東北大学 大学院 理学研究科・理学部|アウトリーチ支援室

ホーム > お知らせ > レポート > 平成27年度 物理学のフロンティア 原子核実験「反粒子の対消滅を使ってアインシュタインの法則を確かめよう 〜ガンマ線で測定する陽電子の対消滅〜」
2016年6月 1日レポート

平成27年度 物理学のフロンティア 原子核実験「反粒子の対消滅を使ってアインシュタインの法則を確かめよう 〜ガンマ線で測定する陽電子の対消滅〜」

☐ テーマ:「反粒子の対消滅を使ってアインシュタインの法則を確かめよう 〜ガンマ線で測定する陽電子の対消滅〜」
☐ 講 師:中村 哲 先生, 田村 裕和 先生, 藤井 優 先生(原子核実験)
☐ 流 れ:ゼミ(11/19, 12/10, 1/14), 実験(2/22-26, 3/14-18), 発表会・修了式(5/13)
☐ 備 考:物理学のフロンティア(詳細はこちら)

 原子核実験研究室コースを密着取材させて頂きました。ゼミ(輪読)3回の後は4グループに分かれて1週間程実験を行い(前半組が2/22-26、後半組が3/14-18)、最後に発表・修了式を行います。
 高度な内容に加え、実験の際に測定方法や考察を自分たちで行うのは受講したほとんどの学生は今まで経験がなく、とてもいい機会になったようです。最初はおとなしかった学生も、回数を重ねるにつれ活発に意見を交換するようになりました。実験では様々な課題が発生したようですが、各グループに工夫が見られ、発表会のときには自信をもって発表している姿が印象的でした。みなさんお疲れさまでした!

↑ 写真をクリックするとスライドショーになります


  中村先生のコメント  
 物理学のフロンティアでは大学初年度の座学だけでは物足りない意欲的な学生を研究室に招き、ゼミや本格的な実験を経験してもらい学習のモティべーションを高めてもらうことを目指しています。
 我々、原子核物理研究室では、陽電子(電子の反粒子)の対消滅を使ってアインシュタインの有名なE=mc^2を確かめました。まず、予備知識として反粒子の存在を理論的に予言しノーベル賞を受賞したDiracの論文と陽電子を発見したアンダーソンの論文を原論文で読みました。
 その後、Na22線源から生じる陽電子を電子と対消滅させ、そこから生じる2本のγ線をシンチレーション検出器で測定し、γ線のエネルギーが電子の質量と等しいことからエネルギーと質量の等価性を確認する実験を行いました。高校生でも知っている有名なE=mc^2の公式ですが、おそらく自分で実際に確認した事のある人はほとんどいないと思います。
 論文を読む際には、出来るだけ予習をしなくても論文が理解できるように必要な知識はゼミの中で講義しました。一方、春休みに1週間かけて行う実験の方は基本原理、装置の基本的な使い方は指導しましたが、実際にどうやって測定するのかはグループ毎に任せました。そのため「予め全ての装置が完璧な状態で準備されている学生実験」とは違い、自分達で工夫しないと良いデータが取れず、必ずしも全てのグループが満足なデータを取得できたわけではありませんでした。しかし、精度の悪いデータであっても、その精度の範囲内ではきちんとした議論ができること、測定には必ず誤差が伴うもので教科書にあるような完璧なデータは決して得ることができないことを学生達は体験から学んでいったようです。データ取得の後も一ヶ月以上に渡り、データ解析、レポート執筆をグループ毎に相談して行い、ゴールデンウィーク後に行った発表会では分担を決めて立派な発表ができたと思います。
 物理学のフロンティアのゼミでコーヒーとお菓子を楽しみながら1年生と議論するのは、指導する私にとっても、とても楽しい時間でした。受け身ではない学習、グループで能動的に行動しないとうまくいかない実験を経験することで、実験物理学の面白さ、グループで研究を進める楽しさを感じ取ってもらえたら幸いです。

  参加学生のコメント①  
 今回は原子核物理実験という貴重な機会を設けていただき、誠にありがとうございました。ゼミが始まった当初は、アインシュタインの提唱した質量とエネルギーの等価性(E=mc2)が成り立つことを示すという最終目標を聞いて、原子核物理に関して素人同然の自分にできるだろうかと不安でしたが、最終的には満足のいく結果が出てうれしく思います。
 実験に関しては、検出器を置く台が一つなかったり、線源台がなかったりしたので、前の班が作ってくれた線源台を使って高さを調節したり、発泡スチロールを使って線源台を作ったりなど、設備に関していろいろと工夫をしながら実験を進めたのが大変でした。しかし、角度相関を測定し終わってグラフをかいて、180°のところにピークが出ていることを確認したときはとても感動しました。5日間という(少なくとも私たちにとっては)長期にわたる実験でしたが、とても楽しかったです。
 レポートの作成に関しては、グループで長期にわたって1つのレポートを作るということがはじめての経験だったので、多くのことを学べました。1ヶ月ほどの期間をかけてメンバー全員で知恵を出し合ってデータを解析、考察し、文章を推敲しながらレポートを作るのは大変な作業でしたが、楽しくもありました。
 今回のゼミでは、実験原理や技術だけでなく多くのことを学ぶことができました。長期間にわたるプログラムでしたが、最後までやり遂げることができてよかったです。

  参加学生のコメント②  
 今回、この物理学のフロンティアを通して現状の普段の講義では到底体験できないことに取り組むことができ、物理学科としての新鮮な感覚を味わうだけでなく、今後の生活において糧となるようなことを多く得ることができたと思います。
 まず、第一として今回取り組んだ実験そのものについてです。今まで中学・高校、または大学入学後の自然科学総合実験等、「実験」と名のつくものは様々行ってきましたが、今回の対消滅実験ではそれらと異なる点が多くありました。例えば、どれも追実験であることにかわりはなかったですが、準備から測定、解析と格段に長い時間をかけ、かつ比較的高度で厳密な実験をしたことは無かったので、戸惑いも多かったですが、実験を遂行できたことはうれしかったです。
 また、実験を一人でなくチームの数人で取り組んだことも新鮮でした。一人だけで実験をするのではなく、チームで協力して役割分担をしつつ行うことで作業を効率的に進めるだけでなく、結果の考察をするときや実験中に問題が発生した際に、全員の知恵を出し合い完成・解決させていくのは非常に楽しかったです。
 また、実験そのものだけではなく、その準備においても新鮮な感覚を得ることができました。実験に必要な知識を簡単に身につけるためのゼミ形式の講義や、実際にDiracやAndersonの論文を輪読するなど初めてのことが多く、興味深い事項を楽しく身につけることができました。さらに、実験に必要な回路の簡単な仕組みや、対消滅反応の回数をカウントし、かつそこで得られたデータをどのように評価するのかについても知ることができました。このことから、ガンマ線計測だけでなく、ある量を検出・評価する際の一つの考え方と道筋を得ることができたと思います。
 今回の物理学のフロンティアで学び、身につけたことを今後の学生生活で十分に発揮できるように尽力していきたいと思います。また、最後になりましたが、お忙しい身であるにも関わらず、実験の原理や方法などを丁寧に指導してくださった中村先生や藤井先生に深く感謝申し上げます。

カテゴリー

最新の記事

アーカイヴ

ページの先頭へ