東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

植物が成長に合わせて葉の形状を変える仕組み 〜葉の形を決める遺伝子をイネで発見〜

20190731_10.png

図1. 幼若期のイネ。左から通常のイネ(野生型)、OsBOPシングル変異体、OsBOPダブル変異体、OsBOPトリプル変異体。



概要

東北大学、東京大学、東京農業大学の研究者からなる共同研究により、イネにおいて葉の形を調節するマスター制御因子(注1)OsBLADE-ON-PETIOLE (以下、OsBOP)を発見しました。OsBOPの機能解明により、葉の形態が成長に応じて変化する仕組みが初めて明らかになりました。本研究の成果は、新しい品種改良技術の創出につながるものと期待されます。



研究の背景

花を咲かせる植物は、一般的に種子から発芽し、葉を茂らせ、花をつけ、種子を結実するという成長過程を示します。発芽したばかりの幼若な時期に花をつけることはなく、個体の成長が進んで成熟してから花を咲かせるのです。桃栗3年柿8年と言われるように、幼若期の状態が何年も続く植物もあれば、幼若期がわずか数日と短い植物もあります。
植物の幼若期と成熟期では、花をつけられるかどうかだけでなく、様々な特徴が異なります。葉の形の違いもその特徴の一つです。植物にとって、葉は光合成によりエネルギーを生産するための主要な器官であり、どのような形状の葉を作るかは、生存戦略に関わる問題です。これまで、幼若・成熟の異なる成長段階におい、葉の形を変える仕組みはわかっていませんでした。本研究では、イネを研究対象としてその仕組みの解明を目指しました。
イネの葉の形は、先端部の葉身、基部の葉鞘と呼ばれる2つの器官から構成されています。葉身は主に光合成を行う役割を担い、葉鞘は植物体を支持する役割をもっています。イネの成長段階における幼若・成熟期の違いは、葉身と葉鞘の割合の違いとして現れます (図2)。種子から発芽したイネが最初に作る1番目の葉(第1葉)は葉身を欠いており、葉鞘のみで構成さていれます。2番目、3番目、4番目の葉では、葉身が徐々に大きくなり、5番目以降の葉からは成熟期となります。葉身と葉鞘の割合を調節する仕組みは全くわかっていませんでしたので、本研究ではその仕組みの解明から研究に着手しました。



研究成果

研究を進めた結果、葉身と葉鞘の割合を調節する3つの遺伝子OsBOPを発見しました。OsBOPを人為的に過剰発現し、その機能を強めると葉身の形成が抑制され、葉は葉鞘のみから構成されるようになりました。一方、ゲノム編集(注1)によってOsBOPの機能を喪失させると、葉鞘の形成が損なわれ、葉は葉身のみから構成されるようになりました。つまり、OsBOP機能の強弱により、葉身を形成するのか、それとも葉鞘を形成するのかが決まることがわかりました (図3)。
さらに、OsBOPの機能する時期と場所を詳細に調べました。OsBOPの発現は、幼若期に強く、成熟期に向かうにつれて弱まることがわかりました。このことから、OsBOPの機能により幼若期の葉の形が決まることが明らかになりました。
次に、幼若期にはOsBOPの発現が強い一方で、成熟期になると弱まる仕組みについて研究を進めました。その結果、幼若期に働く低分子RNA (注3) (miR156)がOsBOPの発現を制御することが判明しました。miR156が働くとOsBOPの発現が強まり、逆にmiR156が働かないとOsBOPの発現が弱まります。以上により、幼若・成熟期で異なる葉の形が制御される仕組みとして、葉の形を調節するマスター制御因子OsBOPを発見し、幼若期にその機能を強く発現させるメカニズムを明らかにしました。



今後の展開

葉身の割合を高めることは、光合成の効率を高め、作物の生産性向上に寄与します。OsBOPの発見は葉身/葉鞘の割合をコントロールする技術の基盤的知見になると考えられます。将来的には、光合成効率を高める品種改良技術の創出につながると期待されます。
生物は進化の中で、様々にその形を変えてきました。植物の葉も例外ではありません。例えば、タケのように地下に茎を伸ばし、地中を成長する植物がいます。地下茎植物は、地中を成長するために、葉身の形成を積極的に抑える進化を遂げています。今後、葉の形を調節するマスター制御因子OsBOPの働きを調べることで、地下茎進化の仕組みの理解を目指します。



発表雑誌

この研究は、東北大学生命科学研究科の経塚淳子 教授の研究グループ、東京大学農学生命科学研究科の伊藤純一 准教授の研究グループ、東京農業大学生命科学部の太治輝昭 教授、および同大学生物資源ゲノム解析センターの田中啓介 助教との共同により行われました。研究成果は、Springer Nature (UK)発行のonline科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』 (Nature Communications) において2019年2月6日に掲載されました。

Taiyo Toriba, Hiroki Tokunaga et al. "BLADE-ON-PETIOLE genes temporally and developmentally regulate the sheath to blade ratio of rice leaves" Nature comm., 2019, 10, 619.



参考図

20190731_20.png

図2. イネ幼若期の葉身/葉鞘割合
A. 左から第1,2,3,4葉の形。緑色部分が葉身、灰色部分が葉鞘。
B. 葉鞘と葉身の割合


20190731_30.png

図3.OsBOP は葉身/葉鞘割合を決定する。OsBOP 作用が強いと葉鞘の割合が高くなり(左)、弱いと葉身の割合が高くなる(右)。


20190731_40.png

図4. miR156はOsBOPの発現を制御することで、葉を幼若期の状態にする。



用語解説

(注1)マスター制御因子
細胞の運命を調節する経路において、最も上位に位置する因子。この因子が働くと、下流のすべての経路が動き、発生や形態形成などの現象が生じる。

(注2)ゲノム編集
DNA配列特異的に作用するDNA鎖切断酵素を用いて、特定の遺伝子を狙い、そのDNA配列を改変する技術。

(注3)低分子RNA
生体内で生理活性を持つ20-24塩基からなる短いRNA分子。RNA干渉により、遺伝子発現を制御する働きを持つ。



問い合わせ先


東北大学大学院 生命科学研究科
生態発生適応科学専攻・植物発生分野
助教(研究特任) 鳥羽 大陽(とりば たいよう)
E-mail:taiyo.toriba.b5[at]tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る