3時間目 生物学「ヒレから四肢へ-作られ方の比較から進化の仕組みを推定する-」
講師:田村 宏治教授
少し肌寒いなかで開催された今年のぶらりがくforハイスクール。この日最後の講義は、生命科学研究科の田村宏治教授に、魚のヒレと私たちのような四足動物の四肢の作られ方の比較から陸上動物の進化について考えることを通して、理学部とはどういうところであるかについて解説していただきました。
この講義は、理学部とは関係性に理屈をつけていく学問であるというという話からはじまりました。教授自身が配布資料が極端に少ないことを宣言していたこともあり、みな真剣な様子で話を聞いていました。また、途中教授が「正解はない」としながら、アンケートとして、魚のヒレから両生類の四肢がどうやって進化したのかを用紙に記入する時間があり、一同熱心に回答していました。
アンケート回収後は、ヒレと四肢の共通点と相違点を骨格や胚発生(卵から生まれるまでの成長過程)の観点かた比較することで、先ほどのアンケートの回答例のようなものを示していただきました。より詳しく知りたい方は、「オンラインで学ぶ東北大学MOOC」で2020年1月開講予定の田村教授の新規講座「進化発生学入門―恐竜が鳥に進化した仕組み―」をご覧ください。募集開始は10月を予定しています(https://mooc.tohoku.ac.jp/)。
そして、講義の最後には「理学部は就職に不利ではない」といった大人向けの話もしてくださいました。また、講義後には質問コーナーがあり、「化石復元図では内蔵まで復元できるのか」といった鋭い質問をする生徒もいました。 今回の講義は、特に田村教授の授業に関しては、とても大学の授業に近いモノがあり、参加してくれた高校生にとってはいい体験となったはずです。たくさんのご参加ありがとうございました。
2時間目 地球物理学「火山噴火のダイナミクス」講師:小園 誠史准教授
今回の「ぶらりがく」は3つの講義が行われますが、私がレポートするのは地震・火山学分野。テーマは『火山噴火のダイナミクス』で講師は地球物理学系の小園誠史先生です。今回は高校生対象ということで、大学の講義と同じような専門的な内容をかみ砕いて学んでいきました。
小園先生のお話は、噴火映像の導入から始まりました。しかし、「火山がすごいのはわかるけど、すごいだけじゃ学問にはならない」ということで、どこに学問的なおもしろさがあるのかについて、考えていきました。
最も大きな学問的疑問は、噴火のタイプについてです。このタイプ分けの原因が何なのか、何が噴火の違いにつながるのか、という疑問です。しかも、同じ火山・同じマグマであっても、激しい噴火が起こることもあるし、穏やかな噴火に留まることもあるそうです。疑問は深まるばかりでした。
この疑問に答えるヒントとして、参加者数人で岩石の密度を求めてみました。そうすると、激しい噴火の時にでてくる岩石と、穏やかな噴火の時の岩石では、大きく密度が異なることがわかりました。同じマグマからできた岩石の密度が大きく異なるということは、軽い方に多くの気泡が含まれていることが推測できます。
気泡の発生があると、マグマは何倍くらいに膨張するのでしょうか。今度はこれを全員で計算してみました。実際に自分で計算してみることで、爆発的噴火がどれくらい激しい噴火なのか、体感的に理解することができました。穏やかな噴火の場合はガスがどんどん抜けていってしまうため、膨張がかなり小さくなります。このガスの抜け方の違いによって、同じ火山・同じマグマでも、噴火の様子が全く異なるものになることがわかりました。
このように前半では、山の中で何が起きているかを実際に計算して明らかにしていきました。後半では、噴火後の噴煙について学びました。
噴煙は本来大気よりかなり重いものです。だから、普通に考えると空に上がらず落ちてきてしまい、火砕流になります。しかし、特定の量・速さでマグマが噴出すると、大気を巻き込んで加熱されて大気より軽くなり、傘のような形の噴煙になるそうです。このように、火砕流になるのか噴煙になるのかを計算できるため、防災に非常に有効な考え方だそうです。
小園先生は物理学の立場から火山について研究していますが、いろんな分野が関わっている学問であり、多様なアプローチがあるそうです。「研究は面白く、でも辛いものです。純粋に面白いと思えるテーマを見つけて、ぜひ意欲的に取り組める分野で活躍してください。」という応援の言葉で、先生のお話は締めくくられました。
1時間目 数学「べき乗和公式から多重ゼータへ」講師:大野 泰生教授
世界は調和と対称性に満ちている。そう教えてくれたのは、東北大学理学部・理学研究科紹介動画に「数論のファンタジスタ」として登場した、数学専攻の大野泰生教授。ぶらりがく for ハイスクール第一講義目「べき乗和公式から多重ゼータへ」では、数学に潜む調和と対称性を会場のみんなで楽しみました。私は講義を聴きながら終始数論の世界に魅了されてしまい、講義が終わったあとでももっと知りたいと思ったほどの内容でした。
