東北大学 大学院理学研究科・理学部

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中性子星合体からの光は偏りが小さかった 〜宇宙の金の生成現場であることを明るさの観測とは独立に示唆〜

発表のポイント

● 2017年8月17日、きわめて高密度の中性子星同士の星の合体から重力波が検出され、研究グループはそこからの光の振動方向に偏りが小さいことを発見しました。

● このことは光の明るさの観測とは独立した情報として、中性子星の合体によって金やプラチナなどの重い元素が作られたということを示唆します。

● より多くの中性子星合体現象から光の偏りの観測ができれば、合体後の物質の形状やその中での元素生成の進み方や量の解明がさらに進むと期待されます。



概要


 2017年8月17日、欧米の観測グループがきわめて高密度の中性子星同士の合体から重力波を検出しました。世界の約70の観測所がこの1つの天体現象の光の明るさを測定しようとしたなか、東北大学学際科学フロンティア研究所の當真賢二助教らの研究グループは、独自に光の振動方向の偏りを測定する観測を行いました。その結果、中性子星合体から発生する光は偏りが小さいことを明らかにしました。このことは、宇宙のどこで作られたか未だ分かっていない金やプラチナなどの重い元素が中性子星合体で作られていることを示唆しています。また、中性子星合体から発生する光の明るさの測定結果からもこのことが示唆されており、明るさとは全く独立した情報である、今回新たに観測した光の振動方向の偏りの測定によってこの結論が強まったことになります。

 今後、多くの中性子星合体の光の振動方向の偏りの観測ができれば、合体後の物質の形状やその中での元素生成の進み方や量の解明がさらに進むことが期待されます。

□ 東北大学ウェブサイト



詳細な説明


 中性子星は中性子を主成分とするきわめて高密度の星です。このような高密度の星が動くと、その重力によって生じた空間の歪みが波紋のように周囲へ伝わります。この現象は重力波と呼ばれます。2つのブラックホールが合体する際に発生した重力波の検出によって、アメリカの観測チーム(LIGO)が今年のノーベル物理学賞に輝きました。これまで2つの中性子星が合体する際にも、強い重力波が発生することが予測されており、30年以上、重力波検出器の主要なターゲットとなってきました。

 2つの中性子星の合体は、宇宙のどこで作られたのか未だ分かっていない金やプラチナなど重い元素の生成現場の候補としても研究されてきました。その根拠は重力波の観測だけでは得られず、光の観測も必要です。重い元素の生成現場を確定することは、宇宙全体における物質の進化を探る上で重要です。そのため中性子星合体を重力波と光で観測することは長年の宇宙物理学者の夢となってきました。

 2017年8月17日、アメリカのLIGOチームとヨーロッパのVIRGOチームは、地球から約1億3千万光年離れた場所から届いた重力波を検出。波形の分析から2つの中性子星の合体から発生したものと分かりました。

 この検出は興奮とともに全世界に伝えられ、約70もの望遠鏡がこの1つの天体現象を一斉に観測し、その一部の望遠鏡が重力波の発生源からの光を検出することに成功し、明るさの分析を行いました。そのデータは、中性子星の合体が金やプラチナなどの重い元素を生成しているということを示唆するものでした。

 他のチームが光の明るさの観測を行った中、東北大学学際科学フロンティア研究所の當真賢二助教、イタリア国立天文台のStefano Covino、イギリスのレスター大学のKlaas Wiersema、中国の紫金山天文台のYi-Zhong Fanらの研究グループは、唯一、光の振動方向の偏りの観測を行いました。その結果、大きな偏りは検出されず、全体の光量に対する偏った光量の割合は約0.5%以下であるという厳しい制限を与えました。もし金やプラチナなどの重い元素が作られていなければ、電子の散乱が卓越して偏りが検出されると予想されましたが、重い元素が多量にあるとそれらの吸収によって偏りは小さくなります。この結果は、中性子星の合体が重い元素の生成現場であるということと整合的です。

 また、光の振動方向の偏りは、光の明るさとは全く別の情報です。中性子星合体の進み方の理論が未だ完全には確定していない中で、二つの独立した観測情報から同じ結論が示唆されたことは結論を強める意味で非常に重要です。

 中性子星合体の光の振動方向の偏りは、重い元素が合体現象のどの部分で作られ、その部分がどういう形状をしているのかについても知見を与えてくれます。今後、より多くの重力波発生源から光の振動方向の偏りを明るさと合わせて観測することで、重い元素の生成現場の確定、中性子星合体現象の詳細なメカニズムの解明につながることが期待されます。

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図1:大きい丸点は、重力波発生源からの数日ごとの光の振動方向の偏りの度合い(偏光度)と振動方向を表す。他の青点は周囲の星の光のデータを表し、重力波発生源からの光の振動方向が顕著に偏っていないことを示している。

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図2:中性子星合体のグラフィック画像(想像図)。Credit: University of Warwick/Mark Garlick (ESO image)



発表論文


タイトル:The unpolarized macronova associated with the gravitational wave event GW 170817
著者名:S. Covino, K.Wiersema, Y.-Z. Fan, K. Toma, 他36名
掲載誌:Nature Astronomy
doi:10.1038/s41550-017-0285-z
URL:https://www.nature.com/articles/s41550-017-0285-z
掲載日:2017年10月16日 オンライン速報版



問い合わせ先


<研究に関すること>
東北大学 学際科学フロンティア研究所/ 大学院理学研究科
助教 當真 賢二(とうま けんじ)
電話 022-795-6523
E-mail toma[at]astr.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学 学際科学フロンティア研究所
URA 鈴木 一行(すずき かずゆき)
電話 022-794-4353
E-mail suzukik[at]fris.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください



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