はじめに

このページでは、高校生や保護者の皆さんに「東北大学理学部での学び」についてご説明します。

このページの主な内容は、大学生活を充実させるために極めて重要な「受験モードから研究モードへの学びのスタイルの転換」です。

皆さんも「大学に入ったら先生に言われたことだけやるのではなくて、自分自身で主体的に学ばないとダメだぞ」みたいな話を聞いたことがあると思います。この話は正しいのですが、「主体的な学びとはいったいどういうものなのか」「そもそもなぜ主体的に学ばないといけないのか」「主体的に学ぶと何か良いことがあるのか」といった点が曖昧になりがちで、人によってはいまいちピンと来ない場合もあります。

というわけで、理学部で求められる主体的な学びを、「研究モード」をキーワードにしてざっと見ていきましょう。

受験モードと研究モード

高校までの授業と大学の授業では、そもそも授業の目的が全く違います。高校生の皆さんには、まずこのことを認識してもらいたいと思います。そうすれば、全学教育(学部1〜2年で受講)や理学部の専門教育(学部3〜4年で受講)の授業を楽しんだり、大学で効果的に学んだりするためのヒントが自ずと浮かび上がってきます。

高校までの授業、特に受験勉強の目的は「試験に合格すること」です。試験では、教員など自分以外の誰かが問題を設定し、皆さんは与えられた問題を解くだけです。正誤の判定も教員などが行います。試験合格が目標ですから、高校までの授業では試験でどんな問題が出題されるか、正解は何か、どうすれば正解できるかといった知識を身につけることが要求されます。

一方、大学、特に理学部における授業の目的は「科学的思考法を身につけること」です。大まかに言えば、現象を客観的に観察すること、現象を説明する理論を構築すること、理論をデータに基づいて検証することが科学的思考の代表例です。また、これらの要素の根幹には、予断や思い込みを排し、事実と論理に基づいて真理を探求しようとする合理的な思考があります。理学部では様々な学問を学ぶことができますが、合理性を極めて尊重する思考様式は共通しています。



科学的思考法を身につけるためにおすすめの方法が、研究モードで授業に臨むことです。

研究モードというのは、未解決問題に挑戦し、解決することを目的とした学びのあり方です。未解決の問題というのは、問題のアウトラインくらいはだいたい見えているものの、問題の細部がどうなっているか、その本質はどこにあるのかがまだ誰にもわからないようなところがあります。つまり、何が本当の問題なのかから自分で考える必要があるということです。もちろん解決方法などはもっと分かりません。これまでうまくいった方法を一つずつ試していくのも良いでしょうし、全く新しいアイデアを試すのも良いでしょう。この辺りは各自の創造性に委ねられています。

大学でも、低学年のうちは高校生までと同じく教員が問題を出して、教員が○×をつけます。しかし、学年が進むにつれて、教員にとっても謎、あるいは未解決の問題が徐々に授業やゼミで紹介されるようになっていきます。博士課程後期で取り組む問題になると、指導教員すらも問題の所在や解決策が見えていない場合がほとんどです。つまり、研究モードへの切り替えがうまくいっていないと、大学の高学年や大学院生になってから非常に苦労するということです。高学年になってから急に研究モードに切り替えようとしても大変なので、低学年のうちから徐々に切り替えていくのがおすすめです。

研究モードの実例

大学院生が、普段どのような研究生活を送っているかを見てみましょう。そうすれば「研究モード」で学生生活を送る様子が大まかにイメージできるようになるはずです。


① 数学専攻のA君





A君は、整数論と呼ばれる整数、そしてそこから派生する数の集まりや、体系の特徴について研究している博士課程後期の学生です。

数学科では、学部3年次に「数学講究」というユニークな講義があります。ここでは、先生が講義の内容を決めるのではなく、学生が先生にどのようなテーマについて学びたいかをリクエストします。そして先生は、そのリクエストに答える形で講義を進めます。もちろん、どんなテーマでもリクエストすれば自動的に採用されるというわけではなく、リクエストを受け付けてもらうためには、そのテーマが意味のあるものであることを先生に納得させなければなりません。

「数学講究」を通して、整数論、特にその中でも多重ゼータ値や多重ポリ・ベルヌーイ値といった特別な数の体系に関心を持ったA君は、新進気鋭の数論研究者である若手教授のセミナーに所属することにしました。そして大学院では、「数学講究」で学んだ知識をもとに、教授のアドバイスを受けながら、多重ゼータ値や多重ポリ・ベルヌーイ値へ解析学的にアプローチする研究に着手しました。

