地球の中で実際に起こった地震現象を、揺れの観測データから明らかにして、そこから地震発生の背後にある一般的な物理過程を抽出することを目指しています。特に、地震の発生過程を応力や摩擦強度といった物理量から理解する研究を進めています。地球内部の応力・強度・流体の状態は直接測ることができないため、各地震活動の特徴や背景をうまく活用し対象に応じて情報を引き出そうとするアプローチを取っています。 現在は日本海溝沿いのプレート境界で同じ場所に繰り返し起こる「繰り返し地震」に注目し、地震の破壊過程の規則性・不規則性とその意味を明らかにしようとしています。具体的には地震の破壊がどこで始まり、どのように成長し、いつ止まり、その結果どのような規模になるのかを決めている要因の解明に取り組んでいます。とくに宮城沖を含む日本海溝沿いのプレート境界で、これまでに起こった地震と今後起こりうる地震の発生過程を理解することも重要な焦点の一つです。また内陸地震やスラブ内地震の研究を通じて、プレート内の変形過程と応力場の関係や、地殻中の流体が断層強度や地震発生過程に与える影響も調べています。
地震の発生過程に興味を持つようになったきっかけは、高校3年生と大学3年生のときに出身地の近くで起こった2004年新潟県中越地震と2007年新潟県中越沖地震でした。その後、2011年東北地方太平洋沖地震とそれに引き起こされた誘発地震群の研究に携わる中で、地殻応力や断層強度地殻流体の状態を明らかにすることの重要性を強く実感し、現在の研究につながっています。さらに、2021年に宮城県沖合で発生したM7.0地震を調べる中で、数少ない「再現性」をもつ地震現象である繰り返し地震の中に見られる不規則性に興味を持ち、その不規則性を利用して情報を抽出することに特に関心を持って研究を進めています。
私自身は、学生の頃、かなりふらふらしていて、将来研究者になろうというつもりも全くありませんでした。それでも実際に研究を始め、多くの仲間に助けてもらう中で、自分なりの考え方やアプローチを少しずつ見つけてきたように感じています。困難もありましたが、自分が本当に関心を持って取り組んできたことに関わる問題だったからこそ、奮起して乗り越えようと思えましたし、その過程で、多少は打たれ強くなった気もします。
世の中には理屈だけではわからないことがたくさんありますが、自然現象の中にはたしかに理屈で追いかけられる部分もあります。その「わかる部分」を少しずつ広げていくことが理学の研究のおもしろさだと思います。自分がどんなことにおもしろさや違和感を感じるのか、自分の中の興味や志向を大切にしていると、理学研究に限らず自分なりのものの見方や歩き方が少しずつ形になっていくのではないかという気がしています。