東北大学 大学院理学研究科・理学部

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【研究成果】ブラックホールジェットの謎を解き明かす 〜理論と観測の両輪で進める研究の最前線〜

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ブラックホールジェットのイメージ図(NASA/JPL-Caltech)



概要


 ブラックホールは強い重力で周囲の物質を吸い込む反面、光速の99.99%もの極限的な速度で周囲の物質を噴出させているものがあります。これはジェットと呼ばれ、それがブラックホールによってどう駆動され、どう輝くのかは宇宙物理学における最大の謎の一つとなっています。宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストも、ブラックホールジェットが引き起こすものと考えられています。

 東北大学の當真賢二助教は、ジェットからの光の振動方向の偏り(偏光)が謎の解明につながることに早くから着目し、世界に先駆けて、ジェットからのガンマ線の直線偏光度分布を理論予測し(後述)、それに基づいていくつかの衛星計画を推進させました。その後、実際に偏光が検出され、ジェットの有力な理論モデルを一つに絞り込めることを示しました。また円偏光を初検出した国際チームに加わり、そのデータをもとに、放射領域で電子が極めて非等方であるという新説を提唱しました。

 本研究成果は、世界で新たに複数の偏光観測計画が立てられる契機となり、「高エネルギー偏光天文学」という新しい分野を形成し、学術の発展に大きく寄与すると期待されます。

研究内容


 ブラックホールは、アインシュタインが構築した一般相対性理論が予言する最も強い重力場のことであり、入ってしまうと光さえも出て来られないという領域です。これまでの40年以上の多波長電磁波観測(注1)の結果、宇宙にはブラックホールと考えられる天体が数多く存在することが明らかになってきました。最近では、重力波(注2)の検出により、さらに直接的にブラックホールの存在が証明されました。ブラックホールは周囲の物質をすべて吸い込んでしまうというイメージがあるかもしれませんが、実際はブラックホールの少し外側で重力と遠心力が釣り合った周回運動が可能です。そのような領域では光が逃げ出しており、その光が観測可能です。また他の粒子も同様に高エネルギーを獲得し、遠方まで逃げ出すことが可能です。

 物質がブラックホール周辺から逃げ出す過程の中で最も顕著で不可思議なものが、ジェットです(図1)。これは細く絞られた噴流で、速度がなんと光速の99.99%にも達する場合があります。ブラックホールジェットは、活動的な銀河の中心の巨大ブラックホールに付随していたり、宇宙最大の爆発現象であるガンマ線バーストを引き起こしたりします。しかしジェットがどのようにして駆動され、どのようにして輝くのかについては未だ多くの謎に満ちています。

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図1. ガンマ線バーストの理論の概念図。ブラックホールに物質が落下しているシステムにおいて、なんらかの物理メカニズムでほぼ光速の速度のジェットが噴出します。ガンマ線はジェットから放射されると考えられています。ジェットの外側には衝撃波が形成され、そこから可視光などの残光が放射されると考えられています。


 ブラックホールジェットの研究には、活動銀河中心の巨大ブラックホールが駆動するジェットが銀河進化にどう影響するのか、重力波を放射すると考えられる中性子星(注3)とブラックホール(あるいは二つの中性子星)の合体現象が同時にガンマ線バーストも起こすのか、宇宙最初期に形成された星が引き起こすガンマ線バーストは観測できるか、など興味深い謎が尽きません。そして現在は、理論と観測が両輪となってそれに対する研究が進められており、非常に面白い局面であるといえます。



偏光に着目したジェットの理論研究


 當真賢二助教はジェットの理論研究において、ジェットからの光の振動方向の偏り(偏光)の情報を駆使することを世界に先駆けて行ってきました。その中で世界にインパクトを与えた2つの研究成果について紹介します。當真助教はこれらの成果を評価され、平成29年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞を受賞しました。


[1. ガンマ線の偏光]
 ガンマ線バーストのジェットから観測されるガンマ線は、強度と振動数に特徴を持っており、それを再現するような理論モデルがいくつか提唱されていました。ガンマ線は強度と振動数の他に、偏光の情報を含んでいます。この研究では、ガンマ線の偏光を多く観測することができれば、理論モデルをさらに絞り込めることを理論的に示しました(発表雑誌(1)、図2)。分かりやすくモデルを区別できるということを理論的に示したことで、いくつもの観測研究者ブループがこの図をもとにガンマ線偏光衛星計画を立てました。

