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【プレスリリース】近未来の照明のかたち:「さっと一吹き、できあがり」
「さっと一吹き」でつくられた単層型白色有機EL。磯部縮退π集積プロジェクトのロゴを印刷した白い紙は、白色を確認するための対照として用いられている。
(ロゴの色はホームページhttp://www.jst.go.jp/erato/isobe/でも確認できる)
国立大学法人東北大学の磯部寛之教授(JST ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト研究総括)の共同研究グループは、有機EL の新しい構築法を開拓する分子材料を開発しました。「さっと一吹き」するだけの短工程で、ほぼ理論限界となる高い発光効率を実現する有機EL ができあがる「夢の多機能分子材料」が登場したものです。近い将来、極限にまで単純・簡潔化された有機EL が、私たちの身の回りを明るく照らすことを期待させる成果となります。
□ 東北大学プレスリリース本文
磯部教授らの研究グループは、炭素と水素という二種の元素のみからなる「トルエン」を環状に連ねた新しい大環状分子材料を開発し、これにより単一層という最も単純・簡潔なデバイス構造をもちながら、ほぼ理論限界となる高い効率で光を発する有機EL を実現できることを発見しました。この成果は、これまでの発光ダイオードの構造・材料設計の常識を覆し、有機EL 材料の新しい設計指針を見いだしたものとなります。
科学・技術の進展が著しい現代、次世代の照明として「有機EL」が注目を集めています。有機発光ダイオード(OLED)とも呼ばれるこのデバイスは、ノーベル賞受賞に沸いた青色発光ダイオード(LED)と同様に、エレクトロルミネセンス(EL,電界発光)という現象を用いた発光デバイスです。LED とOLED は、その材料に無機物質をつかうのか、有機物質を使うのかが異なるだけで、発光の原理は共通です。すなわち、デバイスに電場を印加して電流を流し、負(マイナス)の電荷を帯びた電子と正(プラス)の電荷を帯びた正孔をデバイスの材料中で出合わせ、出合った際に生じるエネルギーを光として取り出すものです。
現代の有機EL では、とくにリン光発光材料を活用することで、電子と正孔一つずつから光子が一つ発生するという量子効率100%という理論限界値が達成されています。この理論限界値を実現するためには、「有機EL デバイスを多層構造にする」という設計指針が最良と目されてきました。この設計指針により、いくつもの有機物質を設計し、さらにその性質の異なる有機物質それぞれを薄膜として積層するという手の込んだ構造から高発光効率有機EL がつくりだされています(図1)。
有機EL で効率の良い発光を実現するためには、本当に多層構造が必要なのでしょうか?
磯部教授らの研究グループは、この根本的な疑問に、「一つの基盤材料を設計することで単一層ながら、ほぼ理論限界値となる発光効率を実現した有機EL をつくることができる」という常識を覆す発見をもたらしました(図1)。材料を「さっと一吹き」するだけで照明ができあがるのです。それも炭素と水素というたった二種の元素のみをつかった有機物質(炭化水素)を材料につかったもので、有機EL の設計指針を分子設計という根底から単純化することに成功したのです。元素のもつ性能を最大限引き出し活用するという、元素戦略的観点からも重要な発見です。研究グループでは、この新しい炭化水素材料が赤・緑・青という光の三原色すべてのリン光発光材料に適用できることまで実証しており、表紙図の写真に見られるような白色発光を行うデバイスの作製に成功しています。
今回の発見をもたらしたのは古い歴史をもつ天然芳香族分子「トルエン」でした(図2)。研究グループでは2014 年に、より古い分子「ベンゼン」から有機電子材料をつくりだしていました。今回の発見は、ベンゼンの周辺にメチル(CH3)基をもった「トルエン」をつかうことで、より高機能な単一層・高発光効率有機EL の基盤材料となることを見つけたものです。「単純化された分子材料で、単純化された有機EL をつくりだす」。そんな、近未来の有機EL 照明の姿を想像させる重要な成果となります。
この研究は、JST 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「磯部縮退π集積プロジェクト」の一環として、また科学研究費助成事業を一部使用して行ったものです。また、X 線回折による分子構造決定には、一部、大型放射光施設SPring-8 が活用されています。
英国王立化学会旗艦誌ケミカル・サイエンス誌に近日中に正式掲載されます。
ケミカル・サイエンス誌(英国王立化学会旗艦誌)
2015 年11月4日 暫定版公開(正式版は近日公開されます)
(http://dx.doi.org/10.1039/C5SC03807C)
論文名:Aromatic hydrocarbon macrocycles for highly efficient organic light-emitting deviceswith single-layer architectures
