東北大学 大学院 理学研究科・理学部

Graduate School of Science and faculty of Science , Tohoku University

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【プレスリリース】北海道〜関東地方の沖合で周期的なスロースリップを発見 ー大地震の発生予測に新たな手がかりー

 東北大学大学院理学研究科・東北大学災害科学国際研究所の内田直希助教、日野亮太教授、国立研究開発法人海洋研究開発機構の飯沼卓史研究員らのグループは、カリフォルニア大学バークレー校のローランド・バーグマン教授、ロバート・ナドー博士とともに、北海道〜関東地方の沖合のプレート境界断層の広い範囲で、周期的な「スロースリップ(注1)」が発生していることを地震および地殻変動データから発見しました。スロースリップは、人間が感じられるような揺れを起こさずにゆっくりと地中の断層がずれ動く現象ですが、これまで北海道・東北地方の太平洋側では広域にわたる周期的スロースリップの発生は知られていませんでした。今回発見されたスロースリップは、地域によって異なり、1〜6年の発生間隔を持ちます。その発生に同期してその地域でのM5以上の規模の大きな地震の活動が活発化しており、東北地方太平洋沖地震が発生した時期にも、三陸沖ではスリップが発生していました。このように周期的なスロースリップが発生しているときに大地震が起こりやすくなる傾向を活用すれば、それを地震・地殻変動観測で検知することによって、大地震発生時期の予測の高度化に貢献できる可能性があります。

 この研究成果は、2016年1月29日の米国の科学雑誌「Science」電子版に掲載されました。

□ 東北大学プレスリリース本文


概要


 プレート境界断層では、巨大地震に代表される急激な断層すべりのほかに、人間には感じられないゆっくりとしたすべり(スロースリップ)も発生していることが知られています。本研究では北海道〜関東地方の沖合のプレート境界断層の広い範囲で、周期的なスロースリップが発生していることを相似地震(注2)および地殻変動データから見出しました(図1)。日本での大規模で広域にわたる周期的スロースリップはこれまで西日本でのみ知られていましたが、東日本では初めての発見です。このスロースリップは、北海道〜関東地方の沖合の広い範囲において地域により異なる1〜6年の繰り返し周期を持ち、その加速時期に規模の大きな地震の数の増加をもたらしていました。スロースリップによる周期的な応力(注3)変化が大地震の発生時期を変調させていると考えられます。従来の地震発生予測の多くは、地震の発生履歴のデータと、最後の地震からの時間にのみ依存して行われていますが、周期的なスロースリップが発生しているときに大地震が起こりやすくなるという本研究の結果は、周期的な応力変化を考慮することで、今後の大地震発生時期の予測を高度化することができることを示唆します。


背景


 東日本大震災をもたらした2011年東北地方太平洋沖地震のような大地震を発生させるプレート境界断層では、このような巨大地震に代表される急激な断層すべりのほかに、人間には感じられないゆっくりとしたすべり(スロースリップ)も発生していることが知られています。これまで関東以西のフィリピン海プレート上では、周期的なスロースリップの発生が知られていましたが、東日本の太平洋プレート上では、従来、このようなスロースリップには、主に断層深部で発生する、ほぼ定常的なすべりと、大地震の後にその周囲で発生し、時間とともにおさまっていく余効すべりという2つのタイプのみが知られていました。
 スロースリップは、周囲の応力を増加させ、大地震を発生させうることが指摘されているため、多くの研究者が注目しています。東北大学は、東日本でのスロースリップの発生状況を詳しく明らかにするために、長年、定常的な地震・地殻変動観測を行うとともに、カリフォルニア大学バークレー校の研究グループと、北海道大学・東京大学・国土地理院を含めた地震・地殻変動観測に基づくスロースリップの検出の研究を進めてきました。


