東北大学 大学院理学研究科・理学部

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SWEETタンパク質は植物ホルモン「ジベレリン」を輸送 -受容体センサーを利用した網羅的探索により発見-

要旨



 理化学研究所(理研)環境資源科学センター適応制御研究ユニットの瀬尾光範ユニットリーダー(首都大学東京大学院理工学研究科客員准教授)、菅野裕理テクニカルスタッフⅡ、東北大学大学院理学研究科の上田実教授、首都大学東京の小柴共一名誉教授(元大学院理工学研究科)らの共同研究グループは、これまで糖の輸送体として考えられてきたSWEETタンパク質が植物ホルモン「ジベレリン」を輸送することを発見しました。

 ジベレリンは種子発芽、伸長成長、花芽形成・開花などを促進する低分子化合物です。これまでにジベレリンの代謝や情報伝達に関与する多くの因子が同定されていますが、植物体内でジベレリンがどのように輸送されているのかについては、ほとんど明らかになっていませんでした。

 共同研究グループは、これまでにジベレリン、アブシシン酸、ジャスモン酸などの植物ホルモンの受容体をセンサーとして利用した酵母two-hybrid系[1]を用いることで、これらの植物ホルモンを輸送するタンパク質を網羅的に見つけ出す方法を開発してきました注1)。今回、この方法を使い、シロイヌナズナのSWEET13、SWEET14というタンパク質が、ジベレリンを細胞内へ取り込む輸送体であることを発見しました。SWEETタンパク質は糖の輸送体としてバクテリアから高等生物まで広く存在していますが、SWEETタンパク質が糖以外の化合物を輸送することが明らかになったのは初めてです。

 今後、植物体内におけるジベレリンの局所的な分布を変化させることで、植物の成長や種子発芽、開花などを精密にコントロールすることにより、植物の収量増大につながる新たな成長調節技術の開発が可能になると期待できます。

 本研究は、科学研究費補助金(新学術領域研究)「大地環境変動に対する植物の生存・成長突破力の分子的統合解析」、「天然物ケミカルバイオロジー」、最先端研究基盤事業「植物科学最先端研究拠点ネットワーク」の支援により行われました。

 成果は、国際科学雑誌『Nature Communications』(10月20日号)に掲載されました。

 注1)2012年5月29日プレスリリース「栄養素を運ぶタンパク質「NRT1.2」が植物ホルモンも運ぶことを発見





背景



 ジベレリンは植物体内で生合成され、植物組織1グラム中に数ナノグラム(ng、1ngは10億分の1グラム)からそれ以下という低濃度で、種子発芽、伸長成長、花芽形成・開花などの生理過程を促進する低分子化合物です。農業の現場では、種なしブドウの生産の際に、種子のない果実が実る単為結果[2]を引き起こす農薬などとして用いられています。また、ジベレリン生合成阻害剤は矮化(わいか)剤[3]として花卉(かき)園芸[4]などに用いられています。「緑の革命[5]」でイネやコムギの倒伏防止に役立った「半矮性[6]」の形質が、ジベレリンの生合成もしくは情報伝達に関与する遺伝子の変異によるものだったことも知られています。

 これまでに、植物体内のジベレリン量がどのように調節されているのか、またジベレリン量がどのように認識され、その情報がどのように処理されることで生理応答が引き起こされるのかについて、多くの研究が行われてきました。しかし、ジベレリンがどこで作られ、どのように移動し、どこで作用するかについてはほとんど分かっていませんでした。そのため、ジベレリンの輸送を制御する因子、すなわち輸送体の特定が求められていました。





研究手法と成果



 ジベレリン受容体GID1は、DELLAと呼ばれるタンパク質とジベレリン依存的に結合します(図1)。DELLAは、GID1と結合しない状態ではジベレリン応答を抑制していますが、細胞内ジベレリン濃度が上昇しGID1と結合することにより分解されます。その結果として下流の情報伝達系が活性化し、ジベレリン応答が引き起こされます。

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図1. ジベレリン(GA)依存的なGID1受容体とDELLAタンパク質の結合

(a) ジベレリンがない(濃度が低い)ときは、DELLAがジベレリン応答を抑制する。

(b) ジベレリンがある(濃度が高い)ときは、GID1とDELLAが結合した後、DELLAが26Sプロテアソーム系で分解される。これによりジベレリン応答が活性化する。

 GID1とDELLAのジベレリン依存的な結合は、酵母two-hybrid系によって検出することが可能です(図2)。共同研究グループが低濃度のジベレリン存在下でGID1とDELLAの結合を促進するシロイヌナズナ由来タンパク質を網羅的に探索した結果、SWEET13、SWEET14はジベレリン取り込み輸送体として働くことが分かりました。

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図2 酵母two-hybrid系を利用した輸送体の同定

生育に欠かせないアミノ酸の一つであるヒスチジンを合成できない酵母細胞内で、ヒスチジン合成遺伝子(HIS)の上流域(UAS)に結合するタンパク質ドメイン(DBD)を付加したジベレリン受容体GID1と、転写活性化ドメイン(AD)を付加したDELLAを同時に発現させる。

(a) 輸送体がない場合、酵母細胞内にジベレリン(GA)が取り込まれず、GID1とDELLAが結合しない。その結果、酵母細胞はヒスチジンを合成できず生育できない。