(和文:単一層構造の高効率有機EL を実現する芳香族炭化水素大環状分子)
Chemical Science 誌の論文はOpen Access となっており、どなたにでも本文をご覧いただけます。
トルエン
1837年に松脂から、1841年にバルサム樹脂(Tolu balsam)から取り出され、1843年に化学式を決定したベルツェリウスにより「トルイン」と名付けられた。1850年に現在の名称である「トルエン」を与えられた。古くは樹木から取り出され軟膏などに利用されていたが、現在では石油から製造され、ペンキ、接着剤、マニキュアなどの汎用溶剤として身の回りで広く利用されている。
エレクトロルミネセンス(EL,電界発光)
物質に電圧をかけることで、電気が光に変換され、その物質が光る現象。電圧をかけることで、材料内に電子(マイナス電荷)と正孔(プラス電荷)が注入され、それらが再結合することによって発光する。 参考情報[http://www.konicaminolta.jp/oled/research/base.html]
リン光発光
エレクトロルミネセンスで光が生じる機構の一つ。ほかに蛍光発光があるが、リン光発光では電気を100%の効率で光に変えられるのに対し、一般の蛍光発光では25%が限界となる。このためリン光発光は、照明やディスプレイに理想的な発光機構であると考えられている。
参考情報[http://www.konicaminolta.jp/oled/research/vol01.html]
元素戦略
ありふれた元素の性質・性能を最大限活用し、高機能・新機能材料を生み出そうとする研究戦略。
図2.有機化学が可能とする物質変換。樹木から単離された天然物(トルエン)を分子設計・化学変換により五つ連ねた環状分子(5Me-[5]CMP)とすることで、高機能な電子材料が誕生する。この電子材料分子に用いられている元素は炭素(灰色)と水素(白色)のみである。
東北大学大学院理学研究科
化学専攻 教授 磯部 寛之
Tel: 022-795-6585
Email: isobe[at]m.tohoku.ac.jp 研究室ホームページ:
http://www.jst.go.jp/erato/isobe/
http://www.orgchem2.chem.tohoku.ac.jp/
東北大学原子分子材料科学高等研究機構
准教授 佐藤 宗太
Tel: 022-217-6160
Email: satosota[at]m.tohoku.ac.jp
研究室ホームページ:
http://www.jst.go.jp/erato/isobe/
ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト グループリーダー
髙 秀雄
Tel: 022-217-6160
Email: hideo.taka[at]wpi-aimr.tohoku.ac.jp
研究室ホームページ:
http://www.jst.go.jp/erato/isobe/
<JST事業に関すること>
大山 健志(オオヤマ タケシ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's 五番町
Tel: 03-3512-3528
Fax: 03-3222-2068
Email: eratowww[at]jst.go.jp
<報道担当>
国立大学法人 東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
広報・アウトリーチオフィス
Tel: 022-217-6146
Email: aimr-outreach[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください Posted on:2015年11月 5日
(ロゴの色はホームページhttp://www.jst.go.jp/erato/isobe/でも確認できる)
発表概要
国立大学法人東北大学の磯部寛之教授(JST ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト研究総括)の共同研究グループは、有機EL の新しい構築法を開拓する分子材料を開発しました。「さっと一吹き」するだけの短工程で、ほぼ理論限界となる高い発光効率を実現する有機EL ができあがる「夢の多機能分子材料」が登場したものです。近い将来、極限にまで単純・簡潔化された有機EL が、私たちの身の回りを明るく照らすことを期待させる成果となります。
□ 東北大学プレスリリース本文
発表内容
磯部教授らの研究グループは、炭素と水素という二種の元素のみからなる「トルエン」を環状に連ねた新しい大環状分子材料を開発し、これにより単一層という最も単純・簡潔なデバイス構造をもちながら、ほぼ理論限界となる高い効率で光を発する有機EL を実現できることを発見しました。この成果は、これまでの発光ダイオードの構造・材料設計の常識を覆し、有機EL 材料の新しい設計指針を見いだしたものとなります。
