まえがき

maegaki_tsuzuki.png 東北大学理学部・理学研究科には高い研究意欲を持った優秀な学生が多数在籍しています。彼女たち・彼たちは本学の誇りです。大学や公的機関、民間企業、学校といった様々な舞台で、科学の発展や社会の進歩に貢献してくれると信じています。

しかし、一つ困ったことがあります。本学の学風なのか、優秀な学生ほど謙虚です。そういった学生はしばしば自分の実力や研究のキャリア形成上の意義(研究を通した成長)を過小評価してしまう傾向があります。

おそらく、保護者の皆様も似たような気持ちが胸に去来したこともあるのではないでしょうか。「うちの子は何やら難しいことを勉強しているらしいが、それが一体この子の未来にどう繋がるのか・・・」といった形で。

私たち教員・職員としては、学生にもっと自信を持ってもらい、東北大学理学部・理学研究科で培った力を活かして子どものときの夢や学生のときに思い描いた未来の実現にチャレンジしてほしいと心から願っています。

このような観点から、この度「進学・就活ハンドブック」を作成し、学生や保護者の皆様にご送付させていただくことにいたしました。これまでの進学実績や就職実績を土台として、理学部・理学研究科での日々が将来にどのようにつながっていくのか、写真やイラストを交えて解説したり、学生やOGOB、さらには保護者の声を借りて説明しています。

気軽に読めるコンテンツばかりです。お一人であるいは親子、ご家族でご覧いただければと存じます。

東北大学理学部・理学研究科長
都築暢夫

大学院進学・就職の基礎知識

なぜ進学や就職を今から考える必要があるのでしょうか?

黒田 最近は下火になりましたが、かつての日本企業には、会社で必要な人材を入社後の研修やОJT(On the JobTraining)でじっくり育てていく文化がありました。そのため、就職や採用の段階では、頭が良く、素直な姿勢で新しいことをどんどん吸収してくれるような優等生タイプの学生が重宝されていました。良い大学(=受験倍率の高い大学)に入った学生が就職で有利だったのです。

かもしか なんとなく聞いたことがあります。最近は、企業が採用時に新入社員に仕事で必要な力を求める「ジョブ型雇用」という、新しい就職・採用のスタイルが広がっているとか。実際にどのくらいの企業がこのスタイルを採用しているんですか?

image_0.png黒田 正確な把握は難しいですが、いろいろな調査を見ると約20%の企業がジョブ型雇用をスタートさせており、大手企業では約30%がこのスタイルを取り入れているようです。ジョブ型雇用が重視されるようになった背景には、国際競争の激化や人口減などがありますので、この転換は一時的なものではなく、今後も続いていく可能性が高いです。

みみずく じゃあ僕たちが就職するころは、ジョブ型雇用はもう当たり前になっていそうですね。なんだか「お前には何ができるんだ!」と問われる厳しい時代になりそうで嫌だな…。

黒田 不安になる気もちはわかりますが、新しい時代にあった発想を身につけたほうがあなたたちのためにもなります。現代の大学生には、キャリア形成の観点から戦略的に大学院進学や就職活動を「デザインしていく」発想が求められます。これこそが、進学や就職について真剣に検討しなければならない理由です。大学や大学院で学んだこと、そして自分の強みを活かせるような就職先を見つけることが大切です!


東北大学理学部・理学研究科の進学率・就職率・就職先の実績

かもしか 考え方はわかったけど、具体的にどうしたらいいかちょっと不安です。そもそも理学は就職に強くないというイメージがあるし、もしかして理学部に進学した段階で「詰んでる」なんてことないですよね…。

黒田 それは完全に誤解です!東北大学理学部・理学研究科の就職状況はすごく良いのです。(図1)

みみずく ほんとですか?

図1 東北大学理学部・理学研究科の進学・就職の概要

黒田 まず、学部を卒業した学生300人のうち、85%である250人は博士課程前期(修士)に進学します。そして残りの50人のうち、約30人が官公庁や民間企業、学校教員などに就職する傾向にあります。

かもしか 学部卒で就職するより、進学率が圧倒的に高いんですね。

黒田 さらに博士課程前期(修士)を修了した学生のうち、約20~30%の学生が博士課程後期(博士)に進学し、就職する学生は約65~75%です。しかし、ジョブ型雇用の時代に変わり、実力が求められるようになっていくと、博士に進学して地力をつけようとする学生も増えていきそうですね。

みみずく 博士課程後期(博士)の就職はあまりいいイメージがないんですけど、実際どうなんでしょうか?

黒田 東北大学大学院理学研究科の場合、3月修了・4月採用という通常の採用スケジュールで動く学生は年間約40人いて、このうち約半数の学生は大学教員や公的研究機関の研究員に、また半数の学生は民間企業の研究開発者になります。アカデミアの道を志して就職浪人する学生は数名(約5%)いますが、1年以内にアカデミアのポストを得るケースがほとんどです。

かもしか なるほど。学部や修士の就職率とあまり差がないようですね。

黒田 そのとおり!東北大学理学部・理学研究科の学生全体の就職率は約95%で、学部、修士、博士でも大きな差はありません。なので就職できるかどうかを考えるよりも、自分の能力や適性、将来の夢にあわせて、自分に必要な段階まで進学することをおすすめします。自分にあった形で大学や大学院を活用するというイメージでOKです。「みんなが修士に進学するから自分もそうする」とか、「ほとんど修士卒で就職するみたいだから自分もそうしよう」という感じで周りに流されるのは避けましょう。また、「一般的に有名な大企業に就職できればそれで良い」という考えかたも危険です。有名な企業に入社しても、その職場で活躍できなければ充実した職業生活を送ることはできないし、入社後すぐ離職ということにもなりかねません。どんな職場でも、そこで働くのは自分自身です。自分の強みを活かせる職場を見つけること、そして在学中は自分の強みを磨き上げることが大事なのです。大学名や企業名は参考程度にとどめ、自分にあった道を進んでいきましょう!

みみずく 「就職できるかどうか」を気にするのではなく、「自分にあったキャリアとはなにか」を突き詰めて考えていくことが大事ということですね。

【参考】卒業後の進路東北大学理学部・理学研究科卒業生の主な就職先

理学部・理学研究科で学ぶことが将来にどう影響するのでしょうか?

image_0.png黒田 強みを活かしたり、強みを磨いたりする意味でも、学生の皆さんには学部や大学院で理学を学ぶことの重要性を理解していただきたいですね。

みみずく でも、理学を学ぶことが将来にどう役立つのかがわからないです。

黒田 それは理学部あるあるです。工学や薬学では学問と仕事の関係が明確ですが、理学はそうではないので。でも、大学や大学院で理学を深く学び、研究に取り組むことで、科学の専門性を身につけることができます。(左図)例えば、数学や理論研究に取り組めば、数理的・論理的思考力、柔軟な発想力や創造性、粘り強く思考を展開していく習慣が身につきます。このように、科学の専門性には、科学に関する知識やスキルだけではなく、科学の精神(科学的思考やフロンティアスピリッツ、創造性など)が含まれます。むしろこれこそが科学の専門性の本質だと言えるでしょう。これが将来とても役に立つのです。科学の専門性は、他所でも身につくかもしれませんが、その本質たる科学の精神は、理学部・理学研究科でこそ身につけられるものだと私は思います。理学部・理学研究科では、自然現象を支配する原理や法則をとことん突き詰めて学習・研究をしますよね?これはつまり、科学に真剣に向き合える時間や場所が理学部・理学研究科にはたくさん用意されているということです。これは、他の学部・研究科にはなかなかないということに気づいていましたか?

かもしか 確かに、資格の勉強とかもないし、科学について自由に深く学べるような授業が多いですね。

黒田 そうです!しかも、大学院に進学して研究に携わるようになると、今まで学んできた原理や法則は個別的・具体的な研究テーマの枠を越え、様々な研究分野や研究開発の場面で《使える》知識だということを実感するようになります。ある博士の学生が自動車部品のメーカーに就職しましたが、就活前は「断層摩擦に関する研究が何の役に立つんだろう」と不安だったそうです。しかし、実際に就活したところ、メーカーの方から「ブレーキの開発でも断層摩擦の研究で身につけた科学的知識は重要だ」とアドバイスされたそうです。そして実際にメーカーで働いてみると、開発現場で行う、様々な実験の背後にある物理法則や材料の化学的性質に関する深い理解こそが本当の意味で《使える》知識なのだと実感したとのこと。そのような本質的な知識や理解こそが、研究開発のアイデアや長期的なビジョンの源泉になるようです。これぞまさに「理学の博士」というエピソードではないでしょうか?

図:東北大学大学院理学研究科では、株式会社アカリクの協力のもとで、約60社の企業を対象に、研究を通して身につく力に関する評価を5段階で尋ねました(上図。5が「最も重要である」、1が「全く重要ではない」)。他分野との比較も視野に、あえて理学っぽくない項目も含めています。


東北大学理学部・理学研究科での研究を通してどんな力が身につくのでしょうか?

