東北大学 大学院 理学研究科・理学部

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【受賞】物理学専攻 高橋史宜准教授が第8回(2013年度)素粒子メダル奨励賞を受賞

本研究科物理学専攻の高橋史宜准教授と高エネルギー加速器研究機構博士研究員檜垣徹太郎氏が"Dark Radiation and Dark Matter in Large Volume Compacti cations" により、第8回(2013年度)素粒子メダル奨励賞を受賞しました。



授賞理由:
超弦理論の4次元低エネルギー有効場の理論には、常にモジュラス場と呼ばれるが場が現れる。その真空期待値はコンパクト空間の大きさや形を与え、弦理論特有の自由度である。更に、アクシン場と組みになり、複素場を構成する。これらのモジュライーアクシオン場のいくつかは、軽い可能性が指摘されている。一方このような弱く結合した軽い粒子が存在すると宇宙の進化に大きな影響を及ぼし、たとえばモジュライ問題と呼ばれる問題を引き起こす。したがって、モジュライとアクシオンの関係は宇宙観測から大きな制限を受ける一方で、検証可能な予言を与える。本研究は新たにモジュライ崩壊からくるアクシオンを暗黒輻射(Dark Radiation) と結びつけ、弦理論から得られる宇宙論的帰結の一つとして整理した興味深い研究である。
暗黒輻射(Dark Radiation) は、宇宙論的な観測からその存在が示唆されていた、相対論的な暗黒物質のことである。2010 年のWMAP7 とSPTの解析ではこの成分は3.86  0.42 と考えられ、95% CL で標準模型の予言からはずれていた。このため、このような成分を説明する模型が模索された。
受賞論文では、コンパクトスケールが電弱スケールとプランクスケールの中間程度のスケールとするLarge Volume Compacti cation (LVC) シナリオの枠内で、超対称性の破れを主に引き起こすセクターと標準模型のセクターとが直接結合していないsequesterd 型と直接結合しているnon-sequesterd 型の2つの具体的な模型を構築し、最も軽いモジュライーアクシオン場に注目して、アクシオンが暗黒輻射となる可能性を議論している。
この模型では、グラビティーノはモジュラスに比べて重くモジュラスのグラビティーノへの崩壊が禁止されるため、モジュラス崩壊によるグラビティーノ問題が軽減されるという点で有力である。著者らは、グラビーティーノへの崩壊が禁止されるために、モジュラスからアクシオンへの崩壊がに大きくなることを示し暗黒輻射として十分な密度を生成しうる事を示した。また、暗黒輻射の量を評価するために、モジュラスの崩壊様式を詳しく調べ, モジュラスの全崩壊における ヒッグス粒子への崩壊の重要性(Giudice-Masiero 項のの寄与)を考慮した。さらに、sequesterd 型模型においては、そのヒッグス粒子を通した最も軽い超対称粒子の生成を評価し、暗黒物質と暗黒輻射との関連を議論している。
モジュラスの崩壊パターンについては "Higgs Moduli Problem, Baryo-gensis and Large Volume Compacti cation" T. Higaki, K. Kamada,F.Takahashi  (JHEP09(2012) 043) で指摘されたものの発展である。また、この後、2013 年のPlanck の観測によって、ニュートリノを含む相対論的成分の量の中心値がさがり、3.30+0.54-0.51(95%CL ) と95% CL の範囲で標準模型の値を含むようになった。しかしながら、この論文で指摘されているようにモジュラスから軽いアクシオンへの崩壊は一般に起こり、相対論的成分量の観測値の減少はモジュライーアクシオン場の性質への制限と捉え直すことができる。このことを受けて T. Higaki, K.Nakayama, F Takahashi  (JCAP 1309(2013)030) によって、宇宙初期でのアクシオン-光子変換に着目して、LVC 模型について考察する試みにも繋がっており、選考委員会はこの一連の仕事を評価したことを付記する。この論文は、模型が新しい観測結果を説明しうる/模型が観測結果によって制限されることを、綿密に追い続けたものとして評価でき、素粒子メダル奨励賞にふさわしいと仕事であると認めることができる。
大域的な宇宙の観測は、コライダー実験などでは直接探索できないより高いスケールの物理について重要な証左を与えると期待され、素粒子論の発展に重要である。受賞者の今後の研究のますますの発展を期待するものである。

※素粒子メダル奨励賞とは、素粒子論を志す若手研究者の優れた研究を評価し、奨励することを目的とした賞です。


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