ハイパー核のガンマ線測定装置「ハイパーボール」

2011/04/26

「物質存在」の謎へ

新しい装置を開発すると、未知の自然界に出会える。
発見の瞬間は感動的。人類何十億人もの中で、自然界のこの真実をいま知っているのは自分だけなんだ、という感覚。

この宇宙の物質存在のみなもと「核力」の謎に挑む

原子核の種類は陽子の数と中性子の数で決まるので、原子核の周期律表ともいうべき「核図表」は、図の下側の青・緑・黄色の部分のように2次元的に並べて示される。図の上側に示すように、陽子pと中性子nからなるこれらの原子核に、ストレンジクォークsをもつΛ粒子などを入れることで、ハイパー核とよばれる多数の新しい原子核が作られる。ストレンジクォークの数を3つ目の軸にとると、
ハイパー核は赤色や紫色のように配置され、新たな「3次元図表」ができる。

物質の一番小さな要素、原子。その原子の中心に鎮座して原子の性質を決定づけているのが原子核だ。「ダウンクォークu」と「アップクォークd」という2種類の素粒子が3個1組で結びついて陽子や中性子になり、その陽子や中性子が「核力」という力でくっつき合うことで、原子核が作られている。
   「しかし」と、田村裕和教授は話す。「例えば、中性子は±の電荷を持ちません。そんなものが、なぜ強く引き合うのか。この核力は物質の根本をなすともいえる力ですが、複雑でまだよく理解されていない謎めいた力です。」
この核力を理解しようと、田村教授らは、原子核の中にあるクォークのうち一部を別種のクォークに入れ替え、独自の精密な測定器を駆使して実験を行っている。
「原子核に『ストレンジクォークs』を撃ち込んで、『ハイパー核』という人工原子核を作ります。そのハイパー核のエネルギーを精密に測れば、クォークの種類が変わった時に核力がどう変わるかがわかり、そこから核力の本質があぶり出されます。」
こうして、田村教授は、様々なハイパー核の性質を新たな視点で調べ続けている(図)。

新しい装置の開発によって広がる、未知の自然界

「Hyperball」全景

田村教授らの研究を飛躍させたのが、ハイパー核のガンマ線を精度よく測れる世界唯一の測定装置「Hyperball」(ハイパーボール)だ。装置は、研究室のメンバーと共に自分たちで開発した。「私はものづくりをする父親の背中を見て育ちました。だから装置開発は大好きです。新しい装置や測定方法の発明によって、新しい発見が生まれ、物理学が進歩します。次世代の研究者にも、装置開発を楽しむ気持ちが引き継がれて欲しい。」と、田村教授は話す。
ガンマ線:原子核が放出する光

1998年に初測定に成功したHyperballの特長は、田村教授らの実験分野でいつも問題となる強い放射線による装置への影響を巧妙に排除できることだ。
「もともと、ガンマ線を測定できれば、原子核の高精度データが取れることはわかっていました。これをハイパー核実験に取り入れられれば、原子核の中でのクォークのふるまいが手に取るように分かるはずだ、と、ずっと考え続けていました。」
この装置をもとに、原子核物理の発展に貢献し続けた田村教授らの研究は、2009年に「仁科記念賞」を受賞している。

近年、興味深い研究の進展があった。人工核だと思われていたハイパー核が、現実に、自然界に存在しているらしいのだ。「星が一生の最後に超新星爆発を起こすと、その残骸の中に小さくてとてつもなく重い星ができていることがあります。ブラックホールになりそこなった星、中性子星です。この星の中に、ストレンジクォークが存在することが分かってきました。実は昔からこれを予想する声も ありましたが、ストレンジクォークが入ったときに核力がどう変わるかがよく分からなかったため確信できませんでした。」
 田村教授は話す。「私たちの知るアップ、ダウンクォークだけからなる物質の世界とは違う世界が、現実に、安定に存在しているんです。ハイパー核の実験データをもとに理論的にこの新しい種類の物質の性質を解明することができます。私たちの物質観に 革命的な変更をもたらす鍵になるかもしれません。」 現在、田村グループが作った一層強力な装置「Hyperball-J」が、茨城県東海村の新しい大強度陽子加速器施設「J-PARC」で新たな発見にむけて動き出そうとしている。

田村 裕和 教授(Hirokazu TAMURA) 田村裕和教授 HPはコチラ 研究キーワード
ハイパー核・ストレンジネス・ガンマ線分光

[理学研究科]
物理学専攻・素粒子核物理講座

○尽きぬ物質のナゾへ
陽子や中性子などの間に働く核力。「これは面白い力なんです。」と、田村教授。
「陽子や中性子同士が離れすぎると働かない、逆にくっつきすぎると反発しあいます。陽子や中性子は、非常に微妙な距離を保ちながら結合しています。ここが、多くの物理学者を悩ませる複雑さの一つでもあります。」
田村教授は、「私たちの研究データが、今後、物質存在の謎の解明に役立ってくれることを願っています。」と語る。


○最先端実験を学生にどんどん体験させる
「私たちの実験グループは、素粒子・原子核実験の中では比較的小さな所帯です。このサイズは、学生にとってラッキーな環境かもしれません。」と、田村教授。というのも、「個々が、実験の全体像を把握しやすい。大学院生だって、D2にもなれば、グループの中心としてメンバーをまとめられるほどになります。彼らはすごく成長できますし、自信がつきます。」そういう人材は、後に大規模実験に移動してもリーダーを張れるだけの力が付くのだと田村教授は話す。研究室では、学部生も「J-PARC」に派遣される。早くから最先端の実験を体験してその空気を満喫しているようだ。


○田村先生について
以前、田村先生は「授業がすごく楽しい」とおっしゃっていました。活気と機知にあふれる教師としてKEK・J-PARC見学会、オープンキャンパス、物理科学への招待などに積極的に参加されています。わからないことがあったら、田村先生に質問してみてください。 理解できるまでとことんご指導してくださるハズです。