黒田 せっかくなので、もう少し細かく、研究を通して身につく科学の専門性についてお話ししましょう。実は東北大学理学部・理学研究科で身につく科学の専門性は、大きく4つのタイプに整理できそうだということもわかっています。

みみずく 4つのタイプ?

黒田 それぞれを簡単に説明すると、1つめは数理的思考や論理的思考に長けた理論家タイプ。2つめは実験や観測の運用に長けた実験家・観測家タイプ。3つめはチームを牽引し、精神的なタフさを持つプロジェクトリーダータイプ。そして、最後の4つめは語学力に長けたグローバル人材タイプです。

かもしか その専門性は研究活動だけでなく、仕事にも役立つんですね。

黒田 そうです。例えば新しい企画を立てるときに、理論家がいるかいないかで大きな差が生じることがありますし、実験家や観測家はモノづくりの現場で大活躍します。そして、プロジェクトリーダーやグローバル人材はリーダーシップやコミュニケーション能力に優れているため、どのような仕事でも活躍できるはずです。

みみずく 「理学」という言葉はどこか浮世離れしたイメージがあるけど、結構仕事との関係が深いんですね。

黒田 現代社会で生き抜くために、科学の精神以上に役に立つものはありません。ジョブ型雇用の時代を生き抜くためにも、修士はもちろん、博士にも積極的に進学して、誰にも負けない科学の専門性を身につけることをオススメします!

黒田 複数のタイプを兼ね備えた学生もたくさんいます!自分にあったタイプを見つけていきましょう。

【参考】動画:東北大学理学部・大学院理学研究科若きサイエンスチャレンジャーへ 本動画では、東北大学理学部・理学研究科に在籍する学生の皆さんが成長する姿と研究を通して身につく力について、視覚的にわかりやすく紹介しています。ぜひご覧ください。

大学院進学は、将来の経済的リターンにつながる!

黒田 企業が科学の専門性を持った人材を求めていることとも関わりますが、実は大学院に進学すること自体も意外と企業から評価されています。「日本は博士の給料が低い」というウワサを聞いたことはありますか?

みみずく 月給が2~3万円くらいの差しかないとか。

黒田 そうです。実際に初任給を比べると学部卒、修士卒、博士卒の差はあまりありません。しかし、長い目で見ると実は結構違ってくるのです。(図2)就職時点では、博士の給料は学は学部や修士とほとんど変わりませんが、生涯で見るとその差は大きくなります。少し古いデータになりますが、学部卒の生涯賃金は2億5600万円、修士卒は2億8708万円、博士卒は3億6297万円くらいとの報告もあるのです。税金や保険料が差し引かれる前の額なので、手取りで見ると差は縮まりますが、それでも大きな差があるというのがわかりますね?学部と修士では仙台の家一軒分ほど稼ぎが違い、学部と博士では東京の家一軒分ほど稼ぎが違うということです。


図2 学部卒・修士卒・博士卒の年代ごとの賃金をプロットしたグラフ
就職した時点では、博士卒の給料は、学部卒・修士卒と大差ありませんが、生涯全体で見るとその差は歴然です。

image_0.pngかもしか その差はすごい…。

黒田 散々お金の話をしたあとですが、お給料のことばかり気にするのも良くないですね。大学院に進学することで、将来のキャリアアップに役立つようなスキル、特に科学の専門性を身につけることができます。これがまず大事で、その力を社会で活かせるからこそ、博士号取得者は企業から高く評価されるのです。

みみずく でも、博士に進学するとまた家族に迷惑をかけちゃうかも…。

黒田 確かに、大学院に進むためにはお金がかかるものです。いくら自分が研究したいと思っていても、博士まで進学するのは気が引けるかもしれません。ただ、大学院は自分の知的好奇心を満たすためだけの場所ではありません。博士課程後期で研究に打ち込むことは、将来への投資にもなります。もちろん、大学院進学は人生の大きな決断ですから、保護者の方ともきちんと相談する必要があります。お金のことや修了後のキャリアのことも含めて、保護者の方と一緒に、大学院進学について多角的に検討してみてください。


【参考】奨学金情報

日本の奨学金制度は、返還する必要のある「貸与型奨学金(≒教育ローン)」が中心です。しかし、2022年頃から博士(博士課程後期)を対象にした、生活費相当(毎月18万〜20万)で返還する必要のない給付型奨学金が急速に拡大しています。その多くは、奨学金を給付するだけでなく、研究費の支給がセットになっていたり、海外での研究留学の費用が支給されたり、企業との共同研究やインターンシップの機会があったりと、学生の研究や学習を総合的に支援する様々な施策とパッケージになっています。こうしたパッケージは「大学院プログラム」と呼ばれています。

2023年現在、東北大学には「国際共同大学院プログラム」「産学共創大学院プログラム」「学際高等研究教育院」の3種類の大学院プログラムが存在しています。こうしたプログラムに参加することで、学費や生活費といったコストを抑えることができるだけではなく、自分自身の成長を更に加速させることができます。つまり、博士進学のコスパが劇的に向上し、経済的心配をすることなく、博士進学によって自分の人生を大きく飛躍させるチャンスが与えられるのです。

このような新しい奨学金事業は、従来の奨学金とは毛色が違うので、学生の皆様・保護者の皆様にとっては少しわかりにくいかもしれません。もし「博士に進学しようか迷っているけど、どれくらい費用が必要なのか不安だな」「博士学生を対象にした奨学金ってどんなものがあるのかな」と感じたら、まず「博士向け奨学金制度」のページをご確認ください。基本的な情報はここに記載してあります。また、学生支援係やキャリア支援室にご相談いただくことも可能です。



実際に理学を学んだ多くの卒業生は、科学に関する専門知識やスキル、研究・開発に向き合う姿勢、自然・社会に対するモノの見方などを仕事や人生に活かしています。今回は、様々な分野で活躍している卒業生に理学で学んだことがどのように役に立っているか、インタビューを行いました。(五十音順に掲載)


image_aka 赤澤 雄也さん
(株式会社NAT 勤務。2018年度物理学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
現在の仕事は大型加速器実験施設の保守・運転業務です。東北大学在学中にはユーザーとして研究を行っていた施設で、今度は研究者を支える側として働いています。ユーザーの気持ちが理解できることは大きな利点となっていて、1秒でも多く安定した実験機会を提供することを常に心がけています。作業が大変な時もありますが、その一つ一つが最先端の科学実験を支えているのだと思って、日々励んでいます。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
大いに役立っています。まず第一に挙げたいスキルは「論理的な思考」です。具体的に言えば、「何のために」「何をどこまで」「どうやって」など、行動の背景や目的を明確に把握する力です。これはどの分野で何をするにしても必要なスキルです。仕事の上では、作業結果の評価、他作業員への注意点の指示、優先順位の設定、業務改善の提案等のあらゆる場面で役立っています。論文執筆や発表等を通して徹底的に鍛えられると思うので、是非とも早い段階で身に付けてください。他に役立っていると感じるのは、実行力や分からないことをすぐに調べる癖などでしょうか。大学での研究は自分が動かないと進まないので、これらも自然に身についていくスキルだと思います。以上の身に付けたスキルのおかげで、企業に就職した段階ではまったくの分野外でスタートラインが後ろであったとしても、そこからの成長率という点ではかなり優位に立っていると実感しています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
博士課程後期への進学を考えている後輩に対して、私はいつも「よーく考えた方がいい」と伝えています。結局手足を動かすのは自分なので、後悔のないように覚悟を持って選択してほしいです。大学にいると先生や優秀な先輩から話を聞く機会が多くなると思いますが、その裏には他の道に進んだ人も多くいることを理解して、フラットに判断して下さい。その上で進学の利点について考えると、最先端の研究に中心的に携われるということが挙げられます。それゆえの苦労と楽しみが数多くあります。その試練を乗り越えて修了する頃には、どこへ進んでも中心的な役割をこなせる人材に成長しているはずです。自分の成長につながると信じて、積極的に取り組んでみてください。さて、学生の間は将来のことが見通せず、不安な人がいるのではないでしょうか。私もたくさん悩みました。私は幸運にも先生方や家族の多大なるサポートのおかげで乗り切ることができました。私の話がみなさんの考える一助になれば幸いです。


