東北大学 大学院理学研究科・理学部

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2015年小笠原深発大地震を解剖するー謎が多い深発地震の発生メカニズム解明に向けてー

 東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センターの趙大鵬教授、修士学生の藤澤萌人氏(現:石油資源開発株式会社)、豊国源知助教の共同研究グループは、2015年に小笠原諸島西方沖で発生した深発大地震(Mw 7.9,深さ約670 km)の震源域周辺の地下構造を調査し、この大地震は伊豆・小笠原海溝からマントル深部へとほぼ鉛直に沈み込んだ太平洋プレート(スラブ(注1))内部で発生したことを明らかにしました。さらに、スラブの先端部分は今回の震源域近傍で断裂しており、南北で異なる形状を示していることも発見しました。これらの結果は、謎が多い深発地震の発生メカニズムを明らかにするための重要な手がかりになると考えられます。
 この研究成果は、2017年3月15日に英科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。



論文情報


雑誌名: Scientific Reports
論文タイトル:Tomography of the subducting Pacific slab and the 2015 Bonin deepest earthquake (Mw 7.9)
著者:Dapeng Zhao, Moeto Fujisawa and Genti Toyokuni
DOI番号:10.1038/srep44487



研究内容


 2015年5月30日20時23分に、小笠原諸島西方沖を震源とするMw(モーメントマグニチュード)7.9の地震が発生しました(以下、2015年小笠原深発大地震)(図1)。震源の深さは気象庁による暫定値で682 kmと発表され、日本の地震観測史上、最も深い場所で発生した地震となりました。世界的に見ても、1900年以降に起こったM 7.8以上の地震の中では最深で、極めて特殊な地震といえます。また周辺の地震活動を調べると、今回の地震は、通常地震が数多く発生する領域から100 km以上も深いところで孤立して発生したことがわかりました(図1)。通常の多くの地震は、地下の断層が破壊することで発生します。しかし今回の震源のような地球深部では、圧力や温度が非常に高く、断層の破壊は起きにくいことが知られています。このため、なぜこのように大規模な地震が、このように深い場所で発生したのかが、研究者の関心を集めてきました。

 小笠原諸島の沖では、伊豆・小笠原海溝から太平洋プレートがマントルへと沈み込んでいます。これまでに様々な研究が、沈み込んだプレート(=スラブ)と今回の地震発生との関係を議論してきましたが、震源域周辺の地下構造が精度よく求められていなかったこともあり、一致した見解は得られていませんでした。

 今回、趙大鵬教授の研究グループは、地下構造を画像化する「地震波トモグラフィー法」(注2)を、日本や中国をはじめとする世界中の地震観測点(図2)で得られた大量の地震波伝播時間データに適用することで、2015年小笠原深発大地震の震源域周辺の3次元P波速度構造を詳細に求めました。また得られた構造に基づき、今回の地震の震源も再決定しました。これまでにも小笠原地域を含む広い領域に地震波トモグラフィー法を適用した研究例はありましたが、今回の地震の震源域に特化して、分解能を高める工夫を凝らしたものは本研究が初めてです。

 この結果、以下のことが明らかとなりました。

①  伊豆・小笠原海溝から沈み込んだ太平洋スラブは、地震波速度が顕著に大きい領域として明瞭にイメージングされた(高速度域、図3~図5の青色部分)。その先端は北緯28˚付近で断裂しており、北側ではマントル遷移層(注3)内に横たわっているのに対し(図3)、南側ではマントル遷移層を突き抜けてほぼ鉛直に沈み込み、下部マントルにまで達している(図4)。

②  2015年小笠原深発大地震は、南側の鉛直に沈み込んだ太平洋スラブ内部の、深さ667.2±0.5 kmで発生した。またこの場所は、スラブと周囲のマントルとの東側の境界付近である(図5)。

 本研究で明らかとなった地下構造と震源の位置関係(図6)から、2015年小笠原深発大地震は、太平洋スラブの沈み込みや断裂に伴うひずみの蓄積、スラブ内部での鉱物の相転移、周囲のマントルによるスラブの加熱、といった様々な要因が重なり引き起こされたと推測されます。これは謎が多い深発地震の発生メカニズムを解明し、プレートの沈み込みと地震発生との関連を解き明かしていくための重要な手がかりと考えられます。



参考図


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図1.(a)と(b)は本研究領域。☆は2015年小笠原深発大地震の震源。周辺の他の地震の震源は、深さで色分けした○で示した。(c)~(e)は(b)のA-A'、B-B'、C-C'断面。

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図2.本研究で用いた地震観測点の分布図。

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図3.2015年小笠原深発大地震の震央北側の5断面におけるP波トモグラフィー。赤色から青色に遷移するにつれてP波速度が増す。海溝から沈み込み、マントル遷移層(深さ410~670 kmの黒線で囲まれた領域)に横たわるスラブが明瞭にみられる。

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図4.伊豆・小笠原海溝南側の4断面におけるP波トモグラフィー。断面7(b)が2015年小笠原深発大地震の震源(☆)を通る。スラブはマントル遷移層を突き抜けて下部マントルまで沈み込んでいる。

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図5.2015年小笠原深発大地震の震源(☆)を通るP波トモグラフィーの水平断面(a)と鉛直断面(b)。

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図6.本研究で明らかとなった太平洋スラブの形状と、2015年小笠原深発大地震の震源との関係。



用語解説


(注1)スラブ
海溝などからマントルまで沈み込んだ海洋プレート。


(注2)地震波トモグラフィー法
コンピュータで大量の地震波伝播時間のデータを処理することによって、地球内部の3次元地震波速度分布を求める方法です。その原理は医学のCTスキャンと同じです。地震波トモグラフィーは現在地球内部構造の3次元画像を得る最も有力な手段となっています。


(注3)マントル遷移層
深さ約410 kmから670 kmに分布するマントル物質の相転移層。上部マントルと下部マントルの境界をなしています。



 本研究はJSPS科研費(基盤研究(S) 課題番号23224012)および文科省科研費(課題番号26106005)の支援を受けて行われました。



お問い合わせ先


<研究について>
東北大学大学院理学研究科
地震・噴火予知研究観測センター
教授 趙 大鵬(ちょう たいほう)
電話:022-225-1950
E-mail:zhao[at]tohoku.ac.jp


<報道について>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋亮(たかはし りょう)
電話:022-795-5572、022-795-6708
E-mail: sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください



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