東北大学 大学院理学研究科・理学部

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多層膜中を透過する光に隠れた対称性を発見 〜100万通りの構造に対し、たった11通りの透過確率〜

発表のポイント

■ ランダムに並べた多層膜中の光の透過確率が取り得る値の種類が異常に少ない。

■ 多重反射で複雑と思われていた、光の透過が一つの整数で記述できる。

□ 東北大学ウェブサイト



概要


 2種類の誘電体膜A,BをN層並べる場合の数は、2のN乗通りあるが、光の透過確率を計算すると、わずかに(N/2+1)通りしかありません(Nが偶数の場合、膜厚は波長の1/4)。米国ライス大学のHaihao Liuさん(研究当時:東北大学理学部へ短期留学中)、東北大学大学院理学研究科物理学専攻 博士課程後期3年M. Shoufie Ukhtaryさん、齋藤理一郎教授は、ランダムに並べた構造の中にも隠れた対称性があり、同じ透過確率を与えることを見出しました。これは従来の光学の多重反射の概念では説明できない結果であり、且つHaihaoさんが短期留学中の2ヶ月という短期間の研究でわかった、常識を超えた驚くべき物理の発見です。
 本研究成果は、2017年8月17日「Journal of Physics: Condensed Matter」に掲載され、2017 JPCM spotlight 論文に選ばれました。これは、J. Phys. Cond. Matt. 誌に2017年に発表された論文の中で、卓越した論文がいくつかの分野で数編ずつ選ばれるものです。選考は、審査員からの推薦、論文の内容、オンライン上での反応、などを総合的に判断して行われました。



詳細な説明


 Haihaoさんらは、AとBの2種類の誘電体多層膜(膜厚が波長の1/4)の電磁波の透過確率を計算しました(図1)。多層膜がN層ある場合には可能な多層膜の構造は2のN乗通りあります。

 電磁波は、異なる膜の境界面では反射(多重反射)が起こりますので、透過確率も、2のN乗通り考えられました。しかし、計算結果では透過確率の値は、わずかに(N/2+1)通り(Nが偶数の場合、奇数の場合はN+1)しかありませんでした(図1)。例えば、N=20だと、多層膜の構造は 220=100万通りありますが、計算で得られる透過確率はわずかに、11通りしかありません。

 これは、多層膜の中に、同じ透過確率を与えるような、隠れた対称性があることを示しています。Haihaoさんらは、この対称性を見つけ、さらに構成する多層膜に対して整数パラメータを定義し、整数パラメータを用いた透過確率の公式を導出しました。

 この結果は、試行錯誤によって発見したものですが、複雑な多重反射が、一つの整数で記述できるということを示しています。このことは従来の光学の概念にない、驚くべき結果です。



参考図


20180221.png

図1: ランダムにN枚並べたAとBの2種類の誘電体多層膜への電磁波の入射、透過、反射の概念図。iは膜のラベル、Liは膜の種類(AかB)、Iは入射する電磁波、Tは透過確率、Rは反射確率を示す。2のN乗通りのすべての構造を計算すると、透過確率が取り得る値の種類は(N/2+1)通りしかなかった。



論文情報


Authors: Haihao Liu, M. Shoufie Ukhtary, and R. Saito
Title: Hidden symmetries in N - layers dielectric stacks
Journal: Journal of Physics: Condensed Matter
DOI: 10.1088/1361-648X/aa865c
Embargo date: 15 August 2017



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科物理学専攻
教授 齋藤 理一郎(さいとう りいちろう)
E-mail:rsaito[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022−795−5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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