梅津 敬一さん
(Institute of Astronomy and Astrophysics, Academia Sinica (ASIAA), Taiwan勤務。2000年度天文学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
私は台湾政府の高等研究所(ASIAA)のアカデミックスタッフであり、天文学・宇宙物理学の研究を行っています。私の研究は、特に暗黒物質の性質と宇宙構造形成における役割を理解することに焦点を当てています。私の専門分野は、重力レンズ効果を用いた銀河団と暗黒物質の観測研究に加え、相補的な観測データを利用したものです。ASIAAでは、教育や研究所の運営、大規模プロジェクトの推進などの義務は少なく、自分が興味を持っている研究に専念できる環境が整っています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私は東北大学の天文学専攻で、現在の主要な研究に必要な基礎学問の理解に加え、プログラミング、データ解析、統計解析、論文執筆などのスキルを身につけました。また、指導教官や学友とのゼミ・輪講を通じて、行間を読み物理の本質を理解したり、数式や図から物理的描像を得る力を育むことができました。さらに、海外からのポスドク研究員や訪問客との議論や交流は、後に海外で研究生活をしていくために重要な経験になりました。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
将来的にアカデミアに残るかどうかに関わらず、大学院の博士後期課程で習得できる学力、スキル、語学力、経験、そして柔軟な思考力に基づく問題解決能力は、特に国際社会で活躍するための強力な財産となるでしょう。長期的な展望を考えると、博士課程進学には学費や時間以上の価値があります。


image_oi.jpg 大石 將文さん
(三井化学株式会社勤務。2017年度化学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
化学会社でファインケミカルの生産技術の研究をしています。研究室のフラスコ内で行われる実験では問題なく製品が得られても、無対策で数百~数千倍にもスケールを上げて製品を作ろうとすると、何らかのトラブルが発生する場合がほとんどです。この量産化に伴い発生するトラブルを事前に予測し、問題なく製品を得ることが研究の目的です。実験室と試作現場の多くの仲間と連携して試作を達成した時には大きなやりがいを感じます。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私は本研究科の化学専攻で有機化学の研究に励み、博士号を取得後に化学会社へ就職しました。有機化学とは、有機合成反応によって有用な有機分子の自在な合成を可能にする学問です。研究室では、ある有機合成反応を効率的に進めるための“世界初”の触媒を設計開発しました。文献から既知の研究を把握し、検討の方針を立て、実験データを正しく解釈し、仮説を立てる、といった研究の過程から“論理的思考力”を培いました。論理的思考力は、化学会社での研究開発においても、期日までに目標を達成するための検討計画や獲得成果の優位性を説明する場面等で役に立ちます。また実験、文献調査、講義等から得た有機化学を始めとする化学の専門知識も有用です。意外かもしれませんが、化学会社であっても化学を専門としない社員が多く在籍します。この場合、化学的な情報を誰にでも分かる形式へ翻訳するスキルが必要とされ、専門知識は自身の強い武器と感じています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
ここでは、大多数が修士を修了後に就職する中、博士へ進学し修了後に民間企業で勤務する中で感じた利点を述べます。研究の道を進むにあたり修士号が仮免許証ならば博士号は本免許証である。やや極端ですが博士号の価値を表現するには言い得て妙です。日本では研究者に博士号は不要かも知れません。但し、自ら課題を見出し、背景を調査し、理論立ててデータを収集するのに必要なスキルや研究室の上級学生として後輩を指導するリーダー視点は並大抵の努力では獲得できません。博士号の利点は、研究の過程でこれらを獲得してきた経験を“本免許証”として証明できることだと私は思います。民間企業は間違いなくこの経験を持つ“博士人材”を求めています。研究の第一線で実験をする人、事業部でプロジェクトの指揮を執る人もいます。博士人材から刺激を受け、大学院へ博士号を取りに戻る人も見掛けます。あなたも博士の経験を通して視える世界を体感してみませんか?


太田 慎一さん
(大阪大学勤務。2003年度数学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
大学で数学の研究、教育を行っています。研究はもちろん好きですが、大学院生の研究指導もやりがいのある仕事で、自分の研究への刺激を受けることもあります。また、情報や工学など数学の周辺分野の方々と交流する機会もあり、数学との分野融合的な研究へのチャレンジにも興味を持っています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
数学の研究を行う上では、もちろん大学・大学院で学んだことは役に立っています。専門的な内容は就職後も必要に応じて勉強しますが、そのための基礎知識や勉強の仕方は学生時代に身につけたことが土台になっています。また博士課程では、英語の論文を読み、英語で論文を執筆し、海外に数週間滞在するなど、様々な国際経験を積むことができました。これは研究者として活動していくための準備として重要な経験でした

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
数学は近年重要度が増している分野であり、社会での需要も高まっています。情報系など数学を利用する周辺分野の方と話すと、数学をユーザーとして知っているだけでなく、実際に理論を作り上げている数学の専門家の必要性をよく聞きます。修士課程から研究を行い論文を書くということをしていきますが、修士課程では時間的な制約があるため、博士課程で時間に余裕のある中でじっくり研究に取り組み突き詰めて考える経験を積むことは、研究者になるかどうかに関わらず、必ずその後の人生の糧になります。


image_oza.jpg 小澤 友美さん
(株式会社KPMGアドバイザリーライトハウス勤務。2017年度数学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
外資系会計事務所のアドバイザリー領域で、データを戦略的に活用して洞察を導き、企業や社会の進むべき道を照らし出しています。具体的には、データサイエンティストとして、企業や社会の課題を、データとアルゴリズムを駆使して数学的に解くための研究開発を担っています。国内外の事務所の様々な領域の専門家と連携しながら、データの専門家として分析手法の提案、実現可能性の調査、実装、結果の評価などを行い、洞察を導きます。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
非常に役に立っています。課題に対して適切な分析を実施するために、数学、統計学などの知識は当然必要ですが、顧客や利害関係者の要求に応えていく上で、博士の学位は一種の信用となります。より具体的には、先行研究の調査、研究課題の設定、研究発表などの経験が活きています。IT分野では次々と新しい技術が登場するため、それらの要点を素早く把握する必要があり、先行研究の調査をした経験が活かせます。また、世の中の課題は最初から数学の言葉で表されているわけではないので、本質を見抜いて、数学的に扱えるよう適切に問題を設定する必要があります。加えて、異なる領域の専門家に、分析の概要や得られた知見を伝えるには、相手が知っている言葉を使って分かりやすく説明する必要があり、様々な聴衆に向けて研究発表した経験が活きています。大学院生時代の国際経験のおかげで、多国籍で多様な背景を持った同僚と一緒に楽しく働けています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
今後、ますますデータが増えて、デジタル技術の活用が進む中で、社会における数学の重要性が増していくのは確実です。日常生活のあちこちに人工知能などの技術が適用され浸透するなかで、複雑さやそれに伴うリスクも生み出されます。だからこそ、これらの技術の基盤となる数学を深く理解している人材の活躍が求められますし、科学技術に携わる人々はより多様で社会の構成員を代表している必要があると思います。学生の皆さんには、自身の興味関心を大切にして、好きなことを素直に追い求めて欲しいです。研究に対する情熱があるなら、博士課程後期への進学を検討してみてください。私が現職に就いたのは偶然もありましたが、膨大な情報から要点を見抜いて価値ある洞察を生み出す仕事は、物事の本質を理解したいという欲求に合っていますし、世界を相手に新しい発見を追い求めて研究に打ち込んだ経験は、今の自分に専門家としての矜持を与えています。


鎌田 隆史さん
(宮城学院中学校高等学校勤務。2016年度地学専攻博士課程前期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
教員です。理科教員として、地学を始めとした理科科目を教えています。担任業務や進路指導、その他校務分掌のお仕事など、様々な業務を行っていますが、いずれも生徒の成長を感じることができ、それがやりがいの一つです。また、理科教育関係の助成金を頂きながら、生徒と共に自然科学系の部活動の研究活動を行うこともやりがいの一つになっています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
非常に役にたっています。現在、私は自然科学系の部活動の顧問をしています。助成金を頂きながら探究活動を実施するにあたり、助成金の申請はもちろんのこと、研究テーマの設定や方法、結果のまとめ方など、自身の経験を存分に活かすことができています。また、様々な先生方や同期、後輩との繋がりも非常に大きな財産になっています。お世話になった先生方に研究の相談に乗っていただくこともありますし、職場見学や大学見学などを企画する際、先生方や同期、後輩に相談して協力してもらい、生徒に貴重な経験を提供することが出来ています。これらのスキルや人脈は、大学、そして大学院でしか得ることが出来なかったと、ひしひしと感じています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
様々な思いをもって、学業や研究に励んでいることと思います。私は「好き」「面白い」という思いを第一に大学生活を歩んできましたが、様々な人と出会って、自分のしたいことをしながら社会に貢献する生き方を学んだ気がします。就職について不安な方もたくさんいると思いますが、それぞれの学問は多くの場で「活きて」いますので、必ず活躍の場や役に立つことがあります。在学中の日々を大切に、歩んでいってください!応援しています。