科学・技術の進展が著しい現代、次世代の照明として「有機EL」が注目を集めています。有機発光ダイオード(OLED)とも呼ばれるこのデバイスは、ノーベル賞受賞に沸いた青色発光ダイオード(LED)と同様に、エレクトロルミネセンス(EL,電界発光)という現象を用いた発光デバイスです。LED とOLED は、その材料に無機物質をつかうのか、有機物質を使うのかが異なるだけで、発光の原理は共通です。すなわち、デバイスに電場を印加して電流を流し、負(マイナス)の電荷を帯びた電子と正(プラス)の電荷を帯びた正孔をデバイスの材料中で出合わせ、出合った際に生じるエネルギーを光として取り出すものです。
現代の有機EL では、とくにリン光発光材料を活用することで、電子と正孔一つずつから光子が一つ発生するという量子効率100%という理論限界値が達成されています。この理論限界値を実現するためには、「有機EL デバイスを多層構造にする」という設計指針が最良と目されてきました。この設計指針により、いくつもの有機物質を設計し、さらにその性質の異なる有機物質それぞれを薄膜として積層するという手の込んだ構造から高発光効率有機EL がつくりだされています(図1)。
有機EL で効率の良い発光を実現するためには、本当に多層構造が必要なのでしょうか?
磯部教授らの研究グループは、この根本的な疑問に、「一つの基盤材料を設計することで単一層ながら、ほぼ理論限界値となる発光効率を実現した有機EL をつくることができる」という常識を覆す発見をもたらしました(図1)。材料を「さっと一吹き」するだけで照明ができあがるのです。それも炭素と水素というたった二種の元素のみをつかった有機物質(炭化水素)を材料につかったもので、有機EL の設計指針を分子設計という根底から単純化することに成功したのです。元素のもつ性能を最大限引き出し活用するという、元素戦略的観点からも重要な発見です。研究グループでは、この新しい炭化水素材料が赤・緑・青という光の三原色すべてのリン光発光材料に適用できることまで実証しており、表紙図の写真に見られるような白色発光を行うデバイスの作製に成功しています。
今回の発見をもたらしたのは古い歴史をもつ天然芳香族分子「トルエン」でした(図2)。研究グループでは2014 年に、より古い分子「ベンゼン」から有機電子材料をつくりだしていました。今回の発見は、ベンゼンの周辺にメチル(CH3)基をもった「トルエン」をつかうことで、より高機能な単一層・高発光効率有機EL の基盤材料となることを見つけたものです。「単純化された分子材料で、単純化された有機EL をつくりだす」。そんな、近未来の有機EL 照明の姿を想像させる重要な成果となります。
この研究は、JST 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)「磯部縮退π集積プロジェクト」の一環として、また科学研究費助成事業を一部使用して行ったものです。また、X 線回折による分子構造決定には、一部、大型放射光施設SPring-8 が活用されています。
英国王立化学会旗艦誌ケミカル・サイエンス誌に近日中に正式掲載されます。
研究者の氏名・所属
薛 婧(しゅえ じん): | 東北大学 博士研究員(JSPS) |
泉 倫生(いずみ ともお): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト 研究員 コニカミノルタ(株)開発統括本部要素技術開発センター 研究員 |
芳井 朝美(よしい あさみ): | 東北大学大学院理学研究科 博士前期課程学生 |
池本 晃喜(いけもと こうき): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト 研究員 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 助教 |
是常 隆(これつね たかし): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト 研究員 理化学研究所創発物性科学研究センター 上級研究員 |
明石 遼介(あかし りょうすけ): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト 研究員 理化学研究所創発物性科学研究センター 客員研究員 (現職:東京大学理学系研究科助教) |
有田 亮太郎(ありた りょうたろう): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト グループリーダー 理化学研究所創発物性科学研究センター チームリーダー |
髙 秀雄(たか ひでお): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト グループリーダー コニカミノルタ(株)開発統括本部要素技術開発センター研究員 |
北 弘志(きた ひろし): | コニカミノルタ(株)アドバンストレイヤー事業本部 有機材料研究所所長 |
佐藤 宗太(さとう そうた): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト グループリーダー 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 准教授 |
