わからないことは素晴らしいこと

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

猪奥 倫左

1.現在、どんな研究をしていますか?

非線形楕円型偏微分方程式の特異解(1点を除いて滑らかであり、その点では発散するような解)の挙動について研究しています。ポテンシャル論と呼ばれる分野が根っこにあって、万有引力の法則が起源の一つになっています。もう少し説明してみます。(a)仮想的に質量が1点に集中している状態を考えると、その点(質点)が作り出す万有引力のスカラーポテンシャルは1点をくり抜いた領域上での調和関数となります。(b)さらに、一定な密度分布を持つ球形の物質が作る万有引力は、中心に質点を置いた場合の万有引力と一致することが数学的に証明できます。以上(a),(b)から、りんごにしても地球にしても、密度分布が一定で球対称だったとすると、その物質は質点と思って差し支えないので、質点(特異点)周りでの調和関数の性質について調べておけば色々わかる!という状況になります。
ここから色々な研究が派生しており、私の現在の研究は非線形作用が入る場合に相当するものです。直近では、一般の非線形作用を持つ非線形方程式を分類して、いくつかの良い性質を持ったモデル方程式に帰着することで一見込み入っている問題をシンプルに解析する方法を構築し、特異点周りの解挙動に関する一般論を研究しています。

2.興味を持ったきっかけは?

正直、きっかけと言えるほどのことがあったわけではないのですが、思い返してみると、学部生のころに抱いた「実数Rの0近傍における実数値関数で、積分が有界となるもののうち0での発散が最も速い関数はなんだろう?」という遊びのような疑問がきっかけだったかもしれません。そこから、可積分関数とは?デルタ関数とは?特異点とは?外力がある場合は?非線形作用がある場合は?非線形作用を分類する構造とは?と考察が進み、現在の研究に辿りついたような気がします。

3.メッセージ

わからないことは素晴らしいことです。わかってしまったら、より深い理解への道が閉ざされてしまうからです。周りは納得しているのに自分にはどうしても納得できない、なんてことがあれば、しめたものだと思ってください。わからないことを見つめ続けて、何がわかればいいのかを自問して新たな問いを立てて、さらに新たな問いから、新たな「わからない」を見つけてください。
このメッセージに興味を持ってくださった方は、わかったつもり 読解力がつかない本当の原因、光文社新書、西林 克彦著もご一読ください。東北大学附属図書館本館2F学生閲覧室(FA31/0315)にあります。