官野 史靖さん
(光学機器メーカー 設計・開発職勤務。2019年度天文学専攻博士課程前期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
光学機器に関する設計・研究開発職を行っている。仕事とは、社会に対する接点として、自分ができることを社会に提供する場であり、自己研鑽の機会を与えてくれる場でもあり、週末に美味い肉を食するための試練の場でもあると考えている。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私が携わっている光学機器の開発・設計においては、干渉、回折をはじめとした光学理論への理解が必須になる。これらはフーリエ展開を始めとした物理学でしばしば用いる数学的処理がよく登場するので、大学で物理学に慣れ親しんでいた者の方が習得が容易であるのは言うまでもない。また、物性方面に目を向けると、結晶の知識や偏光の理解は、レーザーを用いた開発には必須の内容になるため、非常に役に立っている。これらは大学院での研究内容そのものには直接かかわっているわけではないが、研究活動の中で一般的に慣れ親しんだものである。したがって、役に立った知識としては、専門的な研究内容よりも学部までに習うような幅広く基礎的な知識のほうであるといえるが、それらの使い方という意味では、研究科に配属されてからの研究活動は重要であったといえるだろう。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
大学という、自分の学びたいことを学べるという環境は非常に特殊で貴重であるから、まずはその環境を大事に学問に励んでほしい。研究分野と就職難易度について懸念される方も多いと思うが、むしろ会社で必要とされるのは基礎的な知識・理解力であったり、特に就職活動では研究の内容そのものより、そのプレゼン力のほうがはるかに重要であるから、分野については就職に有利な学問という考えで進路を決める必要はないと考える。思うに、理学部が就職無理学部と呼ばれる所以は、その研究分野よりも、むしろ学生自身の社会への関心の薄さとコミュニケーション力に起因するような気がするから、理学部だからといってことさら気にすることはないと考える。参考までに、私の後輩の一人は、素粒子理論物理の博士である。メーカーの技術職においては、今や博士卒の存在も一般になっていると感じる。情報収集は大事だが、あまり惑わされずに、今は今できる研究を大事にしてほしいと思う。


image_kimu.jpg 木村 勇貴さん
(東日本電信電話株式会社勤務。2020年度天文学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
私は現在、地方自治体を対象に医療、介護、健診等の健康関連のデータを活用できる基盤の設計とデータ活用ビジネスの創造に取り組んでいます。自治体ではデータを積極活用した政策立案や保健指導を実施しており、それらを効率的に実施できる環境を整えることを目指しています。顕在ニーズだけでなく潜在ニーズはあるか、AIなどの最新技術をどのように埋め込めばビジネスに繋がるのか、といったことを常に考えながら業務に取り組んでいます。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
大学で学んだ専門分野と仕事の領域が一致していないため、直接的に役に立っているかと聞かれると「はい」とは言い難いです。ただし大学院で培ってきた力は仕事の中でも多大に活きていると感じています。特に「データ分析力」「論理的思考力」は、理学を学ぶ学生は強いです。私の仕事では、新規ビジネス展開として最新技術を取り扱うことが多く、技術的な性能評価を頻繁に実施します。その際の検証プロセスや評価分析手法については学術レベルで組み立てることができます。またそれらの結果を報告書としてまとめる際も、ステークホルダーに納得いただけるように論理的に記述します。理学を学ぶ学生は、これらの力を研究活動によって自然と身につけることができます。さらに博士課程後期まで進学すると、学術論文を書くだけでなく思考がグローバル化することによって、より高度な力を習得することができます。こういった力を重宝する企業は多いと思います。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
博士課程後期へ進学すると、生活費の不安、就職先の不安を感じる人は多いかもしれませんが、あまり気にする必要は無いと思います。前者については、奨学金や大学のリサーチ・アシスタント(RA)などによって最低限の生活費を確保できます。また日本学術振興会の特別研究員として採択されれば、奨励金だけでなく研究費も支給されるため、存分に研究に専念することができます。また後者については、結論から言うと就職先はあります。私の場合、天文学という分野からIT系企業に一般採用で就職できています。博士特有の論理的な研究思考を重宝し、分野問わず積極的に博士採用をしている企業も多くあります。大事なことは「自身が将来何を目指したいか」を一人で悩まず周りの人々と会話しながら中身を固めていくことです。一般的に学業だけに集中できる期間は人生の中でもそれほど多くはありませんので、是非貴重な研究生活を送っていただければと思います。


久保 真理子さん
(東北大学勤務。2013年度天文学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
現在は東北大学理学研究科天文学教室の教員として、すばる望遠鏡などを用いた観測による銀河進化の研究を行っています。観測する銀河の環境や時代、X線から電波までの幅広い観測波長でどの物量を観測するかと、様々な要素から銀河の進化を紐解く難しさと面白さがあります。現在は2023年7月に打ち上げが予定されるユークリッド宇宙望遠鏡と赤外線アーカイブデータを用いた銀河団祖先の統計的研究にチャレンジしようとしています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
大学でポスドク、教員として採用されるには基本的に博士の学位が必要となります。とはいえただの資格ではなくて、学位取得のために自分が主導的にデータを取得し解析を行い、論文を書き査読誌に採択される経験もまた、研究者として独り立ちするために不可欠なプロセスだったと思います。また、学部+博士と9年も大学にいたことで、専門分野だけでなく幅広い知に出会えたことも、その後の役に立ったと思います。例えば、当時は遠方銀河の研究に関係ないと思っていた宇宙望遠鏡の観測データが、最新の観測と組み合わせることで現在稼働中のどの望遠鏡にも不可能な遠方銀河の遠赤外線検出に使えたり、学生の頃に触れた知識のかけらが思いもしない形で役に立つことがありました。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
研究には、誰も見たことがない領域に最初に到達できる他には変え難い体験があります。大学院の5年間だけでも、人生の一部を研究活動に費やすのは悪くない選択だと思います。学位取得後は研究分野と関係の無い一般企業に就職しても、アカデミックの道へ行っても良いし、アカデミックを経て更に別の道へ行く人もいます。アカデミックジョブは、有期雇用のプレッシャーであるとか諸手を振って進められない面も多々ありますが、研究のワクワク感で少しお釣りがあるでしょうか。アメリカの新しい大型望遠鏡にはヴェラ・ルービンやナンシー・グレース・ローマンという、ダークマターハローの観測的証拠やハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げに貢献した女性天文学者の名前が冠されています。日本の女性研究者はまだまだ少ないですが、女子の皆さんも、ちょっと大学院に進学してみるだけでも、どんどん研究に挑戦してほしいです。


image_koma.jpg 小松 英一郎さん
(マックス・プランク宇宙物理学研究所勤務。2001年度天文学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
南ドイツのミュンヘン郊外、ガーヒンという小さな町にある、マックス・プランク宇宙物理学研究所で研究を続けています。好きな宇宙物理学を好きなだけ研究できる環境にいられるのは、本当に幸せです。これは、これまでお世話になった数えきれない方々や、納税者によるサポートがあってのことなので、全てに感謝の気持ちでいっぱいです。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
好きなことを好きなだけやって良いのだ、という事を学んだのが、東北大学でした。東京から程よく離れているので(笑)、東京大学や京都大学で流行っている研究の情報は入ってこず、余計な雑音に惑わされずに自分の好きな道を突き進めたのは、最高でした。それは、天文学専攻の先生方が寛大で、「そんな研究はつまらない」などと、頭ごなしに否定されることが一度もなかったおかげだと思います。もちろん、ロジックや結果が誤っている場合には的確に誤りを指摘して頂きましたが、アイデアそのものを理由もなく「つまらない」と否定されたことは一度もなかったのが、今の僕の支えになっていると思います。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
好きなことを、好きなだけしてください!東北大学は、世界レベルの研究者が揃い、最先端の研究が行われている一方で、既存の考え方にとらわれずに自由な発想で研究できる寛容さも兼ね添えた、バランスの良いところです。自由な発想で研究できても、最先端の研究が見えない場所では能力を発揮できませんし、世界レベルの研究者に細かく指示されて手を動かすだけでは、自由な発想が育まれないだけでなく、そもそも楽しくありません。東北大学は、好きなことを好きなだけするところです。卒業までに目一杯楽しんで、完全燃焼してください。


image_sato.jpg 佐藤 優奈さん
(長野県立高等学校勤務。2020年度宇宙地球物理学科天文学コース卒業。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
宇宙地球物理学科を卒業したのち、公立高校で理科の教員として勤務をしています。3年目ですが教科指導では物理・生物・地学を経験しています。校内の業務にはクラス経営のほか、生徒会・教務・進路指導といった校務分掌を経験し、小規模ながら運動部の指導にもあたっています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
学部1・2年で学ぶ力学や電磁気学では高校の教科書で紹介されている原理や公式についてその詳細を学ぶことができました。公式のこじつけではなく、なぜそうなっているかを根本的に理解できるので、現場では解像度の高い知識を提供できるのではないかと思います。大学では様々な講座でレポートやプレゼンなどを準備する機会がありました。人に伝えるための工夫を積み重ねてこれたのは、大学での授業があってこそだと思います。そういった点では大学で身につくのは専門知識だけではないはずです。仕事で出会うちょっとやそこらの計算や情報処理ではへこたれないだけの根性が身についたのも、理学部のカリキュラムをこなしたからかもしれません。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
理科の教員は必ずと言っていいほど、専門外の科目の指導がついて回ってきます。大学では物理を学びましたが、今指導しているのは地学や生物です。授業を考える今になって初めて、生物や地学はなんて面白いのだろうかと感じています。こんなことなら食わず嫌いせずに大学の在学中にもっと関連した講義に挑戦しておくべきだったと。教員免許を取るためには物理以外にも理科系の科目がいくつか必修になっていますが、それらをただやり過ごして単位を取るのでは非常にもったいないです。理科が好きになった以上、自分の専門外の理科の楽しさにも気づける自分がどこかに眠っていると思います。スタートは一般向けの簡単な本でもいいので手に取ってみてください。


