私は、火星の大気の動きや空を舞う塵(ダスト)について研究をしています。火星では、日本のような四季とは少し違った、独特な大気の季節変化が見られます。特に私が注目しているのは「ダストストーム」と呼ばれる巨大な砂嵐の現象で、時には火星全体を覆ってしまうほどの規模になることもあります。こうした極端な現象の背景には、どのような物理的なプロセスがあるのかは未だによくわかっていません。そのしくみを解き明かすために、私は火星を周回するヨーロッパの探査機に搭載された赤外線分光計が取得した観測データを使って、火星の大気中のダストの量や、それがどのくらいの高さに存在するかを推定する研究を行っています。さらに、火星の表面圧力にも着目しています。これは、地球の気象でも重要な役割を果たす要素であり、大気の動きを調べる上での鍵となります。限られた情報しか得られない火星のような遠い惑星でも、地球にいながらにしてその環境を知ることができるところに、この研究の面白さと魅力が詰まっていると思います。
私が宇宙に興味を持つようになったきっかけは、映画『ARMAGEDDON』でした。宇宙に向かう宇宙飛行士たちよりも、地上に残って彼らを支えるNASAの研究者や技術者たちの姿に強く心を動かされました。直接宇宙に行かなくても、地球から支える形で挑戦の一端を担うことができる存在に憧れたのが、私の宇宙の入り口でした。その後、大学院で火星をテーマにした研究に出会い、現在は火星の大気の動きや環境を調べています。地球から何千万kmも離れた場所に送り込まれた探査機が、火星の大気や表面に関するデータを届けてくれ、それを解析することで、遠い惑星の環境を少しずつ明らかにしていくプロセスに、大きな魅力を感じています。「地球から宇宙を支える」という自分なりの憧れに、自分らしいかたちで実現できていると感じています。
“And yet, for the first time in the history of the planet, a species has the technology to prevent its own extinction.” この言葉は、映画『ARMAGEDDON』の中で語られる、大統領スピーチの一節です。人類が、初めて自らの力で未来を切り拓こうとしている描写で語られたこの言葉は、宇宙への憧れを抱いた私の原点であり、「どんなに大きな困難でも、技術と意志があれば乗り越えられる」という強いメッセージとして、今も心に残っています。
私が関わる惑星探査でも、世界中の研究者たちが協力し、知恵と技術を持ち寄って、誰も見たことのない宇宙の姿に迫ろうとしています。私自身も、日本国内の研究機関はもちろん、フランスを中心としたヨーロッパの研究者たちと共同研究を行いながら、異なる文化や考え方に触れる日々を送っています。こうした経験は、研究の幅を広げるだけでなく、自分自身の価値観を育ててくれます。「やってみたい」という気持ちは、どんな壁も越えていける力になります。「やってみたい」をたくさん経験して、自分のペースで一歩ずつ、色々な世界へと飛び込んでみてください!