東北大学 大学院理学研究科・理学部

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西シベリア上空のメタン濃度は高度によって上昇度に差異があると判明

概要


 国立研究開発法人国立環境研究所の笹川基樹主任研究員と町田敏暢室長らは、国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下、「JAMSTEC」という。)・東北大学・ロシア科学アカデミー・ロシア水文気象環境監視局と共同で、西シベリアの2ケ所で航空機による観測を20年以上行い、メタン濃度の長期的な傾向とその起源地域を推定しました。全球平均と同じように西シベリアでもメタン濃度は長期的に増加を続けています。この濃度増加の程度は、北部西シベリアのスルグート周辺では高層と低層で違っていました。これは、大気化学輸送モデルの計算によるとヨーロッパ起源のメタンが低層でより減少したためと判明しました。

 本研究成果は、米国地球科学連合(AGU)の学術誌「Journal of Geophysical Research: Atmospheres」に2017年10月14日付で掲載されました。

□ 東北大学ウェブサイト



背景


 シベリアには世界最大の森林が広がるため、木々の呼吸・光合成によって二酸化炭素濃度は大きく変動します。西シベリアには世界最大の湿地帯が存在します。湿地からはメタンガスの放出があります。また西シベリアは化石燃料(石油や天然ガス)の産出も行われており、その掘削・輸送過程でメタンガスが漏出することが知られています。国立環境研究所地球環境研究センター(以下、「CGER」という。)では、二酸化炭素やメタンなど温室効果ガスのシベリアでの変動を明らかにするために、航空機を使った定期的な大気サンプリングを西シベリア北部のスルグート(1993年〜)と中部のノボシビルスク(1997年〜)と東シベリアのヤクーツク(1996年〜)で続けています。

 20年間継続的に西シベリアで行った航空機観測の結果得られた、メタン濃度の変動に関する解析を行いました。



方法


 西シベリアの湿地帯(スルグート周辺)とタイガ(ノボシビルスク周辺)上空で、チャーターした航空機(写真)により、高度0.5-7 kmで大気をガラスフラスコに採取しました。採取した大気試料は、CGERに輸送し温室効果ガスの濃度を測定しました。メタンの濃度はGC-FID法により求めています。

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写真. ノボシビルスク周辺の観測に使用していた航空機。


 観測されたメタンが地球上のどの場所から輸送されたのかを予測するために、JAMSTECで開発された大気化学輸送モデルと最適化された放出量分布(Patra et al., 2016)を用いてタグ付きトレーサー計算を行いました。地球上を18の地域(Region 1 - Region 18)に分けて、各地域から放出されるメタン分子に、地域ごとに異なる1から18のタグをつけます(図1)。実際に観測を行った緯度・経度・高度・日時に計算されたメタンのタグを見ることにより、どの地域から放出されたものが測定されたか予測できます。例えばヨーロッパ(Region 2)から放出されるメタンに"2"のタグをつけます。スルグートまでヨーロッパのメタンが輸送されてくると、計算されたメタンの中に"2"のタグを持ったものが含まれることになります。

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図1. タグ付きトレーサー計算で使用した地球を18の地域に分けた地図。△はスルグート、▲はノボシビルスクを示す。カラーバーは2009年のメタンの年間平均放出量を示す。



結果と考察


 西シベリアの観測地上空のメタン濃度は20年間で明確に上昇しました(図2)。先行研究により、沿岸域の観測点での観測値を全球平均したメタン濃度の挙動は、2000-2006年の期間に上昇が停滞し、その後また上昇していることが報告されています。西シベリアのメタン濃度は変動が大きいのですが、長期的な変動としては同様な停滞と上昇を示しています。ただしこの濃度上昇には高度毎に違いの見られることがわかりました。

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図2. スルグート周辺の各高度で観測されたメタン濃度(ドット)の時系列変化。曲線は長期トレンドライン。×は成層圏の影響を受けたデータで、解析には使用していない。


 スルグート周辺では、観測初期の5年間(1995-1999)の平均で、高度5.5 kmにおける濃度より高度1 kmにおける濃度の方が64 ± 5 ppb高いものでした(図3 (b))。メタンの起源は地表にあるので、低層の方が高くなるのです。この濃度差は2002-2006の平均で46 ± 3 ppb、2009-2013の平均で37 ± 3 ppbとなり、徐々に下がったことが明らかになりました。高度5.5 kmにおいても高度1 kmにおいても濃度上昇は起こりましたが、その程度が違ったことを表しています。高度5.5 kmのメタン濃度を他の高度と比較しても、時間とともに全体的に上下の差が小さくなっています(図4 (a))。

