東北大学 大学院理学研究科・理学部

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シータオーロラの謎が明らかに

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図1.シータオーロラ(注1)が出現する時の磁気圏尾部の構造。図中左は北半球の極域に出現しているシータオーロラで、そこから磁気圏尾部に伸びる磁力線(注2)を何本か描いている。


概要


 宇宙から見たオーロラは、磁極の周りに楕円の形状をしており、オーロラオーバルと呼ばれています。そして、オーバルに囲まれた空隙の領域は、キャップと呼ばれています。太陽風の磁場(注3)が北を向いた状態で、磁場の水平成分(朝夕成分)の符号が変わると、図1に示したように、昼と夜を結ぶオーロラの棒が、キャップの中に現れます。ギリシャ文字のシータ(Θ)に似ているので、1986年にシータオーロラと名付けられました。長い間、シータオーロラの出現の仕組みが分かりませんでしたが、スーパーコンピュータで磁気圏をシミュレーションしたところ、シータオーロラを作るプラズマ(電子と陽子)が、磁気圏尾部で十字の形をしている事が分かりました。従来は、赤道面にプラズマは存在しているものと思われていましたが、南北に棒状に張り出していくプラズマ構造が、明らかになりました。この結果は、2017年と2018年に論文[1,2]として出版されました。



研究内容


 シータオーロラが発見された1980年代、筆者(小原)はこのオーロラの筋が北極と南極に同時に出現することを見出しました(Obara et al.,GRL,1988)。この時、筆者は、図1に示すような磁気圏の構造を考えました。図の左側から太陽風が地球に吹き付けて来ると、地球の磁力線は夜側に大きく流され、磁気圏という領域を作ります。そして、磁気圏の赤道領域に、うすく広がるプラズマのシート(plasma sheet)が形成されます。プラズマシートは、地球を取り囲んでいて、このプラズマが極域に降下して、オーバル状のオーロラを作っています。

 図1は、シータオーロラが出現している時の磁気圏の構造を示す図で、夜側の断面図と極域のシータオーロラ、そして、シータオーロラがどのように磁力線で磁気圏尾部とつながっているかを示したものです。筆者は、プラズマシートが磁気赤道の北側(上方)と南側(下方)のローブ(Lobe)と呼ばれる領域に張り出して行き、シータオーロラになると1988年に考えました。

 1990年代、シータオーロラの出現特性を調べて行くと、太陽風が運んでくる磁場(太陽風磁場)の南北成分が北を向き、かつ東西成分が反転すると、シータオーロラが出現する事が分かりました。2000年代になって、スーパーコンピュータの能力が大幅に向上したので、シータオーロラを計算で再現する試みを、九州大学の田中高史教授と始めました。太陽風磁場の東西成分を反転させたところ、オーロラの原因であるプラズマシートが大きく変形して、シータオーロラが生成されていく様子が分かりました(Tanaka, Obara, Kunitake, JGR, 2004)。

 今回の研究は、スーパーコンピュータの計算データを基に、磁力線の形状を詳しく調べたものです。結果は、シータオーロラの棒の部分の磁力線は閉じていて、南北の棒を結んでいることが分かりました。図2は、北半球の高緯度を夜側から見ています。手前は真夜中、向こう側が真昼、右が朝側、左が夕方側です。オーロラオーバルと1本の棒が見えます。図の中に、3種類の磁力線を色分けして描きました。シータの棒からの磁力線をマゼンダ色(THETA)で、夕方側のオーバルからの磁力線を赤色(LLCL/ELC)で描きました。今回見つかった面白い構造は、シータの棒が昼側のオーバルと接するあたりに集中しているピンク色で磁力線です。ここは、南半球の朝側オーバルから出た沢山の磁力線(LLLC/MLC)が集まってくる場所で、専門の用語では、シュテムと呼んでいます。 

 図3は、南半球の高緯度を夜側から見ています。手前(図の中央に対応)は、真夜中、向こう側(図の下側に対応)が真昼、右が朝側、左が夕方側です。オーロラオーバルと1本の棒が見えます。磁力線の色は図2と同じです。シータの棒からマゼンダ色(THETA)で、朝側のオーバルからはピンク色(LLCL/MLC)で磁力線を描きました。シータの棒が昼側のオーバルと接するあたりがシュテムで、赤色で示しています。北半球の夕方側オーバルから出た沢山の磁力線(LLLC/ELC)が集まってくる場所です。

 今回の発見は、1) シータの棒の磁力線(THETA)が、南北両半球で閉じていた事でした。そして、2) 北半球の夕方側のオーバルの磁力線が、南半球のシータの棒の昼側にシュテム構造を作っている事でした。同じことは、南半球についても言えて、朝側のオーバルの磁力線が、北半球のシータの棒の昼側にシュテム構造を作っていました。

