東北大学 大学院理学研究科・理学部

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【プレスリリース】2011年東北地方太平洋沖地震以降の日本海溝に沈み込む直前の太平洋プレート速度の実測に世界で初めて成功

 東北大学災害科学国際研究所の木戸元之教授、東北大学大学院理学研究科の日野亮太教授、太田雄策准教授、大学院生の富田史章、国立研究開発法人海洋研究開発機構の飯沼卓史研究員らの研究グループは、2011年東北地方太平洋沖地震以降の日本海溝に沈み込む直前の太平洋プレートの速度を海底地殻変動観測技術 (GPS-音響結合方式) を用いて実測することに世界で初めて成功しました。得られた変位速度は、従来のプレート運動モデルの値と比較し、約2倍程度大きな値と求まりました。一方で、この変位速度の増大は、東北地方太平洋沖地震後の余効変動 (粘弾性緩和) でほぼ説明が可能であり、日本列島の属する陸側のプレートに対する剛体運動としてのプレート相対運動速度の増加を必要としないことを明らかにしました。本研究は、プレート境界型の超巨大地震発生後に、プレートの沈み込みがどのように継続しているのかを初めて明らかにするものであり、その成果は今後の地震発生予測に貢献するものです。
 この研究成果は、2015年10月29日に米国の科学雑誌 「Geophysical Research Letters」 電子版に掲載されました。

□ 東北大学プレスリリース本文


概要


 プレート境界型巨大地震の発生にともなって、沈み込む海洋プレートの剛体運動としての速度が一時的に増大する可能性が先行研究で指摘されていましたが、海域における精密測地観測の困難性から、沈み込むプレート速度の実測はこれまで実現していませんでした。本研究では宮城県沖の日本海溝よりも東側の、沈み込みを開始する前の太平洋プレート上に基準点を設置し、その位置をGPS−音響結合方式海底地殻変動観測技術によって繰り返し測定しました。2012年9月から2014年9月の間に行った測定の結果、基準点は年間18.0±4.5cmの速度で北西方向に移動していることが明らかになりました。これは、基準点の位置における定常的なプレート速度 (年間8.3cm) の約2倍に相当しますが、定常的なプレート運動に加えて、東北地方太平洋沖地震が原因となって生じているプレート内の変形 (粘弾性緩和) が生じていることを考慮することで説明されます。したがって、少なくとも観測期間中の宮城県沖の領域では、剛体運動としてのプレート運動速度の増大は顕著でないと結論されます。本研究は、プレート境界型地震発生の原動力である海洋プレートの運動の実態を明らかにするものであり、その成果は東北地方太平洋沖地震後の日本海溝周辺での地震発生予測の高度化に貢献するものと期待されます。


背景


 2011年に発生した東北地方太平洋沖地震は、プレート境界で発生した超巨大地震でした。このような超巨大地震が発生すると、一時的にプレート間の力のバランスが崩れ、その結果として、海洋性プレートの沈み込む速度が増大する可能性が先行研究 (Heki and Mitsui, EPSL, 2013) によって指摘されていました。仮にこうしたプレート沈み込み速度の加速が生じると、プレート境界断層でひずみが蓄積する速さも増大する可能性があり、周辺地域における大地震の発生を促進する要因になることが懸念されていました。この仮説を直接検証するためには、沈み込む太平洋プレート上での地殻変動観測が必要となります。東北大学災害科学国際研究所、東北大学大学院理学研究科ではこれまで、東北地方太平洋沖地震後の地殻変動を詳細に調べるために東北沖の海底に測量基準点を設置し、GPS−音響結合方式による海底地殻変動観測を実施してきました。そうした基準点のうちの1点は沈み込む太平洋プレート上に設置され、2012年9月以降、5回の観測が行われてきました。


方法


陸上の地殻変動観測にはカーナビゲーションなどにも用いられるGPSなどの衛星システムを用いた測位技術が応用されていますが、GPS衛星の電波が届かない海底での観測には用いることができません。本学は、海底にある基準点の位置を音波によって測量するとともに、測量に用いた船 (またはブイ) の位置をGPS衛星によって決定することで、海底基準点の位置を精密に決定する技術 (GPS−音響結合方式 海底地殻変動観測) を開発してきました (図1)。こうした技術を用い、太平洋プレート上の基準点 (G01観測点) において繰り返し観測を行うことで、その変位速度を推定しました。