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図3. (a) タグ付きトレーサー計算によるスルグート上空(高度5.5 kmと1.0 km)にヨーロッパと西シベリア(WSL)から輸送されたメタンガスの月平均値の時系列変化。各領域の初めの5.5 kmの値でオフセットをかけた。(b) 観測による高度5.5 kmと1 kmのメタン濃度の差のステップグラフ。ダッシュ線は1995-1999、2002-2006、2009-2013の平均値。エリアチャートはヨーロッパ(ピンク)と西シベリア(水色)から計算された鉛直差。赤線と青線は2002-2006、2009-2013のヨーロッパと西シベリアの平均値。


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図4. (a) スルグート周辺のメタン濃度の平均的な鉛直分布。1995-1999、2002-2006、2009-2013の期間で平均した値を高度5.5 kmの平均値でオフセットした。黒塗りは観測値、白抜きはモデル計算値。(b) タグ付きトレーサー計算で求められたヨーロッパ((c) 西シベリア;(d) 北部北アメリカ)から輸送されたメタンの平均的な鉛直分布。


当初この上下差の減少は、観測地のある西シベリア(Region 5)から放出されるメタンの量が長期的に減少したためと予想しましたが、2001年以降のタグ付きトレーサー計算によると、これはヨーロッパ(Region 2)起源のメタンの長期的な変化が高層と低層で違うためでした。ヨーロッパで放出されたメタンは、西シベリアの高層にも低層にも輸送されますが、どちらも減少していました(図5)。元々ヨーロッパからは低層により多くのメタンが輸送されてきており、その減少量も高層よりも低層で大きくなっていました(図3 (a), 図4(b))。先行研究や統計値(EDGAR42FT, 2014)では、ヨーロッパでの人間活動によるメタン放出が2000年代から減少したことが報告されています。本観測では、この減少の影響を捉えたものと考えられます。

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図5. タグ付きトレーサー計算によるスルグート上空(高度5.5 kmと高度1.0 km)に各領域から輸送されたメタンガスの長期トレンドライン。各データは計算開始時のデータでオフセットをかけた。灰色のシェードは誤差。



今後の課題や展望


 西シベリアの湿地や化石燃料の産出に伴うメタン放出量の増減を明らかにすることは、重要なテーマの一つです。その変動は、より低層の大気に影響が見られると予想され、実際低層で観測されたメタン濃度の方が濃度も高くばらつきも大きくなっています(図2)。しかしこの観測結果からその放出量の増減を見積もることは非常に難しい課題です。タグ付きトレーサー計算の結果も、西シベリア(Region 5)からのメタンの変動には大きな誤差を含み、長期的な傾向を述べることはできません(図5)。観測値とモデルによる計算結果は誤差の範囲でよく一致はするのですが、夏季に差がやや大きくなる傾向がありました。モデルで使用した湿地からの放出過程・放出量が現実とはやや異なることを示唆しています。今後この部分の改良が進めば、西シベリア起源のメタンの詳細な挙動も捉えられると考えています。

 また2000年以降のヨーロッパのように、メタンの放出量に継続的で大きな変化が起こった地域に近い場所で、同じように鉛直的な観測を続けると、その影響を捉えられる可能性があります。例えば中国や東南アジアなど、放出量が増大している地域の風下で長期的な観測ができれば、鉛直的な差異は大きくなり、その程度から実際の放出量変化を推定できるかもしれません。



発表論文


Sasakawa, M., Machida, T., Ishijima, K., Arshinov, M., Patra, P. K., Ito, A., Aoki, S. & Petrov, V. (2017). Temporal characteristics of CH4 vertical profiles observed in the West Siberian Lowland over Surgut from 1993 to 2015 and Novosibirsk from 1997 to 2015. Journal of Geophysical Research: Atmospheres, 122. https://doi.org/10.1002/2017JD026836



参考文献など


EDGAR42FT (2014), European Commission, Joint Research Centre (JRC)/Netherlands Environmental Assessment Agency (PBL). Emission Database for Global Atmospheric Research (EDGAR), release EDGARv4.2 FT2012, http://edgar.jrc.ec.europa.eu.
Patra, P. K., T. Saeki, E. J. Dlugokencky, K. Ishijima, T. Umezawa, A. Ito, S. Aoki, S. Morimoto, E. A. Kort, and A. Crotwell (2016), Regional methane emission estimation based on observed atmospheric concentrations (2002-2012), J. Meteor. Soc. Japan, 94, doi:10.2151/jmsj.2016-006.



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科 大気海洋変動観測研究センター
教授 青木 周司(あおき しゅうじ)
電話:022-795-5792
E-mail:aoki[at]m.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022−795−5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
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