東北大学 大学院 理学研究科・理学部

Graduate School of Science and faculty of Science , Tohoku University

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【プレスリリース】世界最小・量産型カーボンナノチューブベアリング「ナノサイズのコマ」回る!

国立大学法人東北大学大学院理学研究科の磯部寛之教授の研究グループは、独自に化学合成した有限長カーボンナノチューブに、化学修飾したフラーレンを詰め込むことで、世界最小のカーボンナノチューブベアリングをつくりだしました。特筆すべき点は、ボトムアップ化学合成により精密な分子構造設計を実現し、それによりカーボンナノチューブベアリングを従前の分子1個の観察の世界から、モル量という分子1023個の量産型の世界にまで引き上げたことです。この世界最小・量産型カーボンナノチューブベアリングは、外枠(工学用語:ベアリング)のなかで、中の回転子(工学用語:ジャーナル)が軸(工学用語:シャフト)を中心とした軸回転をしていることが、スペクトル分析により証明されました。有限の長さのナノチューブのなかで、フラーレンがまるでナノメートルサイズのコマのように回転していることがわかったものです。1023個という莫大な数の分子ベアリングが、同程度の回転速度で回ることが確認され、さらにその回転速度が温度によって制御できることまでもが示唆されました。現代化学の力量により、量産型ナノテクノロジーがもたらされることを期待させる成果となります。

DSC_0042.JPG   ■プレスリリース添付資料(PDF)
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発表内容
「ナノテクノロジー」という言葉を一躍有名にしたクリントン大統領の2000年一般教書演説では、「米国議会図書館の全蔵書を角砂糖の大きさのデバイスに収める」というナノテクノロジーの夢物語が登場します。実はこの背景には1959年の物理学者リチャード・ファインマンの演説がありました。このファインマンの演説の中には、冒頭のデバイスを含めた「ナノ世界の夢」が語られていますが、そのひとつとして「無摩擦ナノベアリング」が登場します。ベアリングをナノサイズまで小さくすることで、潤滑油が必要なくなるだろうという予言です。このような分子ベアリングでは軸回転によるエネルギー損失が限りなく小さくなることから、現代エネルギー問題の解決法のひとつともなり得るような夢の技術の登場が期待されます。こうした科学者の夢・予言が一般教書演説にまで登場した大きな要因のひとつが、カーボンナノチューブの登場と、あたかもファインマンの夢・予言が実現するかのような不可思議な現象の発見です。例えば、2000年には米国物理学者らにより、多層カーボンナノチューブが直線型ベアリング(非回転型)となり、さらにそこにはほとんど摩擦が生じないという報告がなさました。こうした新発見により、カーボンナノチューブを活用したさまざまなナノテクノロジーへの期待が否応なく高まりました。一方で、こうした発見が、十余年を経た現在でも、科学・ナノ「サイエンス」の域を越えられていないことも事実です。これまでの不可思議現象が「単一分子の観察」という最先端の観察・計測手法を駆使した結果、もたらされた発見であり、分子一個の世界でのみ動作が確認できるものであったためです。さらに加えて、カーボンナノチューブは、いろいろな構造をもつ分子の混ざりものであり、実は一つの定型分子構造をもつ「分子性物質」としては取り扱いできません。このため、精巧な構造が要求される「カーボンナノチューブベアリング」は、分子一個を観察することで見つけられるものの、現実社会に影響を及ぼすほどの数・量を設計したり、製造することは不可能でした。東北大学大学院理学研究科の磯部寛之教授の研究グループは、独自に化学合成した有限長カーボンナノチューブ(外枠・ベアリング)に、化学修飾したフラーレン(回転子・ジャーナル)を詰め込むことで、世界最小のカーボンナノチューブベアリングをつくりだしました。この際、回転子は外枠と混ぜるだけで自発的にはめ込まれ、回転中に外れないよう強固に保持されます。特筆すべき点は、ボトムアップ化学合成により精密構造設計と量産をともに実現し、それによりカーボンナノチューブベアリングを従前の分子1個の観察の世界から、モル量という分子1023(千垓個、せんがいこ)の量産型の世界にまで引き上げたことです。この世界最小・量産型カーボンナノチューブベアリングは、外枠(工学用語:ベアリング)のなかで、中の回転子(工学用語:ジャーナル)が軸(工学用語:シャフト)を中心とした軸回転をしていることが、スペクトル分析により証明されました。有限の長さのナノチューブのなかで、フラーレンがまるでナノメートルサイズのコマのように回転していることがわかったものです。千垓個という莫大な数の分子ベアリングが、同程度の回転速度で回ることが確認され、さらにその回転速度が温度によって制御できることまでもが示唆されました。現代化学の力量により、量産型ナノテクノロジーがもたらされることを期待させる成果となります。


