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2019年3月22日レポート

3月15日(金)地学専攻 海保邦夫教授 最終講義

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3月15日(金)、理学部大講義棟にて、地学専攻 海保邦夫教授の最終講義「地球生命環境史:7大事件から読み解く」が行われました。海保先生には、理学研究科のニュースレター最新号、アオバサイエンティア No.32の特集ページにもご寄稿いただいております。タイトルは「大量絶滅の発生メカニズム」。こちらも併せてご覧ください。


海保邦夫先生よりメッセージをいただきました

最終講義では話さなかったことですが、在職中に印象に残った経験を3つ紹介します。ひとつは、若手研究者だった頃のことです。研究員としてスタンフォード大学にいた時に、同じ建物にいた著名な教授の本を面白くて一気に読みました。それまでローカルな研究をしていましたが、これにより、視野がグローバルに広がりました。チューリッヒ工科大学(ETH)で研究した時も、有名な教授が近くにいるだけで、影響を受け、研究のやり方を見つけました。ETHの別の教授(受入教員)からは、深海掘削の試料を研究することを勧められ、東北大学へ着任後、それをグローバルに研究しました。これらの結果、1990年代に、2回目のスタンフォード大学滞在時と東北大学で多くの論文を書きました。

2つ目は、専門の研究材料(底生有孔虫化石)でわかることはわかったので、新たに堆積有機分子を研究材料として選び、大量絶滅など地球史重要事件の謎解きをするようになった頃2000年代のことです。世界中に地質調査に出かけ、堆積岩試料を採取しましたが、一番多く出かけた中国でのことです。お世話になった大学では、若手研究者を欧米の著名な教授の元で研究させることにより、研究業績を上げ、有名な雑誌に載ると褒美がもらえる環境で、日本の大学を抜いて行ったことを間近で見た事です。

3つ目は、最近のことです。2016年に「すすが恐竜を絶滅させた」という論文と2017年に「小惑星衝突場所がずれていたら恐竜は絶滅しなかった」と言う論文を発表しました。米英豪日のメディアがこれらの論文の記事を書きましたが、その中で2017年の論文に関するニューヨークタイムズの記事には、米国の2名の研究者の反論が載っており、最後に私の証拠が書いてありました。有名な雑誌に載った米国で強く信じられている、白亜紀--古第三紀境界のすすの森林火災起源説に反する事実(小惑星が衝突した堆積岩中の有機物の不完全燃焼によりすすが成層圏に入り太陽光を遮断し寒冷化と低緯度で砂漠のような降水量をもたらしたことにより、恐竜やアンモナイトなどが絶滅した)を論文発表したからです。米国の地球化学の教授から、「今、ニューヨークタイムズの記事を読んだけど、あなたの方が正しいと思う」というメールが来ました。昨年は、米国の別の教授から送られて来た論文原稿に、森林火災起源説を信じて書いた段落があったので、コメントしたところ、再送された原稿ではその段落は削除されていました。 このような貴重な経験をさせていただいた方々に感謝します。

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  東京大学理学系研究科の高橋聡先生より
海保先生へのメッセージをいただきました  

私は、東北大学の大学院生時代より海保先生にご指導頂き、学位を取得した後も共同研究を続けて参りました。合わせて十数年のお付き合いで、数々のご指導頂きました。海保先生は、顕微鏡で観察する小さな動物プランクトンの化石(有孔虫)の形態や群集を扱う研究と地層から得た堆積物の化学分析を行う研究を行い、過去の地球の歴史上の大きな変動時期について詳細を理解することに大きな貢献をされてきた方です。最近では、地質サンプルから実証的に明らかにした研究内容をベースに、数値モデル実験の共同研究にも取り組み、遠い過去の大量絶滅事件を現代地球環境の尺度で比較して考える大変刺激的な研究成果も挙げられています。数多くの国際誌論文が公表されており、その名前は世界的に知られ、日本を代表する研究者として主要学会からも高い評価を得てきました。研究と教育活動で挙げた業績はそれだけではないでしょう。研究室には、多くの学生や研究者が集まり、活気ある研究活動が展開されました。海保先生は、退職される最後の年まで自分の分析は自身で手を動かして行い、寡黙ながらその姿勢で若い学生の研究活動を鼓舞してこられました。3月はじめ、先生の退職を前に多くの卒業生がそれぞれの感謝を伝えるために仙台に集まりました。先生と様々な活動を通して刺激を受け、今も活き活きと活動する若い世代の面々がもうひとつの成果ではないでしょうか。

これからは同大学の名誉教授として、引き続き研究論文をまとめることに取り組まれていくことと思います。忙しい大学業務から離れて研究に集中されることで、さらに興味深い発展研究が生まれることでしょう。余裕ができた時間で、趣味であるメダカの飼育と散歩の時間を大事にして頂き、これからも健康でご活躍されることをお祈り申し上げます。


東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻

高橋聡



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