す。



発表のポイント

● 磁石に光をあてることで、電子スピン(注1)の配列を反対向きにして磁石の性質を瞬時に失わせる原理を解明することに成功

● 発見以来半世紀以上、磁石の性質を担うと考えられていた力が、光をあてることで正反対の性質を示すことを発見

● スピントロ二クス(注2)分野において、高速で双方向なスピン制御への貢献が期待される



概要


 東北大学大学院理学研究科物理学専攻の石原純夫教授らの研究グループは、金属磁石に強い光をあてることで、全ての電子のスピンが同じ向きに揃った配列から互い違いに逆向きの配列となり、瞬時に磁石としての性質を失うことを理論計算シミュレーションにより示すことを成功しました。

 本研究の成果は、2017年11月14日(米国東部時間)オンライン版に公開(予定)、11月17日発行(予定)の米国物理学会誌Physical Review Lettersに受理され、エディター推薦論文として選ばれました。

□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明


 KS鋼やネオジム磁石などをはじめとして、我が国は磁石の基礎・応用研究においてこれまでめざましい成果を挙げてきました。磁石では、電子の"スピン"と呼ばれる小さな磁石が全て同じ向きに配列することで全体として磁石の働きが現れます。電子のスピンをエレクトロニクスに利用するスピントロ二クス研究が近年盛んとなっていますが、スピンを効率よく素早く操作することが大容量の情報を高速に取り扱うために重要であり、その原理を明らかにすることが強く求められています。最近のレーザー技術を用いることで非常に短い時間でこれを操作できる可能性が出てきました。これまでの研究により、スピンが互い違いに並んだ絶縁体に光を当てると、すべて同じ向きに揃った金属になることがわかっていました。

 東北大学大学院理学研究科物理学専攻の石原純夫教授と小野淳(博士課程後期2年)は、その反対の操作が可能であることを示しました。つまり、電子スピンが全て同じ向きに揃った金属に強い光を当てると、互い違いに逆向きとなり、瞬時に磁石としての性質を失うことを理論計算シミュレーションにより示すことに成功しました。

 磁石において全てのスピンが同じ向きに揃うのは、平行にする力がスピンの間に働くためです。今回の計算では、レーザーを当てることで、スピンを互いに平行にする力が反平行にする力に転換したことを意味しています。磁石の性質を担っている"スピンを平行にする力"は1950年代に発見され、それ以来半世紀以上にわたって多くの磁石の現象がこの力の原理に基づいて理解されてきました。本研究では発見以来初めて、強い光をあてることでこの力が正反対の性質を示すことが明らかになりました。また、この現象がおよそ100-1000フェムト秒(およそ10兆分の1秒から1兆分の1秒)という高速で起きること、またスピン配列のトポロジー(注3)が重要な役割を果たしていることを計算により明らかにしました。

 本研究では、光により瞬時にスピンの配列を平行から反平行に操作できる原理を明らかにしました。これまでの研究により、反平行から平行にする機構はわかっています。両者を併用することで、スピンの配列を双方向に高速に操作することが可能となることが期待されます。スピンの配列と電気の流れは深く関係していますので、スピントロ二クスにおいて、超高速スイッチを利用したデバイス設計の指針を与えることが予想されます。

 本研究成果は、文部科学省科学研究費補助金「軌道物理としての励起子絶縁体の電子状態の解明」研究代表者:石原純夫、ならびに「5フェムト秒極超短赤外パルス光による強相関電子系の動的局在と秩序形成の研究」研究代表者:岩井伸一郎(東北大学大学院理学研究科教授)によって得られたものです。



論文情報


雑誌名: Physical Review Letters (Editors' Suggestion)
(フィジカル・レヴュー・レターズ (エディター推薦))
論文タイトル:Double-Exchange Interaction in Optically Induced Nonequilibrium State: A Conversion from Ferromagnetic to Antiferromagnetic Structure
(光誘起非平衡状態における二重交換相互作用:強磁性構造から反強磁性構造への変換)
著者:Atsushi Ono and Sumio Ishihara(小野淳、石原純夫)
DOI: 10.1103/PhysRevLett.119.207202



参考図


20171114_20.png

磁石に強いレーザーを当てることで、スピンの向きが反平行となり、磁石としての性質が瞬時に失われる。矢印は電子スピンの向きを表す。



動画


磁石に光を当てたときの電子スピンの数値計算シミュレーション。
URL: http://www.cmpt.phys.tohoku.ac.jp/~ishihara/files/double-exchange.mp4
© 2017 Sumio ISHIHARA ※2017年11月30日まで公開予定



用語解説


(注1)電子スピン
 電子は負の電気を帯びると共に、N極とS極からなる微小な磁石の性質をもち、これはスピンと呼ばれます。スピンの起源は相対性理論と量子力学から理解されますが、より簡単には電子の自転により生じると解釈できます。多くの磁石では全ての電子のスピンが同じ向きに配列することで、全体として磁石の性質を示します。


(注2)スピントロニクス
 パソコンやスマートフォンで利用されているダイオードやメモリなどのエレクトロニクス素子では、電子の電気的性質を利用しています。さらにスピンの性質を利用するエレクトロニクス技術はスピントロ二クスと呼ばれています。電気の正負の情報に加えてスピンの向きの情報を利用することができ、より多くの情報を取り扱うことが可能となります。電子スピンを効率よく高速で制御する技術の開発と原理の解明について、近年盛んに研究がなされています。


(注3)トポロジー
 図形や物の配列において、それらを連続に変形しても変わらない性質を取り扱う数学はトポロジーと呼ばれています。コーヒーカップとドーナツの形を比較したとき、それぞれは大きく異なりますが「穴が一つ空いている」という点に着目すると、同じトポロジーの性質を持っている図形に分類できます。2016年のノーベル物理学賞は「トポロジカル相転移と物質のトポロジカル相の理論的発見」の業績を上げた3名の理論物理学者に送られました。



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
教授 石原純夫 (いしはら すみお)
電話:022-795-6436
E-mail:ishihara[at]cmpt.phys.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022−795−5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る