開発中の赤外線観測装置

2010/04/12

火星の「空」から情報解析

「自分たちが作ったものが
  火星に行ってデータを取れたなら、嬉しいですよね」

「地球の兄弟星、火星は、なぜ荒涼とした冷たい星なのか」

次期観測システムをテストする―。光学・電波による観測システム第一人者の岡野章一教授、惑星大気研究室の笠羽康正教授、村田功准教授(写真)らと共に、次の観測計画に夢を馳せる

地表の平均気温-120度~0度。寒冷乾燥の地球型惑星、火星。中川広務助教にとって、火星の希薄な大気は、惑星大気物理学の謎ときの宝庫だ。
  一つは、水の問題。かつて火星は、水のある温暖な星だった可能性がある。ならば、水はどこに消えたのか?「仮に、宇宙に蒸発したとしましょう。大気中の水蒸気(H2O)は紫外線によって水素(H)に分解されますが、この中には、水素の"同位体"である重水素(D)も、ごく微量に存在します。これは普通の水素より核が重いぶん、重力から逃れにくい。過去、火星から水が宇宙に散逸したのなら、重水素が大気中により多く残されているはずです」。実際に、火星大気中の重水素と水素の割合は、地球大気のそれに比べて約5倍だ。
  「このように、火星の大気から分子の情報を精密に取り出せば、地球大気の形成過程や、未来の様子だって、火星を特異例としてある程度考えていけるのですね」。

2004年には、火星大気中に物理的な常識を越える量のメタンが確認され、さらに、その分布量が季節で変わるため、世界中の科学者が強い関心を寄せている。「実は地球の場合、大気中のメタンの90%が生物由来なのです。生命起源であれ地質学的起源であれ、この未解明の謎にも、火星大気の精密分析は有効なのです」。

目指せ、世界でも最高分解能の「赤外ヘテロダイン分光システム」

学内の観測ドームに置かれた、約60cm四方の試作器――。東北大学が、ハワイのハレアカラ山頂に計画する、次期・惑星観測望遠鏡の中枢の一つだ。この赤外線分光器こそが、中川助教らの「目」である。
  「希薄な火星の大気を、地球の大気越しに分子レベルで解析したい。大変な分解能を追っています」。例えば、使用する赤外レーザーの周波数は20テラHz以上と高く、増幅などの調整も困難だ。しかし、「例えばメタンといったオーガニックな微量大気分子は、高分解能の赤外線でなければ検出できない。今の赤外線地上観測で為しえない精度を達成し、それに基づく研究を展開することが、我々の目標なのです」。

また、このたぐいの装置は分解能を追えば巨大になるが、チームが小型化にこだわるのは、将来、火星探査機に装置を搭載したいためだ。そこには、かつて、自身も観測計画に参加し、惜しくも火星に未到達だったJAXA「のぞみ」計画以来の、中川助教の想いもある。
  「やはり人間、知的好奇心の導くままに、自分の好きなこと、楽しいことを探究しないと」と、中川助教は研究について話す。「ヘルツ、マックスウェル、アインシュタイン・・・いろんなものを探求してきた人たちがいて、携帯電話や衛星通信などの最新技術に支えられる今があるんだと思います」。

中川 広務 助教(Hiromu NAKAGAWA) 中川広務助教HPはコチラ 研究キーワード
大気微量成分・地球電磁気・量子カスケードレーザー・高分散分光システム

[理学研究科]
地球物理学専攻・太陽惑星空間物理学講座

○強力なユニットで惑星研究へ
東北大学の、充実した惑星研究分野―。先駆者の一人、岡野章一教授が率いる国内唯一の惑星観測拠点「惑星プラズマ・大気研究センター」を始め、「本学は、惑星研究に必要な、観測、解析、シミュレーション、理論などの研究グループが全て揃う。これは日本では珍しいことで、高いポテンシャルを持つ面白い大学ですね」と中川助教。「また、自分たちで独自にデータを集め、それをもとに研究すれば、次世代に研究を継承できる。これは大切なことなのです」と、自らもバトンを受けとる。

○技術を発掘する楽しさ
「たとえば、"iPod"の背面の曲面処理が、世界でも大阪のとある工場でしか出来ないように、ときに、精鋭の技術って、個人技みたいな職人レベルで存在することがありますよね」。実は、開発中のシステムのコアになる予定の装置もそうした一つ。「世界の研究者の間で知る人ぞ知るのような技術者がいるなど、こういった話題に、日々触れられるのも楽しいですよ」。