現在は、自分自身で設定した数学上の謎に挑みつつ、ときに先生や大学院の仲間とディスカッションしたり、学内外のセミナーやワークショップに参加し、常に学術的刺激を受けながら研究を進めています。すでにA君の研究成果は、学術論文誌に掲載されています。学術論文誌に掲載されるためには、査読という専門家による研究の妥当性・学問的意義の審査をパスする必要があります。これは、A君の研究成果が世界に認められたことを意味していますから、大変嬉しいことです。

A君は「自分の研究は、通信技術や暗号技術と関係している。民間企業での研究開発にも興味を持ちつつある」とも語っていました。その後、A君は大手民間企業の中央研究所に採用されました。今日も数学を武器に、新しい技術の開発に取り組んでいます。



② 物理学専攻で理論研究を行っているB君





B君は、物性理論の分野で、流体力学・集団運動に関する研究を行っています。

流体力学・集団運動の研究とは、例えば水の動きのように自由度が大きく、複雑な物理現象を解析する研究領域です。B君は、数理的な解析とコンピュータを駆使した数値計算の両面でこの研究に取り組んでいます。

数理解析とは、「紙と鉛筆」を使って、特定の条件下における運動方程式の解を求め、その結果に基づいて物理現象に関する基本的なモデルを構築するような方法です。その一方で、近代物理学が取り扱う問題は、複雑になりすぎて解析的には取り扱えない場合もしばしばあります。このような場合に有力なのが、コンピュータを用いた数値計算です。物理的モデルをコンピューター内に仮想的に構築し、そこで"仮想的に実験してみる"(シミュレーション)という手法です。

コンピュータの中では予算を気にせず実験条件を自由に変更し、何回でも行うことができますし、場合によってはあえて物理法則を変えてみるなど、現実には実現不可能な条件のもとでの現象を調べることも可能です。

B君によると、「朝起きて、数式をどう解くか考えていたら一日が終わっていた」とか「コンピュータ内で適切なモデルを構築するためにプログラムを書いていて、ふと気づいたら夜が明けていた」ということも珍しくはないそうです。また、週に1度の指導教員とのディスカッションでは、指導教員が「今週はどんな面白いことがわかった?」と自分の研究に関心を持ってくれるので、その期待に応えるためにも、どんどん研究を進める。B君は、そんなハードではあるけれど、やりがいのある日々を送っています。

B君は「ポストドクター」(ポスドク)として大学で働く道を選びました。ポスドクは、大学教員への第一歩です。


③ 化学専攻で実験研究を行っているC君





C君は、有機化学の研究室で、新しい触媒、新しい化学反応の創出に取り組んでいます。

触媒や化学反応を生み出すためといっても、新しければ何でも良い、手当たりしだいに実験をすればいいというわけではありません。化学研究において意義のある触媒や反応とは何か、現時点でそれが実現していないのはなぜなのか、しっかりと調査し理解する必要があります。そして実験に際しては、研究室に蓄積した有機化学に関するノウハウや、国内外の最先端の化学研究の知見を応用することで、効果的・効率的に実験を行う必要があります。もちろん、実験は一人で行うのではなく、指導教員や大学院の先輩、同期、後輩と協力して進めていきます。

C君は、約4年の月日をかけて全く新しい触媒の開発に成功しました。この話をC君に聞くと、彼は必ず粘り強く研究に取り組むことの意義を語ります。

現在、C君は製薬企業で「創薬」(有機合成の花形です!)に取り組んでいます。


④ 大学院生の後ろ姿から学んでほしいこと



こうしたエピソードから、大学院生たちがまさに「自分が面白いと思う問題を設定、もしくは選択したうえで、自分自身でその問題を解いている」ことがわかってもらえると思います。

また、大学院生が自分勝手に、自己満足で研究しているのではなく、自分が設定した問題に学術的・社会的意義があることを説得的に説明し、その問題を解き明かしたことを客観的に証明することに、責任をもって取り組んでいることもわかってもらえたのではないでしょうか。このような科学的思考法は、大学・大学院において、指導教員や先輩からアドバイスや励ましを受けるだけではなく、時には厳しい批判的な評価やお互いの意見を戦わせる中で培われるものです。