べき乗和の求め方は高校の数学で学ぶことですが、多くの人が知っているのは3乗和までの公式。では、4乗和の公式は知っているでしょうか。さらにはそれ以上のべき乗和は、どう書くことができるでしょうか。ちょっと難しそうですよね。そこでポイントとなるのは、「ものの見方を変える」ことと「一般的な特徴を掴む」こと。この2点に注目して大野教授の講義は進み、べき乗和の公式の種明かしがされていきました。そして、べき乗和の公式にみられる「ベルヌーイ数」に話題は移りました。
ベルヌーイ数は、上述のべき乗和の公式を定式化する際に導入される数列{Bi}です。(ちなみに、べき乗和の公式は、同時期に関孝和とベルヌーイによってそれぞれ独立に定式化されたそうです。)ここからさらに、大野教授の講義は「多重ベルヌーイ数」や「多重ゼータ値」が持つ対称性の話題へと広がっていきました。多重ゼータ値の対称性と多重ベルヌーイ数の対称性の相互関係は未だ明らかにされていない謎です。 講義の最後は、「世界は調和と対称性に満ちている 未知の調和、未解明の対称性は君たちの手で解き明かされる(かもしれない) 挑戦しないと何も始まらないよ」という大野教授から高校生へのメッセージで締めくくられました。さて、高校生のみなさんはこの講義を聴いて何を感じたでしょうか。もっと数論を学んでみたいと感じたり、その世界に感動した人など様々でしょう。この講義からさらに自分の世界を広げ、未知の事柄に挑戦してもらいたいです。
8月2日(金)、理学研究科合同A棟205号室にて「物理学専攻キャリアパス・シンポジウム2019」が開催されました。
本シンポジウムは、物理学科・専攻を修了し、さまざまな方面で活躍されている方々にその経験を語っていただくことで、学生たちに物理学科・専攻を修了後の未来について考えてもらおうと、毎年物理学専攻が開催・運営しているシンポジウムです。今年は4名の講師をお招きし、学生時代の体験談や現在の仕事内容などを語って頂きました。
7月14日(日)、東北大学川内キャンパスにて、学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2019が開催されました。科学って、そもそもなんだろう?―『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ』は、「科学の"プロセス"を子どもから大人まで五感で感じられる日」をコンセプトに、「学都」として知られる「仙台・宮城」において、2007年度から毎年7月に開催している体験型・対話型の科学イベントです。
今年度理学部・理学研究科からは3団体が出展しました。
■東北大学理学部・理学研究科広報サポーター「モアモアしおりをつくろう」
同じパターン模様を少しずらして配置するときに浮かび上がる特徴的な干渉縞「モアレ」は、橋やトンネルなどのたわみなど様々な「ずれ」を感知する技術に応用があり、近年特に注目を集めています。このブースでは、モアレ干渉縞(かんしょうじま)を利用した世界に一つだけのマイしおりをつくりました。
■金田雅司先生「放射線ってなんだろう? 〜素粒子・原子核の世界からの見方〜」
自然科学では、定性的ではなく定量的に物を見ることが重要です。放射線測定では、測定値が必ず「ゆれ」ます。どのようにゆれているかを実際に測定し、グラフやヒストグラムにして揺れ具合を可視化してもらう体験講座を行いました。
■東北大学大学院理学研究科太陽惑星空間系領域「太陽系の歩き方」
惑星の見所満載の旅行ガイド「太陽系の歩き方」を手に、各惑星への旅行を通して太陽系の惑星について理解を深めました。
「春はあけぼの。夏は夜。秋は夕暮れ。冬はつとめて。では、夏は夜の続きはわかりますか?月のことはさらなり、闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。古来より日本人は夏の蛍の儚く美しい光に魅せられさまざまな作品を残してきました。」そんなお話からはじまる今回のぶらりがくは、化学専攻の西澤精一教授の化学発光の講義です。計40名の方に参加していただき、なぜ蛍が光るのか、どういう発光が生活に役立てられているのか学びました。
講義の様子
講義は、発光するとはどういうことかを学ぶことから始まりました。物質の持つ電子が基底状態からエネルギーを受けて励起状態に上がり、そこから基底状態に戻るために光が放出されるということを学びました。途中少し難しい式も出てきましたが、受講者の皆さんは真剣にお話を理解しようとメモを取っていました。また、発光には生物発光、化学発光など仕組みの違う発光があることも学びました。
生物発光の例として、ウミホタルという微生物は海中で発光する物質を放出します。これは、ウミホタルルシフェラーゼという酵素とウミホタルルシフェリンという基質が水中で混ざりあい、ウミホタルルシフェリンが酸化されるためです。今回はこの状態を再現するために、乾燥ウミホタルをすりつぶして、水をかけました。
自分たちですりつぶしたウミホタルに水をかけるときれいに発光しました
すると、きれいな青色発光を観察することができました。「おお~!」「きれ~い!!」という声が上がり、みなさん思い思いに光る様子を観察したり写真に収めたりしていました。
