東北大学 大学院 理学研究科・理学部|アウトリーチ支援室

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2016年4月21日レポート

平成27年度 物理学のフロンティア サイクロトロン・RIセンター、電子光理学研究センター

<サイクロトロン・RIセンター>
☐ テーマ:「サイクロトロンとレーザーを用いて冷たい不安定原子を生成しよう」
☐ 講 師:酒見 泰寛 先生、原田 健一 先生
☐ 流 れ:加速器施設見学、ゼミ2回、核反応実験見学1回、レーザー冷却実験2回

<電子光理学研究センター>
☐ テーマ:「電子加速器で拓く極微の世界」
☐ 講 師:須田 利美 先生、村松 憲仁 先生
☐ 流 れ:大型電子加速器見学

☐ 備 考:物理学のフロンティア(詳細はこちら)

 「サイクロトロン・RIセンター、電子光理学研究センター」コースを密着取材させて頂きました。「冷たい不安定原子を作ろう」というタイトルで、(1)学内の加速器施設(サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターと電子光理学研究センター)、(2)ゼミ、(3)研究の一端に触れる実験実習の3段階で実施しました。
 行程が進むにつれ、参加学生の緊張も解れ指導教員との距離も縮まります。通常気になっていることを質問したり、実験がどのような方法で進められているのかを体感しながら学んでいきます。また(おそらく)生涯初のプレゼンテーションを経験し、教員から細やかなアドバイスを受けることが出来ます。物理学のフロンティアは学術的なことはもちろんですが、研究室の雰囲気に触れ、自分の将来を具体的に考える材料の一つとして、大変有意義だったのではないでしょうか。

↑ 写真をクリックするとスライドショーになります


  酒見 泰寛 先生のコメント  
 東北大学では、様々な加速器施設・量子ビームを用いたサイエンスが展開されていますが、比較的、コンパクトな学内共同利用施設であるサイクロトロンを用いて、自然界には存在しない不安定な原子・放射性同位元素(RI)を人工的に生成し、レーザー光を照射することで、急速に生成RIを冷却・真空中にトラップすることが可能になります。この極端に冷たいRIは、実は、未知の素粒子の存在や質量を探索できる顕微鏡の役割を果たすことが可能となり、現在、この極端に冷たいRIを生成する実験が、国際的にも注目されているところです。
 この物理学のフロンティアでは、実験の心臓部であるサイクロトロンやレーザー実験装置等を見学し、次に、冷たいRIを用いて、どのように未知の素粒子を観測することができるのか、ゼミを行って理解を深め、最後に、実際にルビジウムという安定原子を用いてレーザーで冷却・トラップする実験を行いました。
 加速器、レーザーという、物理分野では異なる研究領域の実験技術を融合した、新しい加速器科学の展開を紹介することで、若手が、この実験分野に広く視野を持ち、関心が深まったと、アンケートや、ゼミの途中で、印象を聞いているところです。今後に向けてどのように物理学のフロンティアを進めるべきか、今回の活動で大いに勉強になりました。


  参加学生のコメント  
 今回の活動は自分の知らなかった事に多くふれることができ、とてもいい経験になりました。また、気になっていることを質問することができて良かったです。ただ、自分の知識やど忘れなどでたまにつっかかる部分があったので、一回自分の知っていることを確認してから参加すれば良かったと反省しています。
 実験に関しては実際の実験の現場を見て、その一つの実験でも役割が多様化していることが実感できて良かったです。また実際に使っている実験機器に触れることができ楽しかったです。しかし、電圧を変えた場所が詳細にはわからなかったので、最適化をやりにくかったです。

 今回の物理学のフロンティアでは、光子の運動量を使って原子をトラップする技術を実験を通じて学ぶことが出来ました。
 学部1年生の段階から研究室の雰囲気を知る機会を得られたことは、自身の将来を考える上で非常に参考になりました。そして、普段の勉強を進める上でモチベーションを保つ助けにもなりました。
 協力していただいた先生方にはとても感謝しています。ありがとうございました。

  原田 健一 先生の実験解説  
 今回のタイトルにある「不安定原子」は加速器を用いて生成され、その生成された不安定原子は、電場によってイオンとして引き出されます。イオンのままではレーザー光によって「冷たく」することができないため、冷却する前にイオンを中性化する必要があります。
 物理学フロンティアの実験では、安定であるルビジウムイオンを用いて中性化を行い、レーザー光で冷却・トラップする実験を行いました。具体的には図1に示されているように、ルビジウムイオンビームを生成・供給するイオン銃から、ルビジウムイオンをイットリウムで作られた標的に照射します。この時、2か所の電極によってビームの集束や位置の調整を行うことで、イットリウム標的にイオンが最大数照射されるように調整します。まずはイオン銃からの加速電圧を変えた時の最適な電場のパラメータを探索しました。
 その後、電子をイットリウム標的表面から受け取って、中性ルビジウム原子として放出された原子集団を、6方向からのレーザー光と四重極磁場を用いて冷却・トラップする実験を行いました。レーザー光の光子が持つ運動量を原子が受け取ることで急速に減速され、磁場によって作られたポテンシャルによって真空中に局所的にトラップされます。これは磁気光学トラップと呼ばれています。
 イットリウム標的は90°回転することができるため、十分にイオンが蓄積された後、ガラスセルの方向に回転します。回転後、標的を加熱することで、中性化されたルビジウムがガラスセルに放出され磁気光学トラップによってトラップされます。トラップされたルビジウム原子は光の吸収・散乱を繰り返し、蛍光を放出し続けているのでCCDカメラによって観測することが可能になります。実験では、実際に中性化されたルビジウム原子の観測に成功することに成功しました。

20160420.png図1.イオン銃から生成されたルビジウムイオンを中性化し、レーザー光によってトラップする実験装置

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