宍戸 龍之介さん
(株式会社東芝勤務。2016年度化学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
弊社の主力製品の一つであるリチウムイオン二次電池やセラミックスの生産技術開発に従事しています。多岐に渡る製造工程の中で、一番初めの工程であるスラリー(粉体材料と溶媒などから成る懸濁液)製造工程のプロセス開発に取組み、製品性能を向上させ、かつ工程中にトラブルを発生させないことを目標に、様々な条件で実験を繰り返し、分析をして考察をするといった研究活動をしています。実験を進める中で仮説を立ててそれを立証できた際のやりがいも大きいですが、開発に関わった製品が日の目を浴びるときほど技術者として嬉しいことはありません。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
大いに役立っています。私が所属する生産技術センターは東芝の中の一研究所であるため、日々の実験結果を資料にまとめて上司等に共有し、それを報告書として形に残すという研究活動をおこなっています。また、業務を通じて良い成果や新しい発見があった場合には、関連する学会にて研究内容を報告することもあります。スピードが大事となる資料作成や報告の時だけではなく、実験計画の作成や結果の考察、文献調査等、様々な場面で大学院で学んだ知識やスキルが活きていると感じます。さらに、会社には外国籍の研究者も所属しているため、国際学会や研究室での留学生との英語でのコミュニケーション経験も大いに役立っています。社会人としてのマナーなどについては入社後の研修で学ぶことができますが、研究活動を推進するための基本的なスキルについては学生時代に身に着けておいた方が良いと思います。これが結果的には業務効率の向上や良いワークライフバランスにつながると思います。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
博士課程に進学すると就職が難しいというのは一昔前の噂であり、現在はむしろ歓迎される場合が多くなっています。会社の中には、就職してから博士を取得する方もいますが、業務と研究活動が同時並行となるので学位取得のハードルが(人によりますが)高くなります。もしも今、博士課程への進学を少しでも悩んでいるのであれば進学することをお勧めします。若くて体力と記憶力がある内に学業と研究活動に勤しみ、基本的なスキルを身に着けて頂ければ、就職した際には必ずそれが役に立ちます。東北大では博士課程の学生向けの金銭的な支援制度も充実しています。私自身、博士課程在学時は「学際高等研究教育院」の博士研究教育院生に採用され、日本学術振興会特別研究員と同額の奨学金(返済義務なし)のおかげで研究活動及び学生生活を心に余裕を持って過ごすことができました。博士課程での3年間は、長い人生の中ではあっという間ですが、得られる知識やスキル、人脈という点では最も濃密な3年間となると思います。


実際に理学を学んだ多くの卒業生は、科学に関する専門知識やスキル、研究・開発に向き合う姿勢、自然・社会に対するモノの見方などを仕事や人生に活かしています。今回は、様々な分野で活躍している卒業生に理学で学んだことがどのように役に立っているか、インタビューを行いました。(五十音順に掲載)


image_tashi.jpg 田代 大樹さん
(日本たばこ産業株式会社勤務。2020年度化学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
私は、創薬研究におけるリード化合物探索に従事しています。リード化合物探索では、シーズ化合物から置換基を足したり、減らしたり、変えたりすることで、より薬に適した化合物に磨き上げます。創薬研究に携わる者として、病に苦しむ患者様のために一刻も早く薬をお届けする使命があるので、いかに効率的に研究を行なうかについて日頃から考えて取り組んでいます。その中で、自分の色をどのように出すかが鍵だと思っています。この仕事において、ある仮説に基づいて設計した化合物が活性や薬物動態の試験で良い成績を示した時にやりがいを感じます。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私は、博士課程に進学してよかったと考えています。たとえば,創薬研究において、報告例のない化合物の合成に取り組むことは珍しくありません。この課題に対する糸口として、学位取得過程で学んだより広範な知識や研究スキルが非常に役に立ちました。さらに、研究ステージが進むと化合物の評価のため、最大で数百グラム提供することもあります。そこで収率よく、安全に、簡便に合成できるように大量合成用に処方を大幅に見直します。この過程で私は、大学院での反応開発の経験によりスムーズに課題に取り掛かることができました。私自身まだ経験はありませんが、今後海外の企業や研究機関と連携して仕事することや、国際学会に派遣されることもあると思います。大学院時代の留学生との交流や研究に対する討論した経験が活きると考えています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
私は、裁量の大きさに魅力を感じ、博士課程に進学しました。修士課程までに身につけた研究の基礎を活かして、より主体的に研究活動を行いたいと思ったからです。それにより、自分なりのノウハウを身につけて研究者として成長したいと考えました。研究はうまくいかないことの方が多かったですが、時には指導教員や同級生に相談し、課題を一つ、また一つ克服することで、何とか自分の研究を形にすることができました。研究者としての今があるのは博士課程で学んだ知識や経験があったからだと考えています。また,現実的に金銭面の問題もあるかとは思いますが、博士課程を対象とする奨学金も増えてきていますので、進学しやすい環境が整いつつあると思います。博士課程進学に興味はあるけど、不安も抱えている方は自分で抱え込まず、身近な指導教員に相談してみるのが良いかもしれません。


image_tabu.jpg 田伏 英哲さん
(アステラス製薬株式会社勤務。2014年度化学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
私は創薬化学者(メディシナルケミスト)として活動しています。主な仕事は、医薬品の候補となる化合物の設計と合成を行うことです。また、他の分野の研究者と協力し新しい創薬テーマを立案することや、合成経路の最適化に取り組むこともあります。創薬化学者は、人を救う薬を自らの手で創り出せる可能性を持つ職業です。大学時代に体験することができた『自由な発想に基づく分子設計』を創薬の現場においても実践し、新薬創出に貢献したいと考えています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私は大学・大学院を通じて有機化学の研究室に所属しておりました。修士課程までは指導教員の元で、与えられた実験課題をこなしながら、有機合成化学の基礎的な知識を身に付けました。博士課程進学後は、暗中模索しながらも主体的に研究を進めることが出来るようになりました。また進学後は、それまで教員や先輩が中心だった議論の場から逃れることが出来なくなったことも自分の成長に繋がったと思います。 現在は創薬化学者としての仕事を始めて8年目になります。社会人になった当初は、実験業務が多く、大学で学んだ有機合成の知識が大いに役立つ一方で、長く大学院に在籍した意義はそれほど感じませんでした。しかし、2、3年目には徐々に問題解決のためのアイデアを主体的に出すことを求められるようになり、博士課程において研究と向き合った経験の重要性を感じるようになりました。また、その後も海外留学、テーマリーダー業務、転職などの機会に際し、博士課程での経験や学位取得が自分の助けになっていることを感じました。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
私は、修士の時に一度は化学メーカーに就職することを決めていましたが、途中で考えを変え博士課程に進むことにしました。ようやく面白くなってきた研究テーマを途中で放り出しては悔いが残ると思ったことが一番の理由でした。また当時、自分の中で創薬化学者への興味が強くなっていました。所属研究室から製薬企業に就職した先輩のほとんどが博士課程を経て実力をつけているのを目の当たりにしていたことも、進学の後押しとなりました。私自身、博士進学が自分にとって最良の選択だったかはわかりません。もっと早く就職したら今とは別の人生があり、それもまた充実したものだったかもしれません。ただ、自分がやりたい事に従って決めた進路だったので、研究が苦しかった時も、就活で苦戦した時にも後悔したことはありませんでした。皆様におかれましても、自分がやりたいことを見つけ、目的に従って、悔いの無い選択をされることを願っております。


団 克矩さん
(中外製薬株式会社勤務。2015年度化学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
医薬品の大量生産に向けた、商用製法の研究開発業務をしています。研究開発と言っても実験だけではなく、原材料の調達や製造スケジュールの精緻化、社外の会社への製造委託など、多様な仕事を経験でき、自分に合った働き方・キャリアを探求することができます。優れた医薬品を世に出すには、優れた薬のタネの創出とその量産体制の構築の両立が必要であり、世界の医療と人々の健康に貢献出来ることにやりがいを感じます。自分が実験した方法で数キロ以上化合物が得られた時には、想像以上に感動します。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私の会社での業務内容は学生時代の研究分野と同じのため、研究室生活での専門分野の知識・経験はそのまま活かせています。一方で、会社生活で求められるのは学生時代の専門的な知識だけでなく、スピーディに研究を進める上での論理的思考力や洞察力、主体的に部内外の関係者を巻き込んで業務を進める関係構築力などのスキルが大きいと感じています。博士課程前期の研究室生活でもこういったスキルは培われると思いますが、博士課程後期に進学して研究活動を進めることでより一層高めることが、企業からは期待されると考えています。私の所属する部署では博士学位取得者の割合は5割を超えており、多様な業務内容で活躍しています。博士課程後期に進学して興味のあるテーマについて納得いくまで深く追究するという経験とそこで得られる知識・スキルは、その後の企業での研究業務でいち早く、そして幅広く活躍することにも深くつながっていると感じます。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
研究活動は成果がすぐに形となって出るわけではなく、また、企業で得られるほどの収入が得られるわけではないため、博士課程後期への進学で学生である期間が延びることに関して後ろ向きになってしまうことは理解できます。しかし、皆さんが思っている以上に東北大学での研究生活は、自分のやりたいことに集中して取り組める良い環境だったと後から振り返ると感じます。私は不出来な学生であったために、あの時こういうことをしておくべきだった、や、もっとこういう風に取り組むべきだった、と後悔ばかりです。また、企業としてはその期間で身につけた知見・スキルに大いに期待し、皆さんを迎えてくれます。将来的に企業で活躍するための自身のスキルアップに、博士課程後期への進学という選択肢も悪くないのではないでしょうか。


