東北大学 大学院 理学研究科・理学部

Graduate School of Science and faculty of Science , Tohoku University

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【プレスリリース】地震発生域における塩水の電気伝導度を理論的に解明~地震やマグマ発生のメカニズム解明に一歩前進~

概要


1.国立研究開発法人物質・材料研究機構 環境・エネルギー材料部門 ジオ機能材料グループの佐久間博主任研究員と、国立大学法人東北大学大学院理学研究科の市來雅啓助教からなる研究チームは、地下10~70km程度の高温・高圧環境でNaCl水溶液(塩水)がどの程度の電気伝導度(1)となるかを理論的に解明することに成功しました。地中の電気伝導度の計測データと照らし合わせると、地下深部で塩水が存在することを示唆しており、地震発生や火山噴火に地下に存在する塩水が影響するという説を裏付けるものと考えられます。

2.岩盤中に塩水があると、断層がすべりやすくなって地震発生に影響を与えたり、岩石の融点が下がって火山噴火に影響すると言われていますが、地震発生域のような地下深部はボーリング調査が難しく、塩水の存在を直接調べることが困難です。そこで塩水などの流体が、固体よりも電気伝導度が6桁ほど大きいことを利用し、電気伝導度の計測によって塩水の存在を知る調査が行われています。しかし、地殻の地震発生域のような高温・高圧条件下での塩水の電気伝導度が知られておらず、電気伝導度の計測データと塩水の存在を関連づけられないという問題がありました。

3.本研究チームは、水の超臨界状態(2)を再現する分子モデルを開発することで、海水の6分の1から3倍のNaCl濃度の範囲で、実験では観測困難な高温高圧(温度:673 ~ 2000 K、圧力:0.2 ~ 2 GPa)での塩水の電気伝導度を導出することに成功しました。この電気伝導度データから、東北地方の地下を計測した際に見られた高い電気伝導度が、海水程度の塩濃度を持つ塩水の存在で説明できることが明らかになりました。

4.今後、この成果を各地の地殻の電磁気観測と組み合わせて、沈み込み帯などの地震・火山活動が活発な地下深部での塩水の存在を明らかにし、地震発生や火山噴火発生メカニズムの解明を目指した研究を実施していきます。

5.本研究は 一部、文部科学省科学研究費補助金の新学術領域研究「地殻流体:その実態と沈み込み変動への役割」および挑戦的萌芽研究「分子動力学計算による地殻内超臨界流体物性の解明と地震発生に与える影響の研究」の一環として行われました。

6.本研究成果は、Journal of Geophysical Research: Solid Earth誌オンライン版にて現地時間2016年1月20日(日本時間1月21日)に掲載されます。


□ 東北大学プレスリリース本文


研究の背景


 地殻内の水・塩水は、断層のすべり強度の低下や岩石の融点の低下を引き起こすため、地震発生やマグマ生成に大きな影響を与えます。そこで、地震発生のメカニズムを明らかにするため、地震波や電磁気観測から地殻内の水・塩水の分布を明らかにする研究が実施されてきました。特に電磁気観測では地下の電気伝導度変化を観測することができます。常温常圧においては塩水などの流体は、岩石よりも6桁以上大きな電気伝導度を示すため、地下深部での高電気伝導度異常が発見されれば塩水などの流体の存在を示している可能性があります。しかしながら、地下深部は高温・高圧条件であり実験からの計測は条件が限られ、その条件で流体がどのような電気伝導度を示すのかが未解明であり、理論的な裏付けがありませんでした。地殻の主要な塩はNaClと考えられており、NaCl-H2O流体の高温高圧での電気伝導度を調べることが、地殻内の塩水の分布を調べる上で必要でした。


