「生きている」とはどういうことかについて、物性物理学の観点から研究しています。例えば、動物の未受精卵と受精卵は、それぞれ生命として「眠っている状態」と「生きて活発に生命活動をしている状態」にあります。どちらも同じ物質でできているのに、「生きているか否か」という観点で見ると全く異なる状態にあります。私は、「生きている」ことについて、膜の流動性という物理量を通して評価しています。細胞膜は脂質の海にタンパク質が埋め込まれた構造をとっており、このタンパク質が細胞膜内外の物質と相互作用することで、情報伝達などの細胞機能が制御されています。このため、細胞膜の流動性は生命活動の活発さを知る上で重要な量です。私は、動物の未受精卵と受精卵の膜流動性を測定することで、「生きている状態」を物理量で表すこと、また「生きている状態」における流動性を支配する要因の解明に挑戦しています。
大学入学後にソフトマター物理学という分野があることを初めて知りました。ソフトマターの種類は、高分子や液晶など産業利用に直結するものから、生命をかたちづくる脂質のような両親媒性分子まで広範囲に及びます。最も複雑なソフトマターである生物を、シンプルな物理法則で理解しようと試みるこの分野の可能性に魅了され、今も研究を続けています。研究を始めたばかりの頃はソフトマター物理学という枠の中で研究を進めていましたが、興味の対象が生物ということもあり、気づけば医学・薬学・遺伝学などさまざまな分野の研究者と共同研究をしています。専門分野によって持っている知識や技術は異なりますが、一つの目標に向かって一緒に研究することで、お互いに新しい知識を吸収したり刺激をもらったりしています。学問の垣根を越えた研究から、医療への応用など新たな可能性を模索しています。
研究はうまくいかないことの連続なので大変だと感じることは多々ありますが、それでも続けてこられたのはひとえに研究が好きだからです。実験が成功したときの感動を共同研究者と分かち合えたときはよろこびもひとしおです。大学では、ぜひいろいろなことに好奇心を持ってチャレンジしてみてください。その中から、楽しい!と感じて一生懸命取り組めること、またそれを共有できる仲間に出会えることを願っています。