不思議だな、と思うところから研究が始まる

青葉山の面々 - Message from Aobayama.

瀧宮 和男

1.現在、どんな研究をしていますか?

有機合成化学の手法を用い、光・電子機能をもつ有機機能性材料を開発し、それらを光・電子デバイスに応用する研究を行っています。ベンゼンに代表されるπ電子系化合物は原子核に強く束縛されない電子をもち、それらは分子集合体(分子結晶)の中で、様々な振る舞いを示します。本来なら閉殻構造で動きようのないπ電子をもつ有機化合物が、外部からの刺激(例えば光照射、電界、化学ドープ、キャリア注入など)により半導体的に振る舞い、光電変換、スイッチング、電気伝導、発光などの様々な機能を発現します。また、分子の固体中での並び方は非常に多彩で、これを制御することで分子集合体としての振る舞いが大きく影響を受けます。このように階層的な性質をもつ有機材料研究において、分子そのものを設計し、合成し、そして配列を制御し、機能を明らかにするのが私たちのテーマです。

2.興味をもったきっかけは?

現在、研究対象としている有機分子は「有機半導体」と総称されます。この分野の研究を始める前は有機電子供与体と受容体から構成される電荷移動錯体の伝導性に関する研究を行っていました。ちょうど独自の超伝導体の開発に成功した2000年頃、有機半導体を用いた電界効果トランジスタで超伝導が発現する、という一連の報告があり、有機半導体デバイスに強く興味をもちました。その後、有機トランジスタによる超伝導という報告そのものは捏造であったことが明らかになったのですが、有機デバイスとその材料探索研究は世界的に大きな研究領域となりました。私自身も有機デバイスがもつ可能性に魅力を感じて研究を始めたのですが、分子の配列や分子間での軌道の重なり方がデバイスでの特性に大きく影響を与えるため、分子設計の可能性にも興味をもち研究を進めています。如何にして望みの特性を示す分子や分子集合体を創りだすか、というのが研究の最も面白い点です。

3.メッセージ

化学は新たな物質を生み出す学問分野です。中でも有機化学は炭素、水素、窒素、硫黄などの少数の元素を自在につなぐことで新しい分子を創りだしてきました。さらに、分子を固体中で規則的に配列させることで個々の分子からは想像も出来ないような新たな機能を生み出すことが可能です。有機分子そのものの構造の自由度は無限で、また集合体での配列様式も多様なので、有機材料は大きな可能性を秘めていると考えています。このような研究の楽しさを多くの学生や研究者と共有したいと思っています。