ここで紹介した大学院生たちは、科学的思考法を身につけ、その証拠として博士の学位を取得しています。博士の学位は、大学などの研究機関や企業などにおいて、独立して研究に取り組む資格です。高校生の皆さんも、そして保護者の皆さんも、博士号の取得を前向きに検討していきましょう。人生の選択肢が大きく広がります。

研究モードのメリット

研究モードは、社会に出て働くときに大きな効果を発揮します。これが、研究モードの基本的なメリットです。

東北大学理学部に進学される皆さんの中には、「将来は研究者になりたい」と考える人がかなりいます。大学教員や公的研究機関の研究者、あるいは民間企業の研究開発者などが具体例です。そういった学生にとって、研究モードでの学びはとても重要です。研究という仕事は、自分が立てた問題に学術的・社会的意義があることを説得的に論証すること、その問題を解き明かしたことを客観的に証明することそのものです。このように研究においては、徹頭徹尾「自分で考えること」が求められます。よって、在学中から研究モードをトレーニングして自分で考える癖をつけておくことはとても大事です。

もちろん皆さんの中には、中学校・高等学校の教員になりたい、公務員になりたい、あるいは理学とは関係の薄い企業で働きたいと考える人もいるでしょう。でも、理学部・理学研究科で身につけた知識が直接関係ないような道を選んだとしても、未知の問題にどのようにしてアタックし、どう解決するかは常に問われます。研究モードは研究だけに役に立つのではなくて、科学に基づいた問題解決の方法として、幅広く役に立ちます。

学生生活の中の多様な学び

研究モードのトレーニングの機会は、大学生活の至る所に溢れています。この辺りのことをざっと理解しておくと、充実した大学生活を送りやすくなると思います。


全学教育



全学教育とは、学部1年・2年生のころに受ける授業です。ここでは様々な学問の基礎知識を学びます。

といっても、様々な知識を覚えることが重要なわけではありません。クイズ王を育てることは、大学の関心事ではないのです。むしろ、その学問がどんな謎を解き明かそうとしているか、どのような観点や方法で謎に挑んでいるか、といった諸学の基本的な特性について考察することが重要です。理学以外の学問を学び、比較することにより、自分の専門分野(学科・系)の特徴を知る手がかりも得られます。また、こうした考察によって、幅広いものの見方を身につけることができるようになります。



英語は世界の共通語、数学は科学の共通語



全学教育では、英語・基礎数学の学習にかなりのウェイトが割かれています。どのような学問を学ぶにせよ、国際語である英語、科学を記述する共通語である数学をしっかり身につける必要があります。基礎をおろそかにしては、その上に展開すべき研究力を身につけることはできません。大学に入学したら、早いうちからどんどんトレーニングしておきましょう。



留学のススメ



留学は、語学力アップに非常に有効です。また、留学を通して、今まで自分が当たり前だと思ってきた考え方、生活習慣、価値観が通じない「別の世界」を知ることで、「自分の世界」を広げ豊かにすることができます。(この辺りの考え方は全学教育と似ています。)

そして大学院進学後には、是非とも国際共同大学院へのチャレンジも検討してください。国際共同大学院は、海外の有力大学と共同で人材育成を行うプログラムです。プログラム参加中に長期の留学を経験することになり、世界の有力大学で研究活動を行うという貴重な経験を積むことができます。参加した学生は、研究者としてはもちろん、一人の人間として大いに成長する機会を得ることができます。



専門教育でこそ研究モード! 興味のあることは自分で調べる



学部3年あたりから、理学部での専門教育が始まります。全学教育で学問的視野を広げ、英語や基礎数学という「共通語」に慣れたあたりで、いよいよ専門教育の講義がスタートという流れです。

特に専門教育ではそうですが、単位をとるとかテストでいい点数をとるとか、そういう些末なことはあまり気にしなくて良いです。自分の興味のあるテーマやトピックと出会ったら、それについて自分自身で調べたり、友人と話し合ったりしてください。そうすれば、単位や成績は勝手についてくるものです。

逆に、こうした日々の積み重ねを怠ると、高学年になったときに「見たことがある問題は解けるが、新しい問題には手も足も出ず研究ができない」とか「知識はあるけど興味のあることがない」といった状態になり、大学生活に不適応を起こすリスクが高まります。そうならないためにも、専門教育の授業に対しては研究モードで取り組むことが本質的に重要です。



自主ゼミを開催しよう



自主ゼミは、学生さんが自分たちで開催・運営するゼミです。参加者が共通の書籍・論文を精読したうえで、わかったことやわからなかったことを共有して教え合ったり、対象となる書籍・論文を応用したり発展させたりするアイデアを検討したり、納得いかない点を批判的に検討したりといったことを行います。

