東北大学 大学院理学研究科・理学部

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被災牛の歯から放射性ストロンチウム ~歯に残された放射能汚染の記録~

概要


 放射性ストロンチウム(Sr-90)は、歯の形成期に歯の中に取り込まれ、そのまま代謝されることなく歯の中に留まることが知られています。今回の原発事故に関連してセシウムやヨウ素に関する報告は多くなされていますが、体内への蓄積性が高いSr-90に関する報告は、測定法の難しさもあり、ごく限られたものでした。東北大学歯学研究科、理学研究科、加齢医学研究所等からなる共同研究グループでは、福島第一原発事故の後、旧警戒区域に放たれたウシの歯を収集し、それらの歯に含まれるSr-90の量を測定し評価してきました。
 図1にはカルシウム1グラムあたりのSr-90の放射能量を示します。左から汚染の比較的高い地域(図a)、低い地域(図b)、汚染のなかった地域(図c)からのウシ、それぞれ2頭のデータです。図cのウシの歯からは検出される由来のSr-90の値と比べ、図aとbのウシの値は明らかに高い値を示しています。このことは、福島原発事故により放出されたSr-90を動物の体内から初めて検出したことを示します。汚染の高い地域(図a)では、汚染の低い地域(図b)と比べると、全体に高い値を示しています。つまり、歯の中の放射能量は環境中の汚染の程度を反映する事が分かりました。また、原発事故前に形成した歯(乳臼歯:DM)の値は、事故後の歯(大臼歯:M、小臼歯:P)より低くなっています。このことは、Sr-90の主な取り込み時期が歯の形成期と一致することを示しています。
 これらの成果や研究手法はヒトに応用することも可能であるため、現在、福島県の子供さんたちから、4,000本を超える乳歯(自然脱落や治療による抜去歯)の提供を受けそれらの分析を継続中です。

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図1:歯のSr-90放射能濃度(ウシ捕獲地の空間線量率、歯の種類による違い)

□ 東北大学プレスリリース本文


詳細な説明


 福島第一原子力発電所事故旧警戒区域内に残された被災牛の歯の中から、福島原発事故により放出されたSr-90を初めて検出しました。歯はストロンチウムを形成時に取り込み、それを歯の中にそのまま保持し続けます。この点は、代謝のある他の臓器とは大きく異なります。このため、歯の中には過去に動物が体内に取り込んだSr-90の記録が残ります。本研究では、年齢の違う8頭の牛から9本の歯をそれぞれ採取し測定を行い、原発事故以降に形成された歯のSr-90濃度が、事故前と比べて高くなっていることを見出しました。このことから、歯の中のSr-90の放射能量から個体の内部被ばく線量を評価する手がかりが得られることが分かりました。原発事故により、環境中に存在する安定ストロンチウムにSr-90が加わったため、環境中のSr-90と安定ストロンチウムの比(比放射能値)は、Sr-90が降下した場所と事故からの経過時間により異なります。本研究から、歯の中の比放射能値は、ウシの採取場所と時期、年齢、歯の形成段階により異なることが分かりました。したがって、歯の比放射能値を測定することにより、環境中の放射能汚染の時間経過、体内に取り込まれたSr-90の総量を過去にまで遡って推定し、内部被ばく線量を評価できる可能性があることが示されました。
 本研究の成果は平成28年4月6日付けで、Scientific Reports 誌に掲載されました。


論文情報


Kazuma Koarai, Yasushi Kino, Atsushi Takahashi, Toshihiko Suzuki, Yoshinaka Shimizu, Mirei Chiba, Ken Osaka, Keiichi Sasaki, Tomokazu Fukuda, Emiko Isogai, Hideaki Yamashiro, Toshitaka Oka, Tsutomu Sekine, Manabu Fukumoto, Hisashi Shinoda
"90Sr in teeth of cattle abandoned in evacuation zone: Record of pollution from the Fukushima-Daiichi Nuclear Power Plant accident"
Scientific Reports, 6, 24077 (2016) (DOI: 10.1038/srep24077).


お問い合わせ先


東北大学大学院歯学研究科 環境歯学研究センター
教授、研究科長 佐々木 啓一(ささき けいいち)
電話番号:022-717-8275
Eメール:shinoda-h[at]m.tohoku.ac.jp

東北大学大学院理学研究化学専攻
准教授 木野 康志(きの やすし)
電話番号:022-795-6596
Eメール:y.k[at]m.tohoku.ac.jp

東北大学高度教養教育・学生支援機構
教授 関根 勉(せきね つとむ)
電話番号:022-795-7667
Eメール:tsekine[at]m.tohoku.ac.jp

東北大学加齢医学研究所 病態臓器構築研究分野
客員教授 福本 学(ふくもと まなぶ)
電話番号:022-717-8507
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