内容


 2012年9月から2014年9月までのデータを用いて推定されたG01観測点における北米プレートに対する速度は、北西向きに年間18.0±4.5cmとなりました (図2)。この結果は、グローバルなプレート運動モデル (MORVELモデル) による定常的な変位速度 (年間8.3cm) の約2倍に相当します。2011年に発生した東北地方太平洋沖地震後には、日本列島全域で大規模な地殻変動(余効変動)が観測されていて、G01観測点もそうした余効変動の影響を受けていると考えられます。余効変動にはプレート境界断層がゆっくりとすべる余効すべりや、震源域下深部のマントルが粘性を持つために生じる粘弾性緩和など複数の要因が考えられますが、太平洋プレート上の観測点では、粘弾性緩和の影響が特に大きく、これを主要因として考慮する必要があります。そこで、本学との共同研究の成果である3次元有限要素法を用いた粘弾性緩和シミュレーション (Sun et al., Nature, 2014) により、G01観測点における粘弾性緩和の影響を計算したところ (図3)、G01観測点で観測された変位速度が、定常的なプレート運動と粘弾性緩和の影響とを足し合わせることでほぼ説明できることが明らかになりました。このように、東北地方太平洋沖地震後の太平洋プレート上での変位速度が初めて実測されたわけですが,その主要因は剛体運動としてのプレート運動速度の増大よりは,むしろ,粘弾性緩和の効果であることが明らかとなりました。


本研究の意義・今後の展開


 本研究では、海底地殻変動観測技術を駆使することによって、プレート境界型の巨大地震発生後に、プレートの沈み込みがどのように継続しているのかを定量的に明らかにしました。この成果はこの地域における今後のひずみ蓄積過程の理解のために重要な知見を与えるものであり、長期的な地震発生予測にも貢献するものであると期待されます。一方で、今回の成果は宮城県沖の太平洋プレート上1点の結果であり、北海道から関東地方の沖合にいたる広い海域において、東北地方太平洋沖地震がプレート沈み込みにどのように影響を及ぼしたのかを正確に把握することはできていません。このような観測の空白域において今後新たに観測を実施することが、超巨大地震発生後のプレート境界域におけるひずみ蓄積過程を理解する上では、きわめて重要であると考えられます。


研究助成資金等


・ 地震及び火山噴火予知のための観測研究計画(文部科学省)(平成21~25年度)

・ 科学技術試験研究委託事業「海底地殻変動観測技術の高度化」(文部科学省) (平成22~25年度)

・ 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(内閣府(管理法人: 国立研究開発法人 科学技術振興機構))



掲載論文名


著者:Fumiaki Tomita1, Motoyuki Kido2, Yukihito Osada2*, Ryota Hino1, Yusaku Ohta1 and Takeshi Iinuma2#
1: 東北大学大学院理学研究科, 2:東北大学災害科学国際研究所
*現在、測位衛星技術株式会社, #現在、国立研究開発法人海洋研究開発機構
論文題目: First measurement of the displacement rate of the Pacific Plate near the Japan Trench after the 2011 Tohoku-Oki earthquake using GPS/acoustic technique
掲載雑誌: Geophysical Research Letters


参考図

20151112_10.png 図1 GPS−音響結合方式による海底地殻変動観測の方法。GPS測位と海中音波をつかった測位を組み合わせることで、海底基準局の動きを測定することができる。


20151112_20.png 図2 2012年9月から2014年9月までの間に観測されたデータにもとづく太平洋プレート上のG01観測点における変位速度 (赤矢印,単位:年間あたりの速度) とグローバルなプレートモデルから期待される定常的なプレート沈み込み速度(黒矢印:年間あたりの速度)。どちらも北米プレートに対する変位を示す。赤色の等値線 (単位:m) は、2011年東北地方太平洋沖地震の地震時すべり分布を示す。黄色四角はGPS解析時の陸上基準点。

20151112_30.png 図3 2012年9月から2014年9月までの間に観測されたデータにもとづく太平洋プレート上のG01観測点における水平変位速度 (赤矢印) グローバルなプレートモデルから期待される定常的なプレート沈み込み速度 (灰色矢印)および2011年東北地方太平洋沖地震後の余効変動 (粘弾性緩和) による変位速度 (青矢印)。定常的なプレート沈み込み速度と粘弾性緩和による変位を足し合わせた結果を緑矢印で示す。


お問い合わせ先


東北大学災害科学国際研究所
教授 木戸 元之
電話番号:022-752-2063
Eメール:kido[at]irides.tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究科
教授 日野 亮太
電話番号:022-225-1950
Eメール:hino[at]m.tohoku.ac.jp

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