 以上の様子を、図4にまとめています。図4は、地球の夜側から磁気圏を見た図で、横軸は赤道、上が北、下が南、右が朝側、左が夕方側です。シータの棒の磁力線(THETA)は、磁気赤道をほぼ垂直に横切り、南北両半球で閉じています。北半球の夕方側のオーバルの磁力線(LLLC/ELC)が、南半球で集中しシュテム構造を作っています。同じことは、南半球についても言えて、南半球の朝方側のオーバルの磁力線(LLLC/MLC)が、北半球で集中しシュテム構造を作っていました。

 シータオーロラの出現を、時間を追って見る事はシミューションの得意技です。シータオーロラの棒は、太陽風磁場の東西成分の反転(朝向きから夕方向き)により、朝側から現れて夕方に向かって移動します。また、逆の反転(夕方向きから朝向き)では、夕方側から現れて朝側に向かって移動します。そして、シータの棒の移動していく後方に、新しい空隙(キャップ)が出現し、シータオーロラが形成されました。

 北半球のシータオーロラの棒の朝側を詳しく見ました。図5は、北半球の拡大図です。北半球シータオーロラの磁力線をマゼンダ、朝側に広がる空隙の領域(キャップ)の磁力線を水色、朝側のオーロラオーバルの磁力線をピンクで示しています。水色の磁力線は太陽風磁場とつながっている(openになっている)事がわかりました(図6)。これは驚きでした。

 シータオーロラの成因が、スーパーコンピュータによって、概ね、明らかになりました。今度は、現実に観測されたシータオーロラについて、太陽風磁場の実測値を用いて、再現出来るか否かについて、調べたいと思っています。



発表雑誌


[1] Takaka,T., T.Obara, M.Watanabe, S.Fujita, Y.Ebihara and R.Kataoka, Formation of the sun-aligned arc region and the void (polar slot) under the null-separator structure.,
J. Gephysical Res., 10.1002/2016JA023584, (2017)

[2] 三村恭子,小原隆博,藤田茂, IMF Bz 北向き条件下におけるBy 反転時の磁気圏応答,宇宙航空研究開発機構特別資料(JAXA-SP-17-006), ISSN/ISBN 1349-113X, 9-14, (2018)



参考図


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図2.北半球のオーロラ領域の拡大図。シータの棒の磁力線をマゼンダ色(THETA)で、夕方側のオーバルの磁力線を赤色(LLCL/ELC)で、シュテム領域の磁力線をピンク色(LLLC/MLC)で描いている。ピンク色の磁力線は、南半球の朝側オーバルから出た磁力線(LLLC/MLC)である。


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図3.南半球のオーロラ領域の拡大図。シータの棒の磁力線をマゼンダ色(THETA)で、朝方側のオーバルの磁力線をピンク色(LLCL/MLC)で、シュテム領域の磁力線を赤色(LLLC/ELC)で描いている。赤色の磁力線は、北半球の夕方側オーバルから出た磁力線(LLLC/ELC)である。


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図4.地球の夜側から磁気圏を見た。水平は赤道、上が北、下が南、右が朝側、左が夕方側。シータの棒の磁力線(THETA)は、磁気圏赤道をほぼ垂直に横切り、南北両半球で閉じている。北半球の夕方側のオーバルの磁力線(LLLC/ELC)が、南半球で集中し、シュテム構造を作っている事。同じことは、南半球についても言えて、南半球の朝方側のオーバルの磁力線(LLLC/MLC)が、北半球で集中しシュテム構造を作っている。


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図5.北半球のオーロラ領域の拡大図。北半球シータオーロラ上の磁力線をマゼンダ、朝側に広がる空隙の領域の磁力線を水色、朝側のオーロラオーバルの磁力線をピンクで示している。


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図6.地球の夜側から磁気圏を見た。水色の磁力線(open)は太陽風磁場とつながっている。シータオーロラの磁力線、及び朝側のオーロラオーバルの磁力線は閉じている。


用語説明


(注1)オーロラ
北極と南極の高緯度に見られる光の発光現象。宇宙空間から大気に向かって飛び込んで来た電子が、酸素原子や窒素分子などの地球の大気と衝突し光を出す。オーロラが頻繁に観測される場所は磁気緯度60度から70度で、磁石の極を取り囲むように観測されることから、オーロラオーバル(楕円)と呼ばれている。

(注2)磁力線
地球の磁力線は、南半球の地表から上空に向かって伸びて行き、赤道を超えて、北半球の地表に入ることが多い。南北両半球をつないでいる磁力線を閉じた磁力線と呼ぶ。これに対して、磁力線が開いている状態とは、一方の端が、宇宙空間に伸びていって、地球に戻って来ない事を言う。ポーラーキャップの磁力線は、開いた磁力線である。

(注3)太陽風磁場
太陽のコロナ大気は、宇宙空間に吹き出しており、これを太陽風と呼ぶ。太陽風の正体は、電気を帯びた粒子(電子と陽子)で、プラズマである。太陽風は、太陽起源の磁場を運んでくる性質がある。よって、地球に到達する太陽風の中には、常に磁場がある。これを太陽風磁場と呼ぶ。



問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センター
教授 小原 隆博(おばら たかひろ)
TEL : 022-795-3499



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