image_hira.jpg 平田 萌々子さん
(株式会社ジェイテクト勤務。2017年度地学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
製造業の研究開発です。会社の新規事業に繋がるテーマを企画〜研究開発まで行います。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
大学の専門分野とは大きく離れた業界に就職したため、知識をそのまま活かすといった点は難しいです。しかし、地球システムの全体像をおさえていることは強みのように感じます。昨今ではカーボンニュートラル等、地球システムに関係するテーマも多く、活躍の場があります。またレポートを作成すると、褒められることが多く、これは学位取得の過程で身につけた情報収集・課題設定・論理的思考などが活きている証拠だと感じています。さらに、海外でのインターン経験や日本での社会実装経験も高く評価していただいています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
大学での研究生活は、自分の興味関心を最大限に追求できる期間です。やらないできない理由探し・周りの目を気にすることは本当にあほらしいです。自分の好き/したいに、素直に正直に!ぜひ彩り豊かな研究生活、人生を!


藤田 真奈美さん
(日本原子力研究開発機構発勤務。2019年度物理学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
原子核物理学に関する研究職。自分の好きな研究を自由に展開できる現在の仕事環境は自分にとって素晴らしいと感じている。また、どの分野においても基礎研究というのは長い目で見ると国力の根幹をなす1つの柱であると考えている。自己の人生が満たされることに加えて、自分の研究が社会や国に貢献できている、今後もさらに貢献していけると考えているので自分の仕事に誇りを持っている。さらに視野を広く持ち、他分野との共同研究や応用を開拓してみたいとも思っている。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
現在進めている研究は大学院での研究の発展系にあたるので直接ほとんど全てのことが役に立っている。論理的な思考や、研究を進める際の手順や計画、また安全第一とした作業などのスキルは研究だけでなく、日常生活をより安全により豊かにすることに非常に役立っていると感じている。学会や国際会議等での発表や研究者との交流で得た経験は、人にわかりやすく物事を説明する場面や英語での対応が必要な場面に役立っている。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
どのような進路を選んだとしても簡単なことはないです。今自分が1番したいと思っていることを選択できたら素敵だと思います。頑張ってください。


藤田 遼さん
(気象庁気象研究所勤務。2017年度地球物理学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
大気中の温室効果ガス(CO2やCH4等)が、過去から現在にかけて、どこでどのぐらい放出・吸収・消滅していて、その原因が何なのかを調べる研究をしています。大気観測データと数値モデルを用いた解析手法に取り組んでいます。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
卒業後も同じ分野の研究職に就いているため、当然ですが役にたっています。博士課程の間に国際的な交流や英語教育を受ける機会にも恵まれたこともあり、卒業後すぐに海外でのポスドクの公募にも通ることが出来て、貴重な経験を積むことが出来ました。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
私は学部生と博士課程後期学生の時代の両方で、民間企業向けの就職活動も少し行いましたが、自分や周りを鑑みても、学部生、マスター、ドクターとの間にはそれぞれ明らかに論理的思考能力等に差があると感じました。博士課程の研究内容が必ずしも一般企業の仕事と結びつかなくても、真摯に研究活動に取り組んでいれば、どのような仕事に就くにしても役立つと思われる普遍的な力(例えば、自分の頭で考える力)はかなり鍛えられると感じます。最近は返済不要の奨学金制度等も充実してきていますので、それぞれの事情がある中で経済的な面がクリアできるのであれば、人生100年時代と呼ばれる現在においては、博士課程後期の3年間は”自己資産”を積み上げる期間としても長期的に見て非常に有意義なものだと思います。先のことは誰にもわからないので、少しでも研究をやりたいという気持ちがあれば、迷いながらもその道をぜひ進んでみてほしいなと思います。


image_hon.jpg 本間 英智さん
(日本科学未来館勤務。2015年度天文学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
科学コミュニケーターとして、科学トピックを分かりやすく解説するだけでなく、研究者や企業への取材やイベントの企画、展示制作なども行っています。科学をよりよく社会で活かすため、様々な立場の人たちが互いの視点を知り、考える場を作る活動をしています。特に自然科学などの基礎科学は、観察や考察によって物事の本質を捉えて新しい見方を生む営みであり、社会課題などへの柔軟な対応に必要と感じています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
物理学を初めとする広範な基礎知識を大学で学び、大学院で天文学を研究したことで、自然界の事象を捉える多様な視点があることや、独自の視点を持って追究するのに必要な情報収集と整理の過程を学びました。科学コミュニケーターは科学トピックを理解しつつ、相手の視点も合わせて考えながら、お互いの考えを深める活動を求められるので、大学・大学院で培った広い視点と情報整理の技術は大いに役立っています。また専門家への取材や、一般の方へ科学トピックを説明する際に、私が博士の学位を有していることは相手の信用獲得につながっていると実感しています。大学・大学院で自分の学習と研究に時間をかけて取り組んだ経験は、自分の自信になるとともに、その後の仕事においても知識や技術の面で大きな助けになっています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
私は大学院で天文学を専攻していたため、在学時から「社会で役に立たない」という評価が自他ともに強くあると感じていました。私自身はその評価に忸怩たる想いを抱いていましたが、在学時は自分が好きで進んだ道と考えて研究活動をしていました。その後社会に出て様々な人と仕事をするなかで、自分の知識や能力が必要とされる場面は意外に多いことに気づかされました。大学院では専門的な知識の習得に加えて、専門家や学生と密な議論を行うので、知識を体系化する技術や自他の意見を客観的に評価する姿勢が身につきます。これらの能力は、様々な視点を持つ人との交流が必要となる社会でも求められることです。また専門的知識には付随する知識も多いため、社会に出ても対応できる仕事の幅は意外に広いと感じています。私が博士課程で真剣に学んだ知識と経験は、その後のキャリアにおける確固とした土台になっています。


image_mori.jpg 森岡 真代さん
(株式会社Z会勤務。2016年度天文学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
通信教育小学生向けコースの理科教材の制作を主に担当しています。社会全体の科学(理科)に関する知識の底上げをしたい、という思いで教育業界を志した私にとって、その入口に立っている小学生に、理科の楽しさを伝えることができる今の仕事は、大変やりがいがあります。理科好きの小学生が、その後もずっと理科に興味を持ち続け、大学などで「学問」として学び、深めていけるような学習の手助けになる仕事をしていきたいと思っています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私は、理学(天文学)で博士号を取得し、小学生向けの教材を制作していますので、正直、学術的な知識を直接活用する場面はほとんどありません。ですが、研究を進める中で身につけたプログラミングのスキルは、タブレット教材の開発や社内の業務効率化を進める場面で活用しています。研究発表や共同研究で培った、自分の考え・成果をわかりやすく伝えるスキルも仕事を進める上では欠かせないものです。また、留学や国際学会、海外研究機関での研究活動などの経験は大きな自信につながり、様々な視点・広い視野を手に入れるとてもよい機会にもなりました。ですが、それ以上に身につけてよかったと感じるのは、もっと根本的な、課題の本質を見極める力、その課題を解決するための道筋を立てる力、正しい情報がなにかを判断する力などです。これらの力は、具体的に「このような場面で役に立った」と言えるものではありませんが、日々の業務を行う上で必要不可欠なものであると感じています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
今この記事に目を通してくださっている方は、少なからず博士課程後期へのご興味がある方かと思いますが、個人的には、少しでも博士後期課程に進みたいという気持ちがあり状況が許すのであれば、ぜひ進学してほしいと思います。本当に興味があること・好きなことがあるというのは、実はとても幸せなことです。自分が納得できるまで突き詰めてください。突き詰める中で得られる経験・知識・考えは必ず自分の一部となり、この先きっと役に立ちます。博士号の取得やそれに至るまでの過程は、決して将来の選択肢を狭めるものではなく、むしろ、様々な道につながるものです。博士号取得後、アカデミックに進むもよし、企業に就職するもよし、何なら博士課程の途中で方針転換をするのもありだと思います(あまり無責任なことは言えませんが……)。たとえどんな道を選んだとしても、自分で考え抜いて、納得して選んだ道であれば、後悔しないはず!みなさんが、後悔のない道を歩んでいけるよう応援しています。