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図2. ガンマ線バーストの強度スペクトルを説明する3つのモデル(赤()、緑()、青())について計算した偏光度分布。横軸はガンマ線の典型的なエネルギー、縦軸は偏光度。 (発表雑誌(1))


 その流れで2010年、日本のソーラーセイル実証機「IKAROS」(注4)に搭載された検出器が、世界初のガンマ線偏光観測に成功しました。ガンマ線バーストの観測は3例のみでしたが、當真助教は限られた観測データから、ガンマ線放射機構とジェット駆動機構には磁場が重要であるという結論を導き、他の仮説より有力であることを示しました。この結論は3例のみのデータから導いたものであり、まだ統計的に確固としたものではありませんが、ガンマ線バーストジェットに対して偏光理論と観測から切り口を示した点で独創的であり、意義が大きいと評価されています。さらに多くのガンマ線バーストの偏光を観測する必要があり、現在、大型化したガンマ線偏光検出器の計画がいくつか進められています。



[2. 可視光の偏光]
 ガンマ線バーストについては、近年、ガンマ線だけでなく可視光でも偏光についての研究成果が上がりました。ガンマ線バーストからの偏光はこれまで直線偏光のみが観測されていましたが、2012 年に初めて、円偏光が検出されました。円偏光とは、光の成分のうち、振動の方向が回転するものです。放射源はジェットの外部にできる高エネルギーの衝撃波と考えられます(図3)。しかし當真助教らの過去の理論的研究では、検出できるほどの円偏光が作られるとは全く予想されていませんでした。當真助教は、この観測チームに加わり、データの理論解釈を担当しました。そこで衝撃波において光る電子の運動方向が極めて偏っていればデータを説明しうることを提唱しました(発表雑誌(2))。なぜ電子の運動方向が偏るのかはまだ理論的に説明できておらず、さらに研究を進めていかなければなりません。

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図3. ガンマ線バースト GRB 121024A と GRB 091018 の円偏光度の観測結果。横軸はガンマ線バーストが起こってからの時刻、縦軸は円偏光度。 (発表雑誌(2))




発表雑誌


(1) Toma, K., Sakamoto, T., Zhang, B., Hill, J. E., McConnell, M. L., Bloser, P. F., Yamazaki, R., Ioka, K., & Nakamura, T., "Statistical Properties of Gamma-Ray Burst Polarization", Astrophysical Journal, vol. 698, pp. 1042-1053 (2009)
(2) Wiersema, K., Covino, S., Toma, K., et al., "Circular polarization in the optical afterglow of GRB 121024A", Nature, vol. 509, pp. 201-204 (2014) この研究の一部は日本学術振興会特別研究員SPD研究奨励費(231446)の助成を受けて遂行されました。



用語説明


(注1) 多波長電磁波観測
電磁波すなわち光は様々な波長を持ちえます。波長の長い(あるいは振動数、エネルギーが低い)光から順に電波、赤外線、可視光、紫外線、エックス線、ガンマ線と呼ばれます。現在、天体現象はこれらほとんどすべての光で観測されており、このことを多波長電磁波観測といいます。


(注2) 重力波
荷電粒子が加速度運動すれば電磁波を放射するのと同様に、大きな質量を持つ天体が加速度運動すれば重力波を放射します。これはアインシュタインが一般相対性理論によって予言した時空のさざ波ですが、2015年に初めてアメリカの重力波検出器LIGOが実際に検出に成功しました。


(注3) 中性子星
恒星は核融合燃料を使い果たして自重で潰れると、中心に中性子を主成分とする硬い核を形成します。その後超新星爆発によって外層が吹き飛ぶと、この硬い核は中性子星と呼ばれる天体となります。


(注4) ソーラーセイル実証機「IKAROS」
JAXAが開発した小型ソーラー電力セイル実証機。Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sunの頭文字を取って名付けられています。宇宙空間で薄膜を広げ、太陽光を受けて航行できること、及び薄膜太陽電池で発電できることを世界で初めて実証しました。



お問い合わせ先


東北大学大学院理学研究科天文学専攻
助教 當真 賢二(とうま けんじ)
電話:022-795-6523
E-mail:toma[at]astr.tohoku.ac.jp

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