いきなり「自主ゼミを開催しよう」と言われても、ゼミで取り上げるべきテーマを見つけるのに苦労するかもしれません。手っ取り早い方法としては、授業の参考文献を取り上げることです。

また、各専攻で開催されているワークショップやシンポジウムに参加して、その内容についてディスカッションするのも有効です。こちらの方法には、教員や先輩との交流も生まれやすいというメリットもあります。



質問の重要性



授業やワークショップ、シンポジウムに参加したら、是非とも教員に質問したり、自分のアイデアについての意見を尋ねたりしましょう。自分の中にある疑問(もやもや)を言葉にして誰かに伝えることは、研究モードの習得にも大きな助けとなります。

研究モードの習得という観点に立つと、自分自身がもっと学ぶためのヒントを得るための質問がとても大事です。この手の質問として、一番ハードルの低い質問は、「このテーマについてもっと勉強したいので、オススメの本や論文を教えてください」といった質問でしょうか。また、授業などで紹介された本を自分で読んで興味のある論点があれば、その点についての自分の考えを述べて教員にコメントを求めてもいいでしょう。こうした中で、教員から逆質問が来ることもあります。「この本どうだった?」とか「なにかおもしろい論点あった?」とかです。

このように、ひとまず気軽に教員に質問すれば、それがきっかけとなって様々なおもしろいコミュニケーションが生じます。最低限のマナーさえ守っていれば、遠慮は無用です。まずは質問してみましょう。

講義のヒント

研究モードで講義に挑むためのコツをいくつか紹介しておきます。ざっと見ていただくと、大学生になったらどういう風に授業を受けるのかがイメージしやすくなると思います。また、大学に入学してからのヒントにもなると思います。


新しい概念については、それを暗記する前に、意味を想像すること



アインシュタインが「もし人が、光と同じスピードで光を追いかけたら、その光はどういう風に見えるのだろうか?」と夢想したエピソードが有名ですが、このようなかたちで、普段から概念を単なる言葉として暗記するのではなく、その概念が示す対象そのものに想像を及ばせることは、研究においては重要な知的習慣です。

もちろん、大学では単なるイメージにとどまらず、その意味を構造的・精密的に理解する必要があります。 学問においては、穴埋め問題を解くような用語の知識よりも、それらが意味する対象の理解がより重要ということです。

大学において、専門教育がスタートすると、新しい概念が次から次へと登場します。受験勉強では、公式や問題のパターンを暗記することでテストを乗り切ることが可能かもしれません。新しい概念の中身を理解せず、その概念を「専門用語」として字面だけを覚えたり、公式だけを暗記してなんとか演習問題を解くことができたとしても、将来の研究力を養うことには繋がりません。公式そのものを覚えることよりも、その公式がどのような科学的意味を持つのか、なぜその公式が成り立つのかを理解することが重要です。

概念の本質、公式がなぜ成立するのかを理解していれば、必要ならば公式は自分で導くことができます。そして、きちんと理解したあとは、毎回解を導かなくても教科書を見れば良いことです。こうした理解は、新しい概念や公式の意味を本質から理解し、そしてそれを別の問題へ応用できるようになるために重要です。新しい問題を解くための計算や、自然現象の振る舞いを調べるための実験を遂行するなかで、身につけた概念、本質を理解した公式などを自由自在に扱えるか、絶えず自ら問い直してください。

もちろん、先生の言っていることが理解できる程度の最低限の専門用語の知識や、何度も使うような基礎的な公式を覚えることも必要です。「暗記してはダメ」と言っているのではなく、「暗記を目的としてはダメ」ということです。



数式を体験すること



通常の講義では、先生が数式を板書していき、学生がそれをノートしていくといったことがしばしばあります。これは別に、精神修養の一環として写経しているわけではありません。先生の数理的な思考をトレースしながら数式の展開を追体験しているのです。英語のシャドウイングと同じで、体に染み付かせているわけです。

頭を空っぽにして単に手を動かしているだけならあまり意味がありませんが、理学部の学生なら手を動かして数式を追っていけば、自然に頭も動くものです。そうすれば、自分がどこに引っかかっているかなどにも気づくことになります。このようにして、数式の展開を身につけることで、自ら数学や解析計算を行う準備が徐々に整っていきます。