研究内容と成果


 本研究では、研究チームが開発したH2Oの超臨界状態を再現する分子モデル(Sakuma 他、J. Chem. Phys., 2013)を用いて、地殻の高温・高圧条件を網羅する条件でのNaCl-H2O流体(塩水)の電気伝導度を分子動力学計算(3)から導出しました(図1)。具体的には温度は673 Kから2000 K、圧力は0.2 GPaから2.0 GPa、塩濃度は海水の1/6から3倍までの、実験が存在しない条件での電気伝導度を初めて導出することに成功しました。
まず、実験で確認されている低塩濃度(海水の1/6)のNaCl水溶液の電気伝導度を再現できるかを確認し、その上で高温高圧で高塩濃度のNaCl水溶液の電気伝導度を分子動力学計算から予測しました。このような温度圧力領域では、温度の増大とともに塩水の電気伝導度が低下します(図2)。一般的に、温度が上昇するとイオンが動きやすくなり電気伝導度が上がるといわれていますが、その反対の結果となっています。詳細なシミュレーションの解析から、高温ではNaイオンとClイオンがペアを作り、電気的に中性となるため、電気伝導度が低下することが分かりました。 得られた電気伝導度データを用いると、東北日本西側の高電気伝導度異常(Ogawa 他、Geophys. Res. Lett., 2001)は、4 wt%以上の濃度の塩水の存在で説明できることが分かりました(図3)。この塩濃度は海水の塩濃度(3.4 wt%)に近い値であり、不自然に大きな値ではありません。そのためこの地域では地殻深部から海水に近い塩濃度を持つ塩水が供給されている可能性があることを示唆しています。


参考図

20160120_10.jpg 図1 海水の塩濃度における分子動力学計算のスナップショット。黄色がNaイオン、緑がClイオン、水色と青の棒が水分子を示す。

20160120_20.jpg 図2 塩水の電気伝導度の温度・圧力変化。温度が高いほど電気伝導度が低いことがわかる。MDは分子動力学(Molecular Dynamics)計算の略。

20160120_30.jpg 図3 地殻内の高電気伝導度の例。日本海から北上山地にわたる東西断面で深さ10~15 kmに存在する高電気伝導度帯(C1, C2, C3)(Ogawa 他、2001、Geophys. Res. Lett.)は海水に近い塩濃度(4 wt%)の塩水の存在で説明できる。また、地震は高電気伝導度帯と低電気伝導度帯の境で発生しているので、このような塩水が上の岩石に浸透することで断層の強度が低下して地震が発生していると解釈できる。


今後の展開


 本研究成果は、地殻内の塩水の分布を知るために必須の物性を提供するものであり、地震発生やマグマ生成のメカニズムの解明に貢献するものです。この電気伝導度データを用いて、世界中の地殻や沈み込み帯中にどのような塩水が存在するかの検討が可能となります。今後は、CO2などの他成分を含めた流体の電気伝導度を導出するための研究も実施していきます。


掲載論文


題目:Electrical conductivity of NaCl-H2O fluid in the crust
著者:Hiroshi Sakuma and Masahiro Ichiki
雑誌:Journal of Geophysical Research: Solid Earth
掲載日時:2016年1月20日午前10時(日本時間21日午前0時)


用語解説


 (1) 電気伝導度
 電気の通しやすさを示す指標。塩水の場合には、水中でイオン化したNa+やClが電荷を運ぶ。

 (2) 超臨界状態
 374℃、22.1 MPaを超えるような高温高圧下では、水は液体と気体の区別がなくなり超臨界と呼ばれる状態になる。

 (3) 分子動力学(MD)計算
 原子間にはたらく力をポテンシャルエネルギーから計算して、原子の運動をニュートン方程式に従って解析することで、原子のダイナミクスを導出する方法。


お問い合わせ先


<研究に関すること>
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 環境・エネルギー材料部門ジオ機能材料グループ
主任研究員 佐久間 博(さくま ひろし)
TEL: 029-860-4942
E-mail: SAKUMA.Hiroshi[at]nims.go.jp
URL: http://www.nims.go.jp/units/erm/group_2/index.html

東北大学 大学院理学研究科 地震・噴火予知研究観測センター
助教 市來 雅啓(いちき まさひろ)
TEL: 022-795-3949
E-mail: Masahiro.Ichiki.B5[at]tohoku.ac.jp
<報道・広報に関すること>
国立研究開発法人 物質・材料研究機構 企画部門 広報室
〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
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E-mail: pressrelease[at]ml.nims.go.jp

東北大学 大学院理学研究科
〒980-8578 仙台市青葉区荒巻字青葉6-3
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
TEL: 022−795−5572, FAX: 022-795-5831
E-mail: r.takahashi[at]m.tohoku.ac.jp
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