東北大学 大学院理学研究科・理学部

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安定なケイ素版ケトンの合成に成功 純粋なケイ素-酸素二重結合の構造と反応性の解明

発表のポイント

● 純粋なケイ素-酸素二重結合を持つケイ素版ケトン(注1)を安定な結晶として取り出し、その分子構造と、反応性を実験的に明らかにした。

● 今回合成したケイ素版ケトンは、150年前から合成が追求されてきたケイ素-酸素二重結合を持つ分子で、ケイ素高分子シリコーンの単量体(注2)にあたるものでもあり、これまでその合成に必須とされてきた、ケイ素-酸素二重結合が本来持つ大きな分極を軽減させる工夫(電子的安定化)を必要としない世界初の例である。

● 地上に豊富に存在する元素(注3)であるケイ素から構成される化合物の可能性がさらに広がるものと期待される。



概要

東北大学大学院理学研究科化学専攻の岩本武明教授、石田真太郎准教授、小林良(博士課程後期2年、東北大学学際高等研究教育院博士研究教育院生2年)は、緻密な分子設計を施すことで、純粋なケイ素-酸素二重結合をもつケイ素版ケトンを安定な結晶として合成及び単離することに成功し、その分子構造とケイ素-酸素二重結合固有の高度な分極に由来する高い反応性を明らかにしました。ケイ素-酸素二重結合を持つ化合物は150年以上前から多くの化学者により合成が追究されてきた化合物であり、今回合成した化合物は身の回りの様々なところで用いられている有機ケイ素高分子であるシリコーンの単量体に相当するものです。地上に豊富に存在する元素であるケイ素から構成される化合物の結合の理解が深まるだけでなく、これらの化合物の機能物質としての可能性が広がるものと期待されます。本研究の結果は、Wiley-VCH社の一般化学雑誌である「Angewandte Chemie, International Edition」に2019年5月17日(日本時間)にaccepted article版がオンライン掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト

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詳細な説明

メンデレーエフが元素周期表を取りまとめてから今年でちょうど150年になります。周期表の中でケイ素は炭素と同じ族に位置する元素であり、ケイ素が炭素と同様な化合物を形成するのか、という課題については当時から多くの化学者により追究され続けてきました。ケイ素と酸素の間に二重結合を持つ化合物(ケイ素-酸素二重結合化合物)は、150 年以上前からその合成が追究されてきたもので、本研究で注目する化合物は、重要かつ基本的な有機化合物であるケトン(炭素-酸素二重結合化合物)のケイ素版にあたります。ケイ素-酸素二重結合は電気陰性度の差から、ケイ素が正、酸素が負に大きく分極しているため、通常は容易に重合(注4)してしまいます(ケイ素版ケトンの重合体は有機ケイ素高分子「シリコーン」として知られ、身の回りの様々なところで用いられています。このようなケイ素-酸素単結合はガラスや水晶など、どこにでも存在する化学結合です。)。近年、ケイ素-酸素二重結合を持つ化合物が合成されるようになりましたが、これまで安定に合成されたものには、この分極を軽減させる工夫(熱力学的安定化)が施されていました(図1)。ケイ素-酸素二重結合が本来持つ性質の理解には、このような結合の分極の軽減のない化合物が必要です。これまで、多くの化学者により、そのような分極の軽減のない、純粋なケイ素-酸素二重結合を持つ化合物が究極の合成目標として追究されてきましたが、いまだ達成されていませんでした。

純粋なケイ素-酸素二重結合を持つ化合物を安定に合成するのが困難であった理由は、ケイ素-酸素二重結合の性質を維持したまま、適切に重合のみを抑制する分子設計が難しかったところにあります。本研究では、立体的に大きな芳香族基を適切に配置した緻密な分子設計を施すことで、純粋なケイ素-酸素二重結合を持つ化合物(ケイ素版ケトン)を安定な結晶として取り出し、その分子構造と、ケイ素-酸素二重結合固有の反応性を明らかにすることに成功しました。

具体的には、立体的に大きな芳香族基を適切に配置した保護基を持つケイ素二価化学種(シリレン)を合成し、このケイ素上への亜酸化窒素(N2O)からの酸素原子移動反応でケイ素版ケトンを無色の結晶として合成しました(シラノン:図2)。X線単結晶構造解析により明らかにされたケイ素と酸素間の距離は1.52オングストローム(オングストロームは10-10メートル)で、これまで合成されてきた、ケイ素-酸素結合の中ではもっとも短い部類に入ります。また、この化合物のケイ素酸素周りには大きな保護基がありますが、様々な分子に対する反応性は維持されており、純粋なケイ素-酸素二重結合が本来持つ高い分極を反映した高い反応性(Lewis酸性(注5)、Lewis塩基性(注6))を示すことが明らかになりました(図3)。

本研究により、150年前から追究されてきた、純粋なケイ素-酸素二重結合がもつ固有の性質を実験的に追究することが可能になりました。地上に豊富に存在する元素であるケイ素から構成される化合物の結合の本質の理解が深まるだけでなく、これらの化合物の機能物質としての可能性がさらに広がるものと期待されます。



参考図

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図1.


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図2.


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図3.



用語解説

(注1)ケトン
炭素-酸素二重結合をもつ化合物(カルボニル化合物)の中でも炭素上に炭素置換基を持つ化合物。有機化合物の中で最も重要な官能基の一つ。

(注2)単量体
高分子を構成する単位になる低分子化合物。ケイ素高分子であるシリコーンはR2SiOが構成単位になっている。

(注3)地上に豊富に存在する元素
地上(地殻)で最も割合の多い元素は酸素(49.5%)であり、ケイ素はそれについて二番目に豊富な元素である(25.8%)。

(注4)重合
二個以上の分子が互いに結合して、分子量の大きな化合物になる反応。ケイ素高分子であるシリコーンはR2SiOが重合した構造を持っている。

(注5)Lewis酸性
電子対を受け取る性質。

(注6)Lewis塩基性
電子対を与える性質。



論文情報

雑誌名: Angewandte Chemie International Edition, Angewandte Chemie
論文タイトル:An Isolable Silicon Analogue of a Ketone that Contains an Unperturbed Si=O Double Bond
著者:Ryo Kobayashi, Shintaro Ishida, Takeaki Iwamoto
DOI番号:10.1002/anie.201905198 and 10.1002/ange.201905198



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 化学専攻
教授 岩本 武明(いわもと たけあき)
電話:022-795-6558
E-mail:takeaki.iwamoto[at]tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科広報・アウトリーチ支援室
電話:022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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