image_morita.jpg 森田 克洋さん
(東京理科大学勤務。2015年度物理学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
現在の仕事は東京理科大学で助教をしております。授業では物理学や数学の演習科目を担当しています。また大学院の学生を指導しながら学生と協力して物理学の研究を行っています。学生を教育することで私自身も多くのことを学び、若返ることができ、充実した日々を送っています。研究では自分が興味を持った物理に関して、誰も知らないことを世界で最初に知れることに大きなやりがいを感じています。今後も新しい“何か”を追求し研究していきたいです。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私は現在大学で教員をしており、大学院で学んだこと全てが今でも役に立っています。学生時代は物理学の数値計算に取り組んでいましたが、現在も同じように計算機を用いて研究を行っています。研究には必ずといっていいほど困難が伴いますが、博士課程で培った問題解決能力を活かして、それらの困難に日々挑戦しています。学生時代に苦労しながら書いた論文が英語執筆能力を向上させ、現在でも論文を執筆することができています。学会発表などで多くの専門家と意見交換を行うことで、専門分野の理解やコミュニケーション能力を磨くことができ、重要なスキルを身につけることができたのではないかと思っています。大学で得た知識や技術は、新しい研究を行う基盤になり、より高度な研究や教育に役立てることができています。また、大学で培った人脈も、現在の職務において非常に有用であると感じています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
学業や研究は、単なる勉強や研究活動だけでなく、多くの人と出会い、経験を積むことができます。友人や先生など、周りの人々とのコミュニケーションを大切にして、多くのことを学び経験してください。それがきっとあなたの将来に役に立つはずです。進学や就職などの大きな人生の分岐点では、自分のやりたいことと能力のギャップに悩み不安になる人もいることでしょう。特に博士課程後期へ進学することは、(私自身がそうであったように)希望と同時に大きな不安もあることかと思います。しかし、長い人生を生きていくうえで選択肢に心残りがあることは一生の後悔になりえます。どうぞ沢山悩んでください。悩むのは当然なのですから。そして自分の道は最終的には必ず自分で決めてください。皆さんが自分のやりたいことに全力で取り組める学生生活をおくれることを祈っています。


横内 優来さん
(ダウ・ケミカル日本勤務。2018年度化学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
私は素材メーカーで製品開発職に就いています。ものづくり産業の川上事業で、顧客は車、家電、化粧品等、さまざまなメーカーです。主な仕事は、化学と高分子科学の専門知識を使って新技術や新製品を開発することです。仕事のやりがいは、難易度が高いことへの挑戦です。近年、市場や化学産業そのものに求められる材料特性は、従来の考え方ではトレードオフ関係にある特性の両立だったりします。一見不可能とも言える要求をどう解決するか、この点に挑戦し続けています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私が博士後期課程で修得したものは「仕事」をする上で基礎であり不可欠なものです。その中で私が重要だと思うのは、研究テーマ決めに始まり論文執筆・学会発表までの研究活動を一気通貫で実践した経験です。すべての過程に自ら責任を持ち、主体的に取り組んだことで専門知識・スキル・経験が相互に結び付き研究者としての素養が身に付きました。特に教授と議論する中で、物事を見る時の視野の広げ方・視点の切り替え方を学びました。それは研究テーマ決めや論文執筆に多いに役立ちました。さらには今の仕事にも生きています。私の仕事では、市場のトレンドやニーズ、自社と競合他社の技術を調査することで自社の立ち位置を理解し、材料設計に反映し試作する能力が必要です。大学院での複眼的に物事を捉える訓練によって新しいことに対して臆する姿勢は無くなり、在籍4年で即戦力として貢献できていると感じています。一例をあげると新規材料に関する特許を毎年複数件出願しています。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
まず、納得するまで時間をかけて研究に向き合い、楽しむことを大切にして欲しいです。そして自分の研究に自分なりの価値を見出すこと、それを論文にまとめて人に知ってもらう経験をしてもらいたいです。その過程で研究者としてキャリアを進むのに十分な力が身に付くはずです。もう一つは、問いかけです。将来どんな働き方をしたいですか?困難に遭遇した時にどう行動したいですか?もし自分がリードしたいなら、現状を分析し、自分で問い(またはゴール)を定め、進むべき方向をスポンサーやチームに納得してもらうことが必要です。私はアメリカ・中国・韓国の同僚と国をまたぐチームで製品開発もしています。その会議の場で自分の仕事を伝えたり、プロジェクトの方向性を共有できるのは、博士後期課程でじっくり研究に向き合い力をつけたからです。急がば回れというように、就職活動に気を取られずに、腰を据えて研究室生活を満喫してほしいなと思います。


image_waka.jpg 若目田 美冴さん
(株式会社エイツー勤務。2019年度地球物理学専攻博士課程後期修了。)

1.現在のお仕事内容を教えてください。
地震や津波発生時の防災・減災に資する情報提供を目的とし、システム開発と検証を行っています。主に以下の業務に従事しています。
1.建物の地震動計測用MEMS加速度計とそれを用いた被災判定システムの開発の一端として、振動試験や観測で得たデータを解析しています。また、収集したデータを自動で解析するシステムの開発をしています。
2.リアルタイム津波浸水被害推計システムの波源モデルとして用いる断層データの基本設計と製造を行っています。

2.仕事に取り組むにあたり、大学・大学院で役立ったことはありますか?
私は地球物理学科の沈み込み帯物理学分野で、GNSS測位と海中音響測距を用いた海底地殻変動観測システムの測位精度評価を行いました。学位取得までに得た地震学や信号処理、統計についての知識は、現在データや解析プログラム作成等の業務を遂行する上で直接役に立っています。研究成果を社会実装する立場で仕事に取り組んでいますが、基礎研究と同様に課題の設定とそれを解決する力が極めて重要です。加えて、様々な組織、専門の方と仕事を進めるにあたっては、専門知識や課題、成果について論理的に説明し認識を共有することが不可欠であるため、課題解決力とプレゼンテーション能力を鍛えられてよかったと日々感じています。在学時に思うようにできなかったという後悔も、その先仕事をする上で役立つかもしれません。私の場合は例えば「計画的に段取りよく物事を進めること」でした。社会に出てから折に触れて思い出し、当たり前にできるよう勤しんでいます。

3.在学生やその保護者にメッセージをお願いします。
進路を選ぶ際には、自身の価値観や関心について自分と向き合って考えてみてください。私は修士の研究では分からないことばかりで、もっと知りたいと第一に思い博士課程後期に進学しました。自分が最も興味関心のある最先端の研究の場に身を置き、明らかにしたいと設定した問題に対して試行錯誤する時間に恵まれたことをとても幸せだと思っています。多様な専門性、着眼点を持つ先生方や同じ分野で研究に励む学生と過ごして意見を交わし、自身の研究を博士論文としてまとめた経験は大きな財産となりました。研究をしたいという気持ちがあれば進学を選択肢に入れてみてはいかがでしょう。基礎科学の勉強から研究に至るまで、理学的に探究するための思考や体力を養った経験は、どの進路を選択しても堅牢な基礎になります。目の前の課題に取り組みつつ、自分が実現したい未来を最初は朧げながらでも描きながら進んでください。貴重な在学期間が実り多きものとなり、人生を拓いていけるよう心から応援しています。


現役の理学研究科博士学生に、大学院への進学を決めた理由や家族の反応、研究生活での苦労話など、ざっくばらんにお話いただきました。


博士進学を決めたきっかけを教えてください。

dog.jpg研究をしたくて大学に進学したのですが、実際に研究が始まるのは学部4年生の研究室配属後で、修士課程進学後は就活が始まり、研究したい気持ちが満たされないと思い、博士進学を決めました。学部4年生のときに交換留学に行き、自分は勉強が好きだと再認識したことも大きいです。

cat.jpg僕の場合は、学部の頃に森博嗣さんの本を読み、研究の楽しさを実感したくなりました。学部よりも修士、修士よりも博士!と欲が出ました。

elephant.jpg私は、国際共同大学院プログラム(*1)の選考があった修士1年の冬に、博士進学を決めました。授業では「先生」という感じの方々が、ゼミでは身近な存在となり、楽しそうに研究をされている姿を目の当たりにして、自分も参加したいと思いました。企業のインターンにも参加してみたのですが、やはりもう少し研究がしたいと思いました。

sheep.jpg僕も国際共同大学院プログラムに参加できたのが大きいですね。また、修士1年のときに家業の関係で1年間休学しました。その間に、自分がやりたいことをやっておきたいと思いました。

進学したいと伝えたときのご家族の反応はいかがでしたか?

elephant.jpgうちの場合は、特に反対はなく応援してくれました。ただ、大学院での生活はイメージが湧かないようで、普段何をしているのかを良く聞かれます。また、研究についても興味を持ってくれていて、ニュースを解説するなど、家族の話題が増えました。

cat.jpg実は親が研究者で、進学は快諾してくれました。父親自身は祖父に進学を反対されたことがあったようです。就職についても特に心配はしていない様子です。

dog.jpg私も親戚に博士卒がいたり、祖父が大学に勤めていたりしたので、説得の必要はなかったです。むしろ学部卒で就職しようとしたときには反対にあいました。ただ「博士卒で無職」のようなニュースを見て、心配して連絡がきたことがあります。(*2)

sheep.jpg進学に関しては、特に反対はありませんでした。うちも大学院のことは良くわからないようです。お金の面を心配されましたが、大学院プログラムのことを説明すると納得してくれました。

