東北大学大学院理学研究科地学専攻の小澤信助教(東北大学グローバル安全学トップリーダー育成プログラム)、宮原正明助教(現:広島大学大学院理学研究科・准教授)、大谷栄治教授(地球惑星物性学分野)は、ロシア科学アカデミーシベリア支部ソボレフ地質学鉱物学研究所、同ウラル支部鉱物学研究所、および、ノボシビルスク州立大学との共同研究として、2013年2月にロシア・チェリャビンスク州に落下した隕石から、天体衝突に伴う超高圧・高温条件の下で生成したヒスイ輝石(NaAlSi2O6)(図1)(※2)を世界で初めて発見しました。
地球や隕石を構成する主な鉱物の一つに、斜長石(※3)があります。惑星内部や天体衝突のような超高圧・高温条件において、ナトリウムに富む斜長石(NaAlSi3O8)はヒスイ輝石(NaAlSi2O6)とシリカ(SiO2)相に分解することが知られています(図2)。また、超高圧・高温下で溶融した斜長石を冷却すると、ヒスイ輝石が結晶化することも実験的に明らかになっています(図2)。チェリャビンスク隕石は、その内部に至るまで溶融した部分を多く含むことから、地球に落下する前に大規模な天体衝突を経験したと推測されていました。しかしながら、その明確な証拠についてはこれまで示されていませんでした。今回、我々は、チェリャビンスク隕石の衝撃溶融脈(天体衝突によって隕石の一部が脈状に溶融した部分)の内部を電子顕微鏡で詳しく調べ、斜長石からヒスイ輝石が生成している様子を世界で初めて明らかにしました。ヒスイ輝石の存在と衝撃溶融脈の冷却速度等の計算を考慮すると、チェリャビンスク隕石の母天体に大きさ0.15~0.19 kmの天体が、少なくとも0.4~1.5 km/sの速度で衝突し、その際に少なくとも3~12万気圧の超高圧が発生したと推測されます。この研究成果は、"Nature Publishing Group"が発行する電子ジャーナル"Scientific Reports"に5月22日(現地時間)に掲載され、同時に、Nature Publishing Groupからハイライト論文としてプレスリリースされました。
発表論文
Ozawa, S., Miyahara, M., Ohtani, E., Koroleva, O. N., Ito, Y., Litasov, K. D., & Pokhilenko, N. P. Jadeite in Chelyabinsk meteorite and the nature of an impact event on its parent body. Scientific Reports 4, 5033; DOI:10.1038/srep05033 (2014).
図1 チェリャビンスク隕石から発見されたヒスイ輝石
チェリャビンスク隕石の電子顕微鏡写真。(左)衝撃溶融脈内部。黒色の部分が溶融した斜長石。(右)溶融した斜長石からヒスイ輝石(Jd)が結晶化している。ヒスイ輝石の周りの部分は、急冷固化して非晶質(ガラス)になっている(Gl)。
地球近傍天体と天体衝突
チェリャビンスク隕石のように、地球の近傍を通る軌道を持つ天体は地球近傍天体と呼ばれています。地球近傍天体は、将来地球に衝突する可能性があるため、その観測と軌道計算が世界規模で行われています。これらの天体は、もともと火星と木星の間にある小惑星帯に存在していたものが、何らかの作用により地球に接近する軌道を持つようになったものと考えられています。その要因の一つとして、他天体との衝突が挙げられます。チェリャビンスク隕石は、高温に晒され溶融した部分を多く含むことから、地球に衝突する以前に大規模な天体衝突を経験したと推測されていました。しかしながら、その明確な証拠はこれまで示されていませんでした。
斜長石からのヒスイ輝石の生成