続いて、化学発光についてのお話です。その中でも刑事ドラマなどでおなじみのルミノール反応について学びました。ルミノール反応で血を検出できるのは、血の中にある鉄イオンが反応を促進させるためだということで、西澤先生が鉄イオンの入った溶液を使いデモ実験を見せてくださいました。その途中、「化学者はこういう手つきで溶液を混ぜるんです」と化学者の作法を披露され、受講者の皆さんは真剣にその手つきを見つめていました。
実演する西澤先生
このルミノール反応についても実験を行いました。今回使ったものは、大根です。大根に含まれるペルオキシダーゼという酵素は過酸化水素を分解し、ルミノール反応を促進させます。実際に大根をすりおろし、ルミノールと過酸化水素水の混合溶液をかけてみました。すると、大根が青白く光りだしました。受講者の皆さんは、「おお~」と感心しつつ、なぜ大根が光るのか、スライドに映し出された複雑な化学反応式とにらめっこしながら理解していたようでした。
大根をすりおろしました
今回のぶらりがくでは、実験を通して化学反応を意識しながら、光るという現象を学びました。光は私たちの生活になくてはならず、また私たちを魅了してやみません。どういう仕組みで光っているのかな?どういう化学反応が起こっているのかな?と考えるとより化学を身近に感じられるかもしれませんね。
6月21日(金)、物理系2年生のための物理学科オープンラボが開催されました。
最初に全体説明会が行われ、その後、6班に分かれてそのうち2つの研究室を回るラボツアーがあります。ラボツアーの後は、再び集まり大学院生との座談会、最後に自由見学です。今回は43名の参加者がありました。物理学科の先生や先輩の話を直接聞くことができる貴重な機会となりました。
以下、須賀教授より参加レポートをご提供いただきましたのでご紹介します。
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国連 海洋と海洋法に関するオープンエンド非公式協議プロセス第20回会合に、海洋科学、とくに国際協力による持続的な海洋観測の専門家として、文部科学省からの推薦により、パネリストとして出席しました。全球海洋観測システム(GOOS)や自動ロボット観測網Argoの概要と、それらが今後ますます持続的な開発に貢献するためには、国際協力と海洋法条約の適切な適用が不可欠であることなどについて発表し、多くの参加国の賛同を得ることができました。本会議の背景と概要は以下のとおりです。
<会議の背景と概要>
国連 海洋と海洋法に関するオープンエンド非公式協議プロセスは、海洋問題や海洋法に関連する事項について、政府や機関の調整や協力が必要な領域を明らかにするとともに、特定の問題について国連総会に提案することを目的とするものです。2000年から毎年開催されており、今回は第20回会合(ICP-20)でした。
2017年の国連総会で、2021年から2030年を「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」とすることが採択されました。これを受けて、今年のテーマは、「海洋科学と"持続可能な開発のための国連海洋科学の10年"」でした。持続可能な社会の実現を目指し、国連加盟193か国が2016年~2030年の15年間で達成するために掲げた目標である持続可能な開発目標(SDGs)のうち、海洋は、SDG 14 (海の豊かさを守ろう)はもちろん、SDG 13 (気候変動に具体的な対策を)、SDG 7 (エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)などのほか、多くのSDGsに関わりがあります。SDGsの達成のためには海洋科学の一層の推進が欠かせないという認識が「国連海洋科学の10年」の背景にあります。
6月10日(月)~15日(金)に国連本部で開催された本会議には、各国政府代表、関係国際機関の代表、NGO代表のほか、各国からの推薦に基づく約30名のパネリストが参加しました。初日には、今年のテーマに関する、担当国連事務次官からの報告に続き、各国政府代表から、国連海洋科学の10年に対する各国の姿勢や取り組みについての声明がありました。続いて、正味3日間にわたり、パネル討論が行われ、持続的開発目標の達成のために、海洋科学が果すべき役割、能力開発の推進の必要性、国際連携・協力の強化の必要性、次世代の育成の重要性、科学と政策のインターフェースの強化の必要性などについて、活発に議論されました。最終日には、共同議長によりまとめられた会議サマリー案について意見交換し、全ての日程を終えました。議長サマリーは国連事務総長に報告され、国連総会での議論に活かされることになります。
日本政府代表の文部科学省・小林翔太専門職とともに会場の国連本部第一会議室で。
発表中の須賀利雄教授(右から4人目)。
米国政府代表からの質問に答える須賀教授。
議長サマリーを読み上げる共同議長。
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