この研究は、磯部寛之教授、一杉俊平助教、山﨑孝史氏(博士前期課程学生)、飯塚亮介氏(学部学生)が、文部科学省「科学研究費補助金」などを使って行ったものであり、英国化学会の新しい旗艦誌「ケミカル・サイエンス」誌で公開されます。
【研究者の氏名・所属】
    磯部 寛之(いそべ ひろゆき): 東北大学大学院理学研究科化学専攻 教授
    一杉 俊平(ひとすぎ しゅんぺい): 東北大学大学院理学研究科化学専攻 助教
    山﨑 孝史(やまさき たかし): 東北大学大学院理学研究科化学専攻 博士前期課程学生
    飯塚 亮介(いいづか りょうすけ): 東北大学理学部化学科 卒業研究生


発表雑誌
 英国化学会旗艦誌ケミカル・サイエンス(Chemical Science) 2013年1月9日 公開予定(http://pubs.rsc.org/en/journals/journalissues/sc
 論文名:Molecular bearing of finite carbon nanotube and fullerene in ensemble rolling motion
(和文:協奏的回転運動する有限長カーボンナノチューブとフラーレンからなる分子ベアリング)


問い合わせ先
  ■国立大学法人 東北大学大学院理学研究科 化学専攻 教授 磯部 寛之
Tel: 022-795-6585 Fax: 022-795-6589 Email: isobe[at]m.tohoku.ac.jp 
※[at}を@に直して下さい
  ■国立大学法人 東北大学大学院理学研究科 化学専攻 助教 一杉 俊平
Tel: 022-795-6588 Fax: 022-795-6586 Email: hitosugi[at]m.tohoku.ac.jp
※[at}を@に直して下さい
  ■研究室ホームページ


用語解説
●カーボンナノチューブ:飯島澄男教授(東北大学大学院理学研究科出身、現名城大学)が1991年に発見した、ダイヤモンド、非晶質、黒鉛、フラーレンに次ぐ5 番目の炭素材料。グラフェンシートが直径数ナノ(10 億分の1)メートルに丸まった極細チューブ状構造を有している。カーボンナノチューブはその丸まり方、太さ、端の状態などによって、電気的、機械的、化学的特性などに多様性を示し、次世代産業に不可欠なナノテクノロジー材料として、今なお、世界中で最も注目されている材料である。参考情報[http://ja.wikipedia.org/wiki/カーボンナノチューブ]
●有限長カーボンナノチューブ:磯部寛之教授らの有限長カーボンナノチューブの化学合成法については、昨年までに発表した以下のプレスリリースをご参照ください。
世界初ジグザグ型カーボンナノチューブ化学合成について(2012年7月18日)
世界初らせん型カーボンナノチューブ選択的化学合成について(2011年10月12日)
●ボトムアップ化学合成:小さな構造体から、大きな構造体をつくりあげる方法がボトムアップ法と呼ばれる。とくにナノスケールの構造体の構築法に用いられることが多く、なかでも化学的手法を用いた化学合成法に、大きな期待が寄せられている。本研究では、「カップリング反応」という有機合成手法を活用することでボトムアップ化学合成が実現された。参考情報[http://ja.wikipedia.org/wiki/ナノテクノロジー]
●垓(がい):1020(10の20乗)を示す単位。最近、良く知られるようになった京(けい、1016)の4桁上の単位となる。参考情報[http://ja.wikipedia.org/wiki/垓]
●モル:おおよそ1023(10の23乗)個(千垓個)の同一分子を集めた物質量。精確にはアボガドロ数として知られる6.02×1023個の分子で1モル量となる。例えば、水は18 グラム(18 ミリリットル)で1モル、塩は58.5 グラムで1モルである。参考情報[http://ja.wikipedia.org/wiki/モル]


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【報道】
■1月9日付 日本経済新聞<38面>
■1月9日付 読売新聞<31面>

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