ナトリウムに富む斜長石(NaAlSi3O8)は、超高圧・高温下においてヒスイ輝石(NaAlSi2O6)とシリカ(SiO2)相に分解することが実験的に知られています(図2)。また、超高圧・高温下で溶融した斜長石を冷却すると、ヒスイ輝石が結晶化することも実験的に明らかになっています(図2)。超高圧・高温が発生した地球上のクレーターの岩石や天体衝突を経験した他の隕石からは、このような反応で生成したと考えられるヒスイ輝石が発見されています。この分解反応は3~12万気圧で起きることが分かっており、チェリャビンスク隕石からヒスイ輝石が発見されたことにより、衝突によって発生した圧力が少なくとも3~12万気圧であることが分かりました。
図2 斜長石とカンラン石の相平衡図(※4,5)
ナトリウムに富む斜長石(NaAlSi3O8: 青色)とカンラン石((Mg0.71,Fe0.29)2SiO4: 緑色)の相平衡図。高温高圧下において、斜長石(Ab)は、ヒスイ輝石(Jd)とシリカ相(石英: Qz, コーサイト: Coe, あるいは、スティショバイト: Sti)という組み合わせに分解する。また、超高圧・高温下で溶融した斜長石を冷却すると、ヒスイ輝石が結晶化する(Jd + Lの領域)。一方、カンラン石(Ol)は、リングウッダイト(Rwd)やウォズレアイト(Wds)(※6)という鉱物に変化する。チェリャビンスク隕石からは、ヒスイ輝石は確認されたが、リングウッダイト(Rwd)やウォズレアイト(Wds)は確認できていないため、圧力条件は3~12万気圧と推測される(赤色の領域)。
地球近傍天体の起源や軌道の進化を調べることは、将来起こりうる天体衝突の予測に重要です。チェリャビンスク隕石については、地球衝突の際の軌跡が良く記録されており、軌道計算が精確になされることが期待されます。今回推定された衝突イベントを組み込んだ数値計算を行うことにより、チェリャビンスク隕石がどのような軌道進化を辿ったのか、推測できる可能性があります。
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■ 報道 ■
▪ 5月24日付河北新報
※1 高圧鉱物
天然に産する固体物質で、ほぼ均一の化学組成と結晶構造(原子の並び方)をもつものを鉱物と呼びます。鉱物は、周りの環境(圧力や温度)に応じてその結晶構造を変化させます。私達が暮らしている地表の圧力(1気圧)よりも高い圧力で安定に存在する鉱物を、高圧鉱物と呼んでいます。
※2 ヒスイ輝石
鉱物の一種で、純粋な物の化学組成は、NaAlSi2O6です。化学組成の違いに応じて、白色、緑色などを示します。宝石として珍重されるヒスイのうち、「硬玉」を構成する主な物質です。地球上では、主に変成岩(ある岩石が、地下の高圧・高温の環境に晒されることにより変化したもの)の中に認められます。
※3 斜長石
地球や隕石を構成する最も主要な鉱物の一つです。化学組成は、曹長石(NaAlSi3O8)と灰長石(CaAl2Si2O8)の間で連続的に変化します。
※4 カンラン石
地球や隕石を構成する最も主要な鉱物の一つです。化学組成は、苦土カンラン石(Mg2SiO4)と鉄カンラン石(Fe2SiO4)の間で連続的に変化します。緑色の苦土カンラン石で特に美しいものは、ペリドットと呼ばれ宝石として扱われます。
※5 相平衡図
一般的には、ある化学組成を持つ物質について、圧力・温度条件に応じてどのような相が安定となるかを図示したものです。
※6 ウォズレアイト、リングウッダイト
カンラン石の化学組成を持ち、高圧・高温下で安定に存在する高圧鉱物です。地球内部では、深さおよそ410 kmから660 kmの間にあるマントル遷移層と呼ばれる領域に存在していると考えられています。
【お問い合わせ先】
東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物性学研究室
助教 小澤信 TEL:022-795-6687 E-mail:shin.ozawa*m.tohoku.ac.jp
教授 大谷栄治 TEL:022-795-6662 E-mail:ohtani*m.tohoku.ac.jp
同研究室秘書 高橋陽子 TEL:022-795-6662 E-mail:ytaka*m.tohoku.ac.jp