新しい科学の扉を開く最も大切な原動力は「信念」と「情熱」

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

須田 利美

1.現在、どんな研究をしていますか?

「電子散乱」という手法で陽子や短寿命で不安定な原子核の内部構造を研究しています。
電子加速器からの電子ビームを標的原子核に照射し散乱電子を観測するという非常に単純な実験方法ですが、陽子や原子核内部構造の詳細な研究に最も優れた研究手法です。
東北大の電子加速器を使って高精度な陽子のサイズの研究を進めており、また理化学研究所では世界初の電子散乱による短寿命不安定核の研究を進めています。短寿命不安定核とは、陽子・中性子数のバランスが大きく崩れた天然には存在しない原子核です。そのため原子核反応を利用し人工的に生成する必要があり、分厚い標的を必要とする電子散乱による研究は全く前例がありません。

2.興味を持ったきっかけは?

1990年代の前半にフンボルト財団研究員として2年間ドイツに滞在し、当時は世界最先端だった完成直後のマインツ大電子加速器(850 MeV)施設で電子散乱による原子核研究を初めて経験しました。その時に、電子散乱が持つ原子核内部を詳細に明らかにする威力に圧倒されたのがきっかけです。
そして、電子散乱という強力な研究手法を、新奇な内部構造が次々と発見されつつあった短寿命不安定核に応用したいとの夢を持ちました。短寿命不安定核は天然に存在しないため人工的に生成する必要があり、電子散乱に必要な分厚い標的はとても望めないため、「電子散乱ができたら素晴らしい」けど「無理だろう」「非現実的」と考えられていた研究です。
幸いにも同じ夢を共有する素晴らしい研究者に恵まれ、約10桁(!)も少ない標的数で電子散乱に必要なルミノシティー(衝突回数)を実現できる技術を発明し実用化しました。その技術により、世界初そして現時点では世界唯一の不安定核研究専用の電子加速器施設を建設することができました。2023年には世界初の不安定核の電子散乱実験を実現し、これからさまざまな短寿命不安定核を電子散乱という手法で研究することができます。
不可能と考えられてきた研究ですが、素晴らしい共同研究者と出会え、その重要性を確信し情熱を持って研究に取り組めたことが今日に繋がっていると考えています。

3.メッセージ

基礎科学分野で新しい科学の扉を開く最も大切な原動力は「信念」と「情熱」だと私は考えています。正しいと自信が持てる研究に情熱を持って取り組めば、きっと道は開けると信じてきました。そのような研究であれば、自分の全ての時間を注ぎ込み(疲れ知らずで)粘り強く研究に没頭できます。
情熱を傾けて取り組める研究テーマを見つけだす(出会う)ためには、まず徹底的に「勉強」することが重要と思います。そして、視野を広げるためにたくさんの勉強や経験を積むこと、そして武者修行を含め積極的に多くの人と議論し彼らの脳(経験と知識)を利用することも重要だと、数少ない私の経験からは思います。
加えて東北大学は、この様な真にユニークで挑戦的な研究に腰を据えてじっくり取り組める環境を多くの若い研究者に与えてほしいと思います。