方法


 本研究では、相似地震(小繰り返し地震)と呼ばれるプレート境界の地震と日本列島の地表を覆うGPS(注4)観測網による地殻変動データの2つから、北海道〜関東地方の沖合のプレート境界で発生するスロースリップの周期的発生を検出しました。
 相似地震は、波形の相似性が極めて高い地震群を指し、スロースリップが卓越しているプレート境界断層中に存在する小さな固着域(アスペリティ)(注5)が繰り返し滑ることによって発生していると考えられています(図1)。これらの相似地震はその周りのスロースリップに追いつくように発生しているため、相似地震のすべりを積算することにより、通常把握が難しい地下のプレート境界でのスロースリップの量・分布を直接知ることができます。この方法は、カリフォルニア大学バークレー校のグループがアメリカのサンアンドレアス断層で初めて実用化したもので、沈み込み帯である日本においては、陸地から離れた海域下でのスロースリップを検知するために大変有効な手法です。
 一方、プレート境界でのスロースリップの加速・減速は、日本列島の地表を微小に変形させます。カーナビゲーションシステムなどで知られるGPSを用いた陸上観測点の精密測位からも、地表の変形を捉えることにより、間接的に沖合のスロースリップの発生状況を知ることができます(図1)。これは、上記の相似地震とはまったく別個のデータであるため、両者を併用することで、プレート境界でのスロースリップ発生の決定的証拠となります。


内容


 本研究では、東北沖で発生する相似地震を用い、過去28年間のプレート境界でのスロースリップの速度の変化を調べました。そのうち、三陸沖の東部では、スロースリップの速度に、約3年周期の変動が見られることがわかりました(図2上)。さらに、同地域のマグニチュード5以上の比較的大きな地震について調べると、これらの地震の数も約3年の周期的増減をもつととともに、すべり速度が早い時期(スロースリップが発生している時期)に、遅い時期に比べ6.2倍多くの地震が発生していることがわかりました。同様な大規模地震とスロースリップの関係は、三陸沖西部(図2下)を含め、解析された10地域中8地域で見られました。また、東北地方太平洋沖地震の発生時も、その北部の領域ですべり速度が増加している時期に対応していました。
 スロースリップの周期および周期性の強さの空間分布を調べたところ、空間的に非常に不均質ですが、おおよそ1~6年の周期を持つ場所が多いこと、過去の大地震のすべり域では比較的周期が長く、周期性が弱いことがわかりました(図3)。
 また、相似地震の発生時期と大規模地震の発生時期を詳細に比較したところ、相似地震の活動の活発化が、大規模地震の発生に先行している事例が多く見つかりました。これはスロースリップの加速により、大規模な地震の発生が促進されていることを示しています。以上のことから、周期的なスロースリップの発生が、地震の発生時期を決める大きな要因となっていることが示されました。


本研究の意義・今後の展開


 断層上で発生するスロースリップは、大地震に先行するすべり現象の1つとして特に注目されています。そのようなすべりには、地震の直前に発生すると考えられているプレスリップと呼ばれるものがありますが、本研究で見られた現象は、それとは異なり、 より長期にわたって繰り返し発生するものです。しかし、そのすべりは、大地震を発生させる固着域への応力集中を通じて地震の発生を促進させているものと考えられます。
 実際に東北地方太平洋地震の前のスロースリップの発生は、他の研究からもすでに報告されています(例えば、Kato et al., Science, 2012)が、本研究で得られた結果は、そのようなスロースリップが実は頻繁に起こっており、しかも周期的に起こる性質を持つことを示しています。周期的なスロースリップの加速時には、必ず大きな地震が発生するというものではありませんが、地震発生の可能性が他の期間よりも高いということは言えます。
 従来の地震発生予測の多くは、地震の発生履歴のデータと、最後の地震からの時間にのみ依存して行われていますが、今後、スロースリップによる周期的な応力変化を考慮することで、大地震発生の予測を高度化することができる可能性があります。


研究助成資金等


文部科学省 災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画
日本学術振興会科学研究費補助金23740328, 15K05260(代表者:内田直希・東北大学)
日本学術振興会科学研究費補助金26000002(代表者:日野亮太・東北大学)
東北大学 若手リーダー研究者海外派遣プログラム(内田直希)
Berkeley Institute for Data Science (Robert Nadeau)
National Science Foundation award EAR-1246850 (Roland Bürgmann)


