夢中になれるものができたならば、それは人生の宝物になる

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

関口 仁子

1.現在、どんな研究をしていますか?

私の専門は原子核物理学(実験)です。研究テーマは、原子核を形作るチカラである核力を実験的に解明することです。特に、三体力(三体核力)と呼ばれる核力に興味を持っています。原子核の中では、陽子と中性子(総称して核子と呼びます) がとても狭い空間に閉じ込められています。そこで働く「核力」は、中間子と呼ばれる粒子を媒介することで陽子と中性子が強く結びつくという二体力として理解されてきました。この理論は中間子論と呼ばれ、1935年に湯川秀樹によって提唱されたものです。
湯川の中間子論から80年を経て、原子核物理学では実験・理論双方の研究の飛躍的な進展により、核力の理解が大きく変わりつつあります。その中の最重要課題の一つが「三体力」です。三体力とは,中性子と陽子にもう一つの核子が近づくことで新たに生じる核力です。元素合成の鍵となってくる中性子過剰な原子核や,超新星爆発や中性子星の性質の理解に三体力が重要な役割を果たすのではないか、と現在考えられています。
原子核の様々な性質や宇宙・天文物理の重要問題においても三体力の役割が注目される中、私のグループでは加速器を使った原子核の散乱実験から三体力の性質を明らかにする研究を進めています。加速器実験は東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター(CYRIC)、大阪大学核物理研究センター(RCNP)、理化学研究所で行っています。現在は、ヘリウム3という原子核の磁気的な性質利用した標的を開発し、三体力にアプローチしようとしています。この開発では、理学部硝子機器開発の方にかなり特殊なガラス器具の製作をお願いしたり、また標的の性能評価はCYRICの加速器を使わせて頂いたりしています。大学内にこういった実験施設・部署があるのは、とてもありがたいことです。

2.興味をもったきっかけは?

大学院修士課程1年生の時、ちょうど重陽子—陽子弾性散乱という原子核散乱で三体力が見えるかも知れない、という理論が提唱されました。指導教員の勧めもあって、この実験を理化学研究所の加速器施設で行うため、実験課題申請書を私自身が書いて提出することになりました。課題が認められないと実験できません。恥ずかしい話ですが知識ゼロ、経験もゼロの状態で、物理の意義、どうやって実験を遂行するのか、どうやったら実験を認めてもらえるのか、練って練って申請書をまとめたのを覚えています。有意義な実験をさせてもらえるだけのビームタイムを認めて頂きました(もちろん、色々な方のサポートあってのことです)。その後、どっぷり実験をさせて頂き、とても面白い結果が出てきました。これがきっかけです。
ものすごくラッキーだったのだと思いますが、三体力研究の初段階から関わることができ、ある意味自由に研究をさせてもらっています。

3.メッセージ

好きなことを見つけて、一生懸命に取り組む、というのが大切かなと思います。出会いも大切。それは人だけではなく、物であったり、なにがしかの事象(イベント)だったりするかも知れません。たとえ一つでも、またそれが全くの想定外のものであったとしても、夢中になれるものができたならば、それは人生の宝物になると思います。大学生活で、そんな出来事がないか意識してみませんか。