私は物理化学、とくに分子科学と呼ばれる分野で、化学を原子・分子の振る舞いとして詳しく解明する研究を行っており、とりわけ液体界面の分子科学に興味をもっています。液体の界面というと、コップの水の表面はもとより、大気中のエアロゾル表面の化学反応、混じり合わない水-油界面での物質の抽出や膜分離、センサー、電極-溶液の界面での電気化学反応など、我々の周りに数多くみられます。しかし、それらの現象が起こる瞬間の原子・分子を捉える方法はほとんどないことが多く、今でも未解明の現象が多く残されています。そこで私は分子シミュレーションという計算化学を駆使して、実験で捉えられない現象の解明を進めています。
もともと数学や物理の方が好きな学生でしたが、物質が変化するという不思議な現象を解明することに夢を感じて化学を志望しました。研究を始めた頃は実験の化学をやっていましたが、物理法則をもとに化学を深く理解したいという志向はありました。やがて理論計算を使って原子・分子の動きを見たように捉えて、化学現象を深く理解する興味に移っていきました。米国コロラド大学に留学したとき、当時最新の南極のオゾンホールの研究などを通して、物理化学として未開拓の界面現象に興味をもつようになり、今に至っています。
化学は物質の性質に関する多くの経験から出来上がった学問なので、暗記科目の印象がありますが、大学以降の化学では、ミクロな物理法則に基づいて「なぜそうなのか」を本当に理解するようになります。理学部の化学科は特にそれを重視しており、一旦それが分かるようになると、新しい物質の設計や実験の提案など、今まで見えなかった可能性が広がります。学生さんにも原子・分子を徹底的に解明する研究の見方を経験してもらいたいと思います。