オンライン授業では、板書ができないこともあります。だからといって、パソコンの画面上に数式が出てきて、それをボーッと眺めたりコピペや印刷して綺麗なノートを作ったりしても、なんの意味もありません。必ず自らの手で数式を書き下してください。なぜ、その式が公式と呼ばれるのか考えてみてください。そしてわからないところがあれば、先生や学習支援センターのSLA(Student Learning Adviser)、キャンパスライフ支援室のTAに相談してください。

演習・実験のヒント

ある程度講義を学んだあとで、演習や実験と呼ばれる授業を学ぶことになります。


大学の演習の目的



演習というと、高校までは、試験や問題集の問題を解くことができるように公式を覚える、という勉強がイメージされます。大学における演習はそれとは別で、新しい概念や新たに学んだ公式に習熟し、自由自在に駆使できるようにするために存在します。演習問題を解くことが目的なのではなく、様々な演習問題を解くうちに、教科書や講義で一度学んだだけでは完全には理解することが難しい、新しい概念が染み込んでくるのです。

演習問題の答えが合った、間違ったということで一喜一憂するのではなく、自分の解法と模範解答を比べてどこが違うのかを見比べてみましょう。そのうちに新たな発見があることもしばしばあります。また、解法は一つではありませんし、先生の解法が必ずしも最善とは限らないこともあるので、先生やTA、友人たちといろいろな議論を行うことも重要です。



実験の背後にある意図を理解する



当たり前のことですが、実験は科学的な目的をもってデザインされています。その目的を軽視して、ただ単に実験の手順を覚えるようでは科学とは言えませんし、科学的思考を身につけることにも繋がりません。実験の手順の背後にある科学的な目的をしっかりと理解したうえで、「なぜこのような実験を行うのか」「なぜこのような手順になっているのか」を省察することを忘れないようにしてください。



実験を楽しむ



大学では、高校までは十分に経験することのできなかった実験を行う機会が沢山あります。実際に自分で実験を行うと、教科書に載っているような綺麗なデータが測定できるとは限らず、様々な誤差を含んだ結果になり驚くこともあるかもしれません。

しかし、統計学に基づく誤差の評価を行い、誤差の原因を慎重に考慮することで、誤差に隠された自然の振る舞いの規則=法則を発見することができます。この実験の醍醐味を学生の皆さんに味わってもらいたいと思います。



実験レポートとはなにか



実験結果を他人に分かる形で伝える「レポートの書き方」を学ぶことも学生実験の大きな目的です。

これまでに学んだ感想文や小論文の書き方の癖が抜けないのか、「良いデータが取れて嬉しかった」といった個人の感想を記載する学生もいますが、これは実験レポートには不要な情報です。客観的に観測事実を報告してください。そして論理的な考察を加える訓練を十分に積んで、将来、学位論文(卒論、修士論文、博士論文)や学術論文を書くためのトレーニングを積んでください。

おわりに

研究モードを切り口に、東北大学理学部での学びについてあれこれと説明してきました。

ただ、実は研究モードを身につけるための一番の方法は、実際に研究してみることです。自転車の練習と同じです。残念ながら、自転車の運転方法を完全にはマニュアル化できないのと同じように、やはり研究モード(およびそのコアにある科学的思考法)を明確に定義して、過不足なくその内容を列挙するなんてことはできません。その意味では、このページは大学での学びのごくごく一部を簡単に紹介したものに過ぎないと言わざるを得ません。

重要なことは、自分自身で試行錯誤することです。学生ですから、たまには失敗して先生に怒られたりすることもあるでしょう。単位を落としたりするかもしれません。それは試行錯誤につきものの「転んだり膝を擦りむいたり」です。大学では、失敗を恐れるよりも何もしないことを恐れるべきであり、いわば名誉の負傷です。皆さんには、東北大学理学部に進学して積極的に試行錯誤を行い、どんどん失敗し、ときには成功し、そして卒業・修了のときまでに大いに成長していってほしいです。



受験勉強は辛いこともあると思いますが、理学を学ぶ楽しさを味わうためにも、受験勉強をなんとか乗り切りましょう。
来年の春に皆さんとお会いできる日を楽しみにしております。

本資料への問い合わせ

  • 東北大学理学部・理学研究科 理学教育研究支援センター
    キャリア支援室 西村君平(特任講師)
    TEL: 022-795-3850
    E-mail: kunpei.nishimura.a6[at]tohoku.ac.jp
    *[at]を@に置き換えてください。
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