東北大学 大学院 理学研究科・理学部

Graduate School of Science and faculty of Science , Tohoku University

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【プレスリリース】ホウ酸によるリボースの選択的安定化を発見 ~RNAの起源や生命起源に対する新たな制約~

概要

国立大学法人東北大学大学院理学研究科の古川善博助教、堀内真愛さん(現 株式会社島津製作所)、掛川武教授の研究グループは、ホウ酸がリボース(注1)を選択的に安定化させることを発見しました。リボースはRNA(注2)の構成物質であり、RNAは生命誕生の初期段階において最も重要な有機物であると考えられています(参考文献1)。しかし、リボースは非常に分解しやすく、このことがRNAの起源において大きな問題になっていました。今回の発見は生命誕生前の地球で、ホウ酸(図1は天然のホウ酸塩の例)がリボースと結合することにより、リボースの安定性が向上し、RNAの形成に繋がったことを示唆するものです。この発見はRNAがなぜリボースを使っているのかという謎に対する答えとなる可能性があります。
20131224095546.jpg 本研究の成果は12月18日(日本時間)に生命の起源と進化に関する科学誌「Origins of Life and Evolution of Biospheres」にてオンライン公開されました

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詳細

1. 研究の背景
現在の生命において遺伝情報はDNAに記録されており、生体内の様々な反応はタンパク質によってコントロールされています。これらは生命にとって不可欠な物質と考えられていますが、生命誕生期の地球や宇宙の環境を考えると、DNAとタンパク質が同時につくられる様な環境は考えにくいという問題点があります。一方でRNAはDNAの遺伝情報の一部を保持しており、RNAの中にははタンパク質の様な酵素機能を持っているものがあることが知られています。このため、生命誕生の時期にはRNAがDNAとタンパク質の両方の重要な機能を担っていたと考えられており、この仮説はRNAワールド仮説として分子生物学の教科書にも紹介されるような広く認知された説となっています(参考文献1)。
しかし、RNAの起源についても未解決の問題はあります。それはRNAの構成物質であるリボースが不安定であるということです。リボースには構造の良く似た異性体(注3)がいくつか存在しますが、それらのうちリボースは最も分解しやすいということが知られています。この様に不安定なリボースが、他の異性体を差し置いてなぜRNAの構成物質として選択されたのかということは全くの謎でした。2004年に米フロリダ大学の研究グループが、ホウ酸により五炭糖(注4)が安定化されることを発見しました。しかし、適切な分析技術が無かったため、ホウ酸が五炭糖のうちどの糖を安定化させるのか、本当にリボースに影響を与えるのかは判っていませんでした。

2. 研究の内容と意義
古川助教らの研究グループは試行錯誤を重ね、五炭糖の分析手法を開発しました。この手法を用いてホウ酸が4種類のアルドース型五炭糖(注5)の安定性にどのような影響を与えるのかを実験により測定しました。その結果、水溶液中でリボースはホウ酸と複合体を形成し、ホウ酸の濃度に応じて、リボースの分解速度が減少することを発見しました。また、リボースは他の3種類の五炭糖に比べてホウ酸による安定化効果が最も高く、高濃度のホウ酸水溶液中では、五炭糖のうちリボースの安定性が最も高くなることを発見しました。
この実験結果は、生命誕生前の地球のホウ酸濃度が高い環境でリボースが選択的に蓄えられることを示しており、そのような環境で始原的なRNAの形成が起こったことを示唆しています。問題点が指摘されていたRNAワールド仮説の穴を埋める発見となりました。
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用語の説明

注1)リボース 
炭素原子を5つ含む糖の一種で、RNAの構成物質(図1,3)。
注2)RNA
リボース、核酸塩基、リン酸から構成される有機物で、現在の生命ではDNAに記録された遺伝情報からタンパク質を生成する際に情報を運搬する役割を担っている。一部のRNAはタンパク質に似た酵素としての機能も持つことから、生命誕生初期にはDNAとタンパク質の両方の機能を担っていたと考えられている。
注3)異性体
同じ数、同じ種類の原子で構成されているが、構造が異なる物質。リボースの構造異性体にはアラビノース、リキソース、キシロース、キシルロース、リブロース(図3)がある。
注4)五炭糖 (図3)
リボースの構造異性体であり、5つの炭素を含む糖の総称。リボース、アラビノース、リキソース、キシロース、キシルロース、リブロースの6種類がある。
注5)アルドース型五炭糖 (図3)
五炭糖のうち、分子内にアルデヒド基をもつ、リボースに非常に近い(同じ官能基で構成される)糖。リボース、アラビノース、リキソース、キシロースの4種類がある。

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【参考文献】
1.The Cell 細胞の分子生物学 第4版, Bruce Alberts(著),中村桂子,松原謙一(翻訳)

【謝辞】
本研究はJSPS科研費(Grant Number: 22654063, 24244084, and 23740402)と東北大学グローバルCOEプログラム「変動惑星学の統合研究拠点」の助成を受けたものです。

【お問い合わせ先】
東北大学大学院理学研究科地学専攻
〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
助教 古川善博(Yoshihiro Furukawa)
電話番号:022-795-3453
E-mail:furukawa*m.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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