磯部 寛之(いそべ ひろゆき): | ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト 研究総括 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 主任研究者 東北大学大学院理学研究科 教授 |
発表雑誌
ケミカル・サイエンス誌(英国王立化学会旗艦誌)
2015 年11月4日 暫定版公開(正式版は近日公開されます)
(http://dx.doi.org/10.1039/C5SC03807C)
論文名:Aromatic hydrocarbon macrocycles for highly efficient organic light-emitting deviceswith single-layer architectures
(和文:単一層構造の高効率有機EL を実現する芳香族炭化水素大環状分子)
Chemical Science 誌の論文はOpen Access となっており、どなたにでも本文をご覧いただけます。
用語解説
トルエン
1837年に松脂から、1841年にバルサム樹脂(Tolu balsam)から取り出され、1843年に化学式を決定したベルツェリウスにより「トルイン」と名付けられた。1850年に現在の名称である「トルエン」を与えられた。古くは樹木から取り出され軟膏などに利用されていたが、現在では石油から製造され、ペンキ、接着剤、マニキュアなどの汎用溶剤として身の回りで広く利用されている。
エレクトロルミネセンス(EL,電界発光)
物質に電圧をかけることで、電気が光に変換され、その物質が光る現象。電圧をかけることで、材料内に電子(マイナス電荷)と正孔(プラス電荷)が注入され、それらが再結合することによって発光する。 参考情報[http://www.konicaminolta.jp/oled/research/base.html]
リン光発光
エレクトロルミネセンスで光が生じる機構の一つ。ほかに蛍光発光があるが、リン光発光では電気を100%の効率で光に変えられるのに対し、一般の蛍光発光では25%が限界となる。このためリン光発光は、照明やディスプレイに理想的な発光機構であると考えられている。
参考情報[http://www.konicaminolta.jp/oled/research/vol01.html]
元素戦略
ありふれた元素の性質・性能を最大限活用し、高機能・新機能材料を生み出そうとする研究戦略。
添付図版
図1.従来の多層構造からなるOLEDと本研究での単一層からなるOLEDの模式図。多層構造OLEDでは、様々な機能に特化した複数の材料を層状に重ねることで高効率化を達成していた。本研究では、炭素と水素という二種の元素のみからなる新大環状分子 (5Me-[5]CMP) を用いることで単一層・高発光効率OLEDが実現された。緑色の斜線部にはわずか6%の微量リン光発光材が混ぜ込まれている。図2.有機化学が可能とする物質変換。樹木から単離された天然物(トルエン)を分子設計・化学変換により五つ連ねた環状分子(5Me-[5]CMP)とすることで、高機能な電子材料が誕生する。この電子材料分子に用いられている元素は炭素(灰色)と水素(白色)のみである。
お問い合わせ先
東北大学大学院理学研究科
化学専攻 教授 磯部 寛之
Tel: 022-795-6585
Email: isobe[at]m.tohoku.ac.jp 研究室ホームページ:
http://www.jst.go.jp/erato/isobe/
http://www.orgchem2.chem.tohoku.ac.jp/
東北大学原子分子材料科学高等研究機構
准教授 佐藤 宗太
Tel: 022-217-6160
Email: satosota[at]m.tohoku.ac.jp
研究室ホームページ:
http://www.jst.go.jp/erato/isobe/
ERATO 磯部縮退π集積プロジェクト グループリーダー
髙 秀雄
Tel: 022-217-6160
Email: hideo.taka[at]wpi-aimr.tohoku.ac.jp
研究室ホームページ:
http://www.jst.go.jp/erato/isobe/
<JST事業に関すること>
大山 健志(オオヤマ タケシ)
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's 五番町
Tel: 03-3512-3528
Fax: 03-3222-2068
Email: eratowww[at]jst.go.jp
<報道担当>
国立大学法人 東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)
広報・アウトリーチオフィス
Tel: 022-217-6146
Email: aimr-outreach[at]grp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください Posted on:2015年11月 5日