ご家族は、就職・就活の心配はしていますか?

dog.jpgcat.jpgelephant.jpgsheep.jpg心配していません。

dog.jpg私は就職先が決定した後に家族に報告しました。(*3)家族は博士過程の就活のスケジュールがわからないので心配しようがなかったのかもしれません。

dog.jpgさんはもう就職先が決まっていますね。dog.jpgさんが研究で身につけたスキルはアピールポイントになりましたか?

dog.jpgインターンシップの際に、研究や実験の基本的な考え方や、ノウハウ、テクニック、感覚は活かすことができると感じました。失敗することなく進められたのは、研究を進めていたからだと思います。

苦労したこと、不安、試行錯誤、挫折からの脱却はありますか?

dog.jpg周り(博士進学する人)は優秀な方なので、日々自分との戦い、一生懸命頑張っても結果が出ないこともありました。選抜のある奨学金事業(日本学術振興会特別研究員)に落ちたときは、他者に研究内容が面白いと思ってもらえないのが悔しかったです。でも、1日凹んで、次の日からしょうがない!と気持ちを切り替えました。

elephant.jpg優秀な先輩を見て圧倒され、尊敬の念を抱くと共に、自分はこのままで良いのかと不安になったこともありました。

cat.jpg修士のときに行っていた研究には迷いが生じたし不安もありました。でも、博士からは研究方法をガラッと変える決断をし、今は自分のスタイルで自由にできていると感じます。

sheep.jpg学部4年のときに自分の研究テーマで、既に他の人が研究成果を挙げていることを知ったときはショックでした。ゼロからまた研究をスタートさせないといけないと思いこんでいたからです。でも、先生から自分なりの新しい解釈や結果を出せば良いというアドバイスがあり、今はそのアドバイスのおかげで落ち着いて研究できています。

博士進学を後輩にオススメしますか?

sheep.jpg博士課程に進学してデメリットを感じていないので、研究したいと少しでも思う方には基本的におすすめです。金銭面について心配している人もいると思いますが、東北大学の場合、博士の学生はほぼ全員が奨学金や経済支援を受けられる体制になっているので、心配しすぎる必要はないのかなと思います。特に学位プログラムに参加するのがおすすめです。学位プログラムがない大学もある中で、東北大学はとても充実しています。

dog.jpg本人の気持ちが大事だと思います。行きたい人がいれば応援したいです。東北大学では金銭面はほとんど心配する必要はありません。社会に出るのが遅いので、特に女性はライフイベント(結婚・出産)等を心配されるかもしれないですが、今の時代は女性の社会進出のサポート体制も整ってきているしあまり心配しなくても大丈夫だと思います。

elephant.jpgその人がやりたいなら進学すれば良いと思います。博士に進学すると、学生という立場ながらやっていることは仕事に近いです。学位プログラム生などとしてお給料をいただきながら、学内外の様々な立場の方と共同研究し、事務的な仕事もあります。もし研究したい・研究力を身につけたいと思うなら、焦って就職先を探すより、博士に進学する方が良いと思います。

cat.jpg私も本人の気持ちが第一だと思います。まずは就活と進学の双方をきちんと検討することが大事。今は「修士卒で就職するのが当たり前」と考える人も多いようですが、博士進学を検討すらしないのはもったいないと思います。

黒田先生のワンポイントアドバイス

*1. 大学院プログラム
東北大学は、学部や研究科の壁を越えた横断的な融合教育を行うことにより、世界を舞台に活躍する若手リーダーの育成に取り組んでいます。特に、東北大学の強みである研究を活かして、既存の学問領域の壁、国境の壁を超えた先進的な大学院教育プログラムである「学位プログラム」を拡充し、世界中から「学んでみたい」、「研究してみたい」と目標にされる、世界三十傑大学を目指しています。具体的には、海外の有力大学と共同で人材育成を行う「国際共同大学院プログラム」、産学官と連携し、俯瞰力や独創力を持った人材育成を行う「リーディングプログラム」、「産学共創大学院プログラム」、さらに、本学が先駆的に推進してきた学際融合を目指す「学際高等研究教育院」といったプログラムを用意しています。このようなプログラムに参加することで、先端的な研究・教育に参画できるだけでなく、生活費相当の給付型奨学金(返還なし)を受給することができます。

理学研究科は多彩な学位プログラムに参画しています。「スピントロニクス国際共同大学院」「環境・地球科学国際共同大学院」「宇宙創成物理学国際共同大学院」「統合化学国際共同大学院」「変動地球共生学卓越大学院」の5つのプログラムでプログラムリーダーを担当しています。また、この他にも9つのプログラムの運営に参加しています。詳細はこちらでご覧いただけます。


*2. 理学の就職について
メディアで喧伝される「博士は就職できない」云々については全く気にする必要はありません。ただし、忘れては行けない注意点もあります。学部も修士も博士もそうなのですが、大学のネームバリューだけで就職できる時代はもう終わっています。重要なことは大学・大学院で何を学ぶか。しっかりと研究に打ち込んで、研究力や就業力を高めることが大事です。


*3. Ph.dC、キャリア支援室の紹介
東北大学は、国内トップクラスの博士学生を抱えています。当然ながら、博士学生のキャリア支援にも力を入れています。その中でも特に注目してほしい事業が2つあります。

1つめは「博士人材育成ユニット(東北大学高等大学院機構)」です。博士人材育成ユニットは、「研究力+α」の「α=Transferable skills」を鍛える教育プログラムを提供したり、博士と企業のマッチングイベント「ジョブフェア」を開催しています。ジョブフェアにはエクセレントカンパニーが名を連ねており、このイベントに参加することで、博士の就活は一気に進みます。

もう1つは理学研究科独自のキャリア支援室です。理学の強みを活かした就活を実現するためのノウハウに焦点を当てて、キャリアセミナーや個別面談を提供しています。メインクライアントは博士学生ですが、学部生や修士の院生の相談にも対応しています。


理学研究科卒業生の保護者の方から、お子様から進学について相談された時に考えたこと、博士課程に進学したお子様を身近で見守られた中で感じたこと、お子様が博士課程を修了した今、思うことなどをお聞きしました。


地球物理学専攻 2022年度博士卒の保護者

娘から「博士課程に進学したい」と希望を聞いた時、大学4年間と修士2年間ではまだ学び足らない部分があることを、以前から何となく感じていましたので、本人が納得するまで研究に取り組ませてやりたいと考え、賛成することにしました。大学や国から博士課程学生への奨学金等のサポートが得られることも追い風になりました。
博士課程に進学してからは、新型コロナウイルス感染症が拡大した影響で留学が予定通りに行けなくなるなど、想定外のこともありましたが、大学院での研究や学会に参加した時の様子、また、各種論文作成時の苦労した話を聞き、娘が研究者としてだけでなく、人間的にも成長していることを感じました。
博士課程を修了し、これまでの研究内容を活かせる職場に就職することができ、大学のサポートに感謝しています。本人からはこれからも研究は続けていくと聞いていますので、これからの活躍を期待しているところです。


化学専攻 2022年度博士卒の保護者

理系学部でしたので修士進学は想定済でした。博士進学の意向を聞いたのは修士進学後間もなくです。折に触れ理由や思うところを話してくれた事で、真剣な思いを知り本人の意向を尊重したいと思いました。経済的な問題がありましたが、本人自身が模索し周りの方々のご助力も頂きながら解決に至りました。経済的理由で博士進学を躊躇しているなら、諦めずに道を見つけて欲しいと願います。
博士課程での研究に勤しむ日々は、今しかできない体験をより多くして欲しいと願い応援し見守り、成長を実感し親にとっても気付きの多い実りある3年間でした。
学窓を巣立ち社会人となった今、親として安心して送り出せるのは、博士課程で得たものがあるからこそ。学業はもちろん多岐にわたる経験と培ってきた人的財産は、これからの人生の大きな糧となるはずです。
先生方はじめ支えて下さった方々に心から感謝申し上げます。


天文学専攻 博士課程在籍の保護者

娘は未知なるものに出会ったとき、目をキラキラさせ、夢中になって話をしてくれます。その楽しそうな姿を見るのは、親としてとても嬉しいです。大学で研究したいテーマが見つかり、大学院に行きたいと打ち明けられたときは、すぐに応援したいという気持ちが芽生えました。しかし、大学の学部4年間に加え、大学院の修士課程、博士課程で5年が経過した後、就職できるのかという未来への不安と、研究の活動ためのお金が援助できるのかという金銭的な不安がありました。お金に関しては、奨学金制度や様々なプログラムがあることを知り、安心することができました。未来は誰にも分りませんから不安は消えません。しかし、様々な経験の中で、幅の広い知識や研究能力、行動力、コミュニケーション能力などを身につけている実感があり、頼もしく感じます。変化の激しい先の見えない未来を生き抜くために、自分の持つ能力を最大限に活用し、これからも挑戦してほしいと思います。



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