東北大学 大学院理学研究科・理学部

トップ > お知らせ

NEWSお知らせ

プレート境界からの「水漏れ」が深部低周波地震を抑制?

要点


・ 沈み込みプレート境界で起きるゆっくり地震の発生には高い流体圧が必要だが、それを上昇させるメカニズムは未解明だった。

・ 深部低周波地震が発生していない領域ではプレート境界から上部(上盤側)へ水が漏れていたことが明らかになった。

・ プレート境界からの「水漏れ」と深部低周波地震発生との関係は水が地震発生に深く関与していることを示唆。


概要


 東京工業大学理学院の中島淳一教授、東北大学理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センターの長谷川昭客員研究者/名誉教授は、西南日本において高精度の地震波形解析を行い、フィリピン海プレート境界での深部低周波地震の発生はプレート境界からの「水漏れ」と関係していることを明らかにしました。プレート境界で発生する巨大地震やゆっくり地震の発生に水が深く関与していることを示しており、プレート境界でのすべり過程を理解するための重要な成果です。この研究成果は、12月19日の英国科学誌Nature Communications(オンライン版)に掲載されました。

□ 東北大学プレスリリース本文


背景


 1990年代初めまでは、沈み込みプレート境界は、普段は固着しており地震としてすべるか、または普段からずるずると安定的にすべっている領域にわけられると考えられていました。しかし2000年代に入ると、普通の地震よりも少しだけゆっくりとすべる低周波地震(注1)が世界の沈み込み帯で相次いで報告されました。プレート境界巨大地震震源域の深部で発生する低周波地震は深部低周波地震と呼ばれ、大きな振幅の地震波の通過や地球潮汐などの小さな応力変化(注2)にも敏感に応答して誘発されることもわかっています。これは深部低周波地震の発生域のプレート境界は「強度が弱い断層」であることを示唆しています。プレート境界を弱くする原因としては高い流体圧が考えられますが、プレート境界の流体圧を上昇させるメカニズムはよくわかっていません。


研究の経緯


 西南日本では、フィリピン海プレートが沈み込み、1944年の東南海地震や1946年の南海地震のようなプレート境界巨大地震が過去に何度も発生し、大きな被害がもたらされてきました。これら巨大地震の震源域深部の深さ30 km付近では、東海地方から豊後水道にかけて深部低周波地震が帯状に発生しています(図1)。深部低周波地震の発生により巨大地震震源域の断層破壊が促進される可能性が指摘されていることから、深部低周波地震の発生場の理解はプレート境界でのすべり過程を解明するために極めて重要です。
 そこで本研究では、世界で最も稠密な地震観測網が構築されている西南日本を対象に、深部低周波地震の発生域と非発生域で地下構造を高精度に推定し、プレート境界での水の挙動を観測から明らかにすることを目指しました。



研究成果


 関東から九州までの1000 kmにわたる帯状の領域において、地震波不均質構造の空間変化を明らかにしました。その結果、深部低周波地震が発生している領域ではプレート境界の上部の岩石が平均的な地震波速度を示す一方で、深部低周波地震が発生していない、関東、伊勢湾、紀伊水道、九州ではプレート境界の上部の岩石の地震波速度が平均よりも4%以上遅く、P波速度とS波速度の比(Vp/Vs比)(注3)は1.80以上か1.70以下の値を示すことが明らかになりました(図2)。
 関東、伊勢湾、紀伊水道、九州で観測された地震波速度の値は、上部の岩石が水による変成作用を受けていること、つまりプレート境界から水が漏れていることを示唆しています。水漏れにより流体圧が低くなるとプレート境界の強度が大きくなるため、そこでは深部低周波地震が発生しないと考えられます。プレート境界から漏れた水は上部の地震の原因にもなります(図3)。水漏れが起こらない場合、流体圧が上昇しプレート境界は「弱い断層」になります。すなわち、深部低周波地震の発生に必要な条件が整います。本研究で提案した新しいモデルでは、プレート境界の流体圧は上部の変成度合いと逆の相関を示すことが期待されます。



今後の展開


 巨大地震発生域のプレート境界での流体圧を測ることは現状では困難です。しかし、本研究の成果はプレート境界の上部の構造変化を丹念に調査すれば、プレート境界での流体圧の空間変化を知ることができる可能性を示しています。プレート境界の破壊強度の空間変化や沈み込み帯の水循環の理解が進むと期待されます。

20161209_10.png
図1. 西南日本の深部低周波地震の分布(赤点)と1944年の東南海地震、1946年の南海地震の震源域(緑領域)。

20161209_20.png
図2. 図1の青枠で囲まれた領域(長さ1000 km)におけるP波速度(上)、Vp/Vs比(下)分布。フィリピン海プレート境界から1~4 km浅部の値を示す。深部低周波地震の非発生域ではP波速度が遅く、Vp/Vs比が1.80以上か1.70以下となっている。

20161209_30.png
図3. 深部低周波地震の発生域(a)と非発生域(b)における水の挙動の模式図。



用語解説


(注1)低周波地震
普通の地震(振動周波数は~10 Hz)に比べて振動周波数が低い地震(1~4 Hz程度)。世界の多くの沈み込みプレート境界やアメリカのサンアンドレアス断層、ニュージーランドのアルパイン断層などで見つかっています。低周波地震のうち比較的深い場所(深さ30 km程度)で発生するものを深部低周波地震と呼びます。

(注2)応力変化
深部低周波地震が発生する地下30 kmのプレート境界には約1万気圧の圧力がかかっていますが、地震波の通過や地球潮汐(固体地球の変形)などにより0.1~1気圧程度の応力の揺らぎが生じます。このような小さな応力の揺らぎによっても深部低周波地震が誘発されることがあります。

(注3)Vp/Vs比
P波速度(Vp)とS波速度(Vs)の比。地殻や上部マントルの岩石では1.73~1.78程度の値を示すことが知られています。



論文情報


掲載誌: Nature Communications
論文タイトル: Tremor activity inhibited by well-drained conditions above a megathrust
著者: Junichi Nakajima and Akira Hasegawa
DOI : 10.1038/NCOMMS13863



お問い合わせ先


<研究について>
東京工業大学 理学院 地球惑星科学系 教授
中島淳一(なかじま じゅんいち)
E-mail: nakajima[at]geo.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2547 FAX: 03-5734-3537

東北大学理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター
長谷川昭(はせがわ あきら)
E-mail: akira.hasegawa.d8[at]tohoku.ac.jp
TEL: 022-225-1950


<報道について>
東京工業大学 広報センター 
E-mail: media[at]jim.titech.ac.jp
TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661

東北大学大学院理学研究科特任助教
高橋亮(たかはし りょう)
E-mail: sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp
TEL: 022-795-5572、022-795-6708 FAX:022-795-5831

*[at]を@に置き換えてください



お知らせ

FEATURES

先頭へ戻る