東北大学 大学院理学研究科・理学部

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太陽フレア関連電波に現れる縞状構造の偏波特性 〜高分解能観測から示唆される太陽コロナ中の微細なプラズマ環境〜

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図:米国のSDO(Solar Dynamic Observatory)衛星により極端紫外線で撮影された
太陽活動域のループ状磁力線群。(Credits: NASA/SDO)


概要


 東北大学惑星圏飯舘観測所に設置されている高分解太陽電波スペクトル観測装置AMATERAS(注1)を用いて、太陽フレア(注2)発生に伴い現われる電波バーストのスペクトルの縞状構造(ゼブラ・パターン)の詳細な偏波特性(注3)を統計的に解析しました。この結果、縞状構造の円偏波率(注4)と左右両偏波間の出現時間差には特徴的な相関関係があることが分かりました。この関係は電波発生後に急峻な密度変化を持つプラズマ域を伝搬した結果として解釈され、光学観測でも困難な電波生成域近傍の太陽コロナの微細なプラズマ環境の様相が示唆されました。



研究内容


 太陽フレア発生時には電波域では多様なスペクトル形状を示すバーストが出現しますが、時折、ゼブラパターンと呼ばれる縞状構造が出現することがあります(以下、ZP。図1参照)。ZPはループ状の磁力線(文頭図)に沿って高速で動く電子がエネルギー源となり、電波発生域でのプラズマ密度と磁場強度の間に或る離散的な関係が成り立つ時にプラズマ周波数(注5)で放射されたものと考えられています。ところで、この説の下ではZPは右旋回か左旋回のどちらか一方の円偏波で観測されることになる筈ですが、実測では両方の円偏波が混ざった状態である楕円偏波が多いという先行研究があり、研究者を悩ませてきました。一つの解釈として、一方の円偏波で発生したZPが太陽コロナ中を伝搬する際中にもう一方の円偏波も生成され、それらが加算された状態を観測した可能性が挙げられてきましたが、その詳細は未解明でした。この課題に対し、本学博士課程在籍中の金田和鷹さん他、東北大学、情報通信研究機構、名古屋大学から成る研究グループがZPの詳細な偏波特性の解析を行い、その起源解明を試みました。

 本研究では本学惑星圏飯舘観測所に設置されている太陽電波観測装置AMATERASの高分解スペクトル解析機能を活かし、観測された21例のZPの詳細な偏波特性を導出しました。この結果、ZPは例外なく楕円偏波性を示すこと、更に、円偏波率と右旋回、左旋回の両円偏波間の出現時間差には有意な正の相関関係があること、即ち、円偏波率の大きさが小さいほど出現時間差も小さいことが分かりました(図2)。ここで左右両円偏波間の出現時間の差は、コロナプラズマ中での両円偏波の伝搬速度の違いにより生じた遅延差として解釈されます。従ってこの結果は、どのZPでも、発生した円偏波に加えてもう一方の円偏波の生成およびそれらの加算が発生しており、その度合いが大きいほど遅延差が小さくなることを示唆しています。

 では何処でどのようにもう一方の円偏波の生成と加算が生じると観測結果を矛盾無く説明出来るのかが課題になります。幾つかの可能性について具体的なモデルを作成し、円偏波率と遅延差の変化を定量的に解析した結果、以下の電波発生・伝搬過程およびプラズマ環境が満たされれば観測結果は説明されることが分かりました。即ち、フレア発生に関わった高温・高密度プラズマが捕捉されている磁力線上で発生したZPが、その近傍のより低密度のプラズマ域を伝搬する際、磁力線と垂直方向に急峻なプラズマ密度勾配が存在するような領域での反射により元々の円偏波とは異なる円偏波が生じ、その反射回数が増すほど円偏波率の大きさと両円偏波間の遅延差がともに低下するというものです(図3)。異なるプラズマ環境を持つ磁力線群が隣接することは光学観測から確認されています。一方、それらの境界の急峻なプラズマ密度勾配の存在については理論的には想定されていますが、光学観測に基づく確認は空間分解能の制約から現実的にはほぼ不可能です。高分解電波観測によるZP の詳細解析に基づく本研究は、観測的確認が困難なコロナ中のプラズマ環境を'可視化'したとも言えそうです。



参考図


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図1:太陽電波スペクトル中の縞状構造(ゼブラパターン)の一例。この現象は2011年6月21日の太陽フレア発生に伴い出現した。上図:縞状構造(赤枠内に出現)を含む太陽電波(Ⅳ型)バーストの全容。下図:縞状構造の詳細図。


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図2:AMATERASで観測された21例の縞状構造についての円偏波率の絶対値と両円偏波間の出現遅延時間の分散図


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図3:本研究で考案された縞状構造の発生・伝搬の様相



発表雑誌


Kaneda, K. et al. (2017), Polarization characteristics of zebra patterns in type IV solar radio bursts, Astrophysical Journal, 842:45, doi:10.3847/1538-4357/aa74c1.
本研究は名古屋大学宇宙地球環境研究所共同研究の助成も受けて行われました。



用語解説


(注1) AMATERAS
東北大学惑星圏飯舘観測所にある開口面積512平米の大型電波望遠鏡(IPRT)に搭載されている太陽電波観測装置。150~500MHz帯の電波を、周波数分解能61KHz、時間分解能10msecでスペクトル解析可能であり、この周波数帯では世界最高レベルの性能を持つ。
IPRTやAMATERASについての参照先URLは以下:
http://pparc.gp.tohoku.ac.jp/research03.html#radio_obs
http://pparc.gp.tohoku.ac.jp/data/iprt/index.html


(注2) 太陽フレア
太陽黒点間を結ぶループ状の磁力線が短時間に形状を変化させ、蓄積されていたエネルギーを開放する現象。X線~電波域の広い波長帯の電磁波の急激な変化が発生し、高エネルギー粒子の放出を伴う場合もある。


(注3) 偏波
電波の持つ情報の一つで波面の電界の旋回性を示す。右旋回または左旋回する偏波のみの円偏波、両者が等強度の直線偏波、両者が不等強度の楕円偏波の3状態がある。


(注4) 円偏波率
右旋回と左旋回の円偏波強度を各々R, Lとするとき、(R-L)/(R+L)×100[%]で定義した量。円偏波は100%または-100%、直線偏波は0%、楕円偏波は100から-100%の間の値となる。


(注5) プラズマ周波数
プラズマ(電離気体)の電荷密度の振動数で、電荷密度の平方根に比例した値を持つ。太陽コロナの電荷密度は高度とともに減少し、AMATERASの観測周波数150~500MHzに対応する太陽コロナのプラズマ周波数は、太陽表面からおよそ3万~30万kmの領域での値になる。



問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科 惑星プラズマ・大気研究センター
准教授 三澤 浩昭(みさわ ひろあき)
電話:022-795-6736
E-mail:misawa[at]pparc.gp.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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