(b) 輸送体がある場合、酵母細胞内へジベレリンが取り込まれる。その結果、GID1とDELLAの結合が誘導され、ヒスチジンが合成されるため、酵母は生育可能になる。

 次に、SWEET13、SWEET14を同時に欠損したシロイヌナズナの二重変異体を作製し、野生型と生育を比較しました。二重変異体では、葯(やく)[7]の開裂のタイミングが野生型に比べて遅れるため、受粉が正常に行われず(図3a)、植物が受粉し果実を作る「稔性」の低下がみられました(図3b)。また、内生ジベレリン量が低下した突然変異体で類似した表現型が観察されること、二重変異体の表現型がジベレリン処理で回復することから、SWEET13、SWEET14は、葯においてジベレリンの働きを促進すると考えられます。

 一方で、二重変異体の種子および芽生えは、ジベレリン生合成変異体とは逆に、野生型より大きく(図3c、d)なりました。さらに、ジベレリン生合成阻害剤存在下やジベレリンの働きを抑えるアブシシン酸の存在下で、野生型より発芽しやすいことが分かりました。このことから、SWEET13、SWEET14は、種子形成・発芽過程でジベレリンの働きを抑制すると考えられます。

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図3 シロイヌナズナの野生型およびSWEET13、SWEET14を同時に欠損した二重変異体の生育

(a)二重変異体の葯は、野生型に比べて開裂のタイミングが遅れた。

(b)二重変異体の花茎には種子を正常に含まないサヤ(赤色の矢じり)があり、稔性の低下がみられた。

(c)二重変異体の乾燥種子は、野生型よりも大きくなった。

(d)二重変異体の芽生えは、野生型よりも大きく、根も長くなった。





今後の期待



 これまでにNPFと呼ばれるタンパク質の一部がジベレリン輸送体として働くことが報告されていました。今回の研究では、それとは異なる「SWEETタンパク質」がジベレリンを輸送することを明らかにしました。このことは、植物内でのジベレリンの輸送が、複雑かつ精密に制御されていることを意味しています。また、輸送体の働きを利用することで、例えば植物体内におけるジベレリンの局所的な分布を変化させ、植物の成長や種子発芽、開花などを精密にコントロールするといった、作物の収量増大につながる新たな成長調節技術の開発が可能になると期待できます。

 これまで糖の輸送体として考えられてきたSWEETが、ジベレリンを輸送することが明らかになった点も重要な発見です。植物体内に存在する多種多様の化合物の輸送が、限られた数の輸送体によってどのように制御されているのかを明らかにする発端になることも期待できます。





論文情報



<タイトル>

AtSWEET13 and AtSWEET14 regulate gibberellin-mediated physiological processes

<著者名>

Yuri Kanno, Takaya Oikawa, Yasutaka Chiba, Yasuhiro Ishimaru, Takafumi Shimizu, Naoto Sano, Tomokazu Koshiba, Yuji Kamiya, Minoru Ueda and Mitsunori Seo

<雑誌> Nature Communications

<DOI> 10.1038/ncomms13245





補足説明



[1] 酵母two-hybrid系

酵母細胞内で2種類のタンパク質の結合を検出する方法。通常、一方のタンパク質に特定のDNA結合配列を付加し、もう一方のタンパク質に転写活性化領域を付加する。2種類のタンパク質が結合した場合、その複合体が1つの転写活性化因子として機能し、下流のマーカー遺伝子発現を活性化する。選択培地上で酵母が生育可能か否かで、結合の有無を判断できる。



[2] 単為結果

受精が行われないままに子房や花床が発達し、種子のない果実が実ること。



[3] 矮化(わいか)剤

植物の成長を抑制し、草丈を低くするために用いられる薬剤。



[4] 花卉(かき)園芸

観賞用の植物(例えば菊、盆栽など)を栽培すること。



[5] 緑の革命

1940〜60年代に、イネやコムギなどの収穫量を増やすために行われた品種改良。



[6] 半矮性

収量が低下しない程度のやや草丈の低い形質。



[7] 葯(やく)

おしべの一部で上端にあり、花粉を作る袋状の器官。





発表者・機関窓口



<発表者>※研究内容については発表者にお問い合わせ下さい

理化学研究所 環境資源科学センター 適応制御研究ユニット

ユニットリーダー   瀬尾 光範(せお みつのり)

テクニカルスタッフⅡ 菅野 裕理(かんの ゆり)

TEL:045-503-9666(瀬尾) FAX:045-503-665(瀬尾)

E-mail:mitsunori.seo[at]riken.jp(瀬尾)



東北大学 大学院理学研究科

教授 上田 実(うえだ みのる)

TEL:022-795-6553 FAX:022-795-6553

E-mail:ueda[at]m.tohoku.ac.jp



首都大学東京 

名誉教授 小柴 共一(こしば ともかず)





<機関窓口>

理化学研究所 広報室 報道担当

TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715

E-mail:ex-press[at]riken.jp



東北大学 大学院理学研究科

特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)

TEL:022-795-5572、022-795-6708 FAX:022-795-5831

E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp



首都大学東京 URA室

TEL:042-677-2728 FAX:042-677-5640

E-mail:ragroup[at]jmj.tmu.ac.jp


*[at]を@に置き換えてください




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