掲載論文名


著者:Naoki Uchida1 *, Takeshi Iinuma2 †, Robert M. Nadeau3, Roland Bürgmann4, Ryota Hino1
*責任著者, †現海洋研究開発機構
1: 東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター・東北大学災害科学国際研究所、 2: 東北大学災害科学国際研究所、3: California大学Berkley校Berkeley Seismological Laboratory and Berkeley Institute for Data Science,4: California大学Barkley校Berkeley Seismological Laboratory and Department of Earth and Planetary Science
論文題目:Periodic slow slip triggers megathrust zone earthquakes in northeastern Japan
掲載雑誌:Science


参考図

20160129_10.png 図1 研究に用いた観測データおよび結果と大地震の発生との関係についての模式図。本研究では、プレート境界で発生する相似地震を用いて、周期的にプレート境界のすべり速度が変化していることを見出しました。陸上のGPSデータからも、同様の地面の短縮速度の時間変化を捉えられ、沖合での周期的なスロースリップの存在を証明しました。このような周期的スロースリップは、大規模な地震を起こす固着域に周期的な力の変化をもたらすことで、地震発生数を変調させていると考えられます。

20160129_20.png 図2 繰り返し地震データから推定した三陸沖東部(上)および西部(下)でのプレート境界でのすべり速度(スロースリップの速度)。2つの領域の場所は図3に示す。赤線はすべり速度に当てはめた周期関数。それぞれの図上部の星は、マグニチュード5以上の地震の活動を示し、緑はそのうち、周期関数の位相が正(すべり速度が速い時期)に発生したものを示す。

20160129_30.png 図3 相似地震から推定されたプレート境界でのスロースリップの周期およびその強さの分布。丸は、GPSデータにより推定された沈み込み方向の地面の短縮速度の周期を示す。赤い線は、宮城県から茨城県の沖合にわたる東北地方大太平洋沖地震(東北沖地震)のすべり域および他の大地震のすべり域を示す。短縮速度は、沖合のスロースリップにより変動すると考えられ、実際、相似地震から得られた沖合のスロースリップの周期と陸上のGPSから推定された周期はおおよそ対応している。


用語解説


 注1. スロースリップ
 断層の両側の岩石が、人間が感じるような地震波を放出せずゆっくりとずれ動く現象。通常の地震と同一の断層上で発生し、スロースリップと地震の間には密接な相互作用があると考えられている。

 注2. 相似地震
 繰り返し地震とも呼ばれ、断層上のスロースリップを起こす非地震性すべり領域に囲まれた地震性の小アスペリティ(固着域)で起こると考えられる(下図A、B)。相似地震はとてもよく似た波形を持つ(下図C)。同一断層上に位置する相似地震のパッチとその外側の領域は、長期的には同じ量のすべりを起こすと考えられることから、相似地震の活動(下図D)から、それぞれの相似地震グループについて積算すべりを求め(下図E)、ある領域で平均することで、その領域の平均の積算すべり量を求めることができる(下図F)。この積算すべり量の傾きがすべり速度となる(下図G)。
20160129_40.png
 注3. 応力
 物体の内部に生じる力。断層を食い違えさせようとする応力により断層すべりが生じる。

 注4. GPS(全地球測位システム)
 人工衛星を用いた地球上の位置を測定するためのシステム。日本列島には、GPS観測を行う国土地理院の電子基準点が約20kmの平均的な観測点間隔をもって設置されており、地殻変動を各観測点でのGPS連続観測に基づいて検出できる。本研究では、微小な変形を検出するため、プレート沈み込み方向の地表の運動速度の空間勾配を研究に利用した。

 注5. 固着域(アスペリティ)
 断層上で、普段はくっついていて地震時に急激なすべりを起こす場所。


お問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科
助教 内田 直希(うちだ なおき)
電話:022-225-1950
E-mail:naoki.uchida.b6[at]tohoku.ac.jp

<報道・広報に関すること>
東北大学 大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022−795−5572
E-mail: r.takahashi[at]m.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください
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