やっぱり生き物はすごいなと実感する瞬間

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

経塚淳子

1.現在、どんな研究をしていますか?

私たちの研究室では、植物の枝分かれパターンを決定する遺伝子の仕組みやその進化を研究しています。植物が動物と大きく異なる点は、生涯にわたって個体をどんどん成長させて増殖することです。しかもその成長様式は規則的で、そこには幾何学的な美しさがあります。これは、最大多数の増殖という生物にとっての至上命題を達成するために植物が採用している進化の戦略がもたらした美です。この戦略の基盤となっているのが、「その都度新たに幹細胞を作って枝分かれしていく」という、植物に特有の性質です。最近は、最初に陸上に進出した植物種であるコケを材料として、植物における枝分かれ能力の進化についての研究に的を絞っています。

2.興味を持ったきっかけは?

子供のころから、雪がだんだん積もる光景や花が徐々にひらく様子など、「変化の過程」がとても気になっていました。今も、何かが進行していく様子を観察するのが好きです。植物を研究するようになった無意識の理由も、ジーっと見ていると、植物がどんどん育っていくのを実感できるからだと思っています。枝分かれを研究しようと心に決めた直接のきっかけは、オーストラリアでのポスドク時代、澄み渡った冬の夕方の乾いた空に浮かび上がったユーカリの枝のフラクタル・パターンの美しさに感動したことです。その後、ロマネスコ(きれいなカリフラワー)を見たときにも、そのときの感動がよみがえりました。最初はイネの花序を研究対象としていましたが、10年くらい前、シャーレの中で放射状に規則正しく枝分かれしながらどんどん育っていくゼニゴケを見て、次は絶対にゼニゴケの研究をしようと思い、今に至っています。

3.メッセージ

何が楽しくて研究をやっているのだろうと、ときどき考えます。研究は、対象を観察して解析し、仮説を立て、それを検証するという作業の繰り返しです。仮説が正しかった場合に得られるデータはとてもきれいです。データにこじつけの説明が必要となる場合は、何かが間違っています。正しいことを見つけたと確信できたときのスッキリ感がいちばんのやりがいかもしれません。ああ、やっぱり生き物はすごいなと実感する瞬間でもあります。個々の生物種は、進化の過程で、偶然生じた変異のなかから最もうまく増殖できる形質や遺伝子を選び続けてきたはずです。植物の成長パターンの圧倒的な美しさも、それを成り立たせる分子メカニズムがそんな偶然と必然によって進化した結果です。この壮大なドラマを解読するにはそれなりの努力が必要ですが、その一端を見つけたときの喜びは格別です!