東北大学 大学院理学研究科・理学部

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【研究成果】心の性を決める分子スイッチ 〜ハエの脳の性差〜

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図1. 染色体の写真の上で交尾するキイロショウジョウバエの雌雄 (伊藤弘樹原図)



概要


 多くの生物は、雌雄がつがいをつくり、子をもうけます。雌と雄はそれぞれ違った役割を持ち、それにふさわしい行動をとりますが、その性差はなぜ生まれるのでしょうか。山元研究室の伊藤らは、行動を司る脳の遺伝子に、性差を作り出す秘密の暗号を発見しました。


研究内容


 ヒトの脳と同様、ハエの脳にも性差があり、その違いは一個一個の脳細胞(ニューロン)の数やかたちの差に根差しています。たとえば、ある脳細胞のグループは、雌では脳の片側だけに突起を伸ばしますが、雄では両側に突起を持ちます。今回の研究から、雌では突起妨害遺伝子注1が働いていること、雄ではこの遺伝子に男性化作用を持つFruというタンパク質注2がくっ付くことでその遺伝子の邪魔をし、その結果、突起ができてくることを発見しました。この暗号を壊された雄は雌の形をしたニューロンを持ち、求愛の仕草もおかしくなってしまいます。男性化タンパク質は、16文字の遺伝子暗号注3を見つけてそこにくっ付くのです。この16文字こそ、雌雄に脳の性差をつくる秘密の暗号というわけです。


発表雑誌


 Ito, H., Sato, K., Kondo, S., Ueda, R. and Yamamoto, D. (2016) Fruitless represses robo1 transcription to shape male-specific neural morphology and behavior in Drosophila. Current Biology 26, 1532-1542.
「ショウジョウバエのFruitlessタンパク質はrobo1遺伝子の転写を抑制することによって雄特異的なニューロンの形態と行動とを作り出す」


参考図

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図2. mALと呼ばれる性差を示すニューロン。左が雌、右が雄。(伊藤弘樹原図)


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図3. 脳に性差をつくる詳しい仕組みの概念図 (伊藤弘樹原図)


用語解説


(注1) 突起妨害遺伝子
ロボ1と言う名前のタンパク質をつくる遺伝子。ロボ1タンパク質はヒトにもあり、細胞の表面から木の枝のように突き出ていて、隣の細胞の表面にある相方のタンパク質(スリットという名のタンパク質)を見つけると、自分の属する細胞に突起を出すのをやめるよう指示する働きがあります。

(注2) 男性化タンパク質、Fru
Fruitless(フルートレス)という名のタンパク質で、雄の脳細胞に含まれ、雌の脳細胞には存在しません。Fruタンパク質を細胞が持っているとその細胞は雄の特徴を示すようになります。

(注3) 16文字の遺伝子暗号
遺伝子は4種の塩基、A、T、G、Cの組み合わせからなる情報です。今回発見した雌雄を分かつ暗号は、T T C G C T G C G C C G T G A Aです。AとG、CとGは対をつくるので、この配列は両端から読むとそれぞれが対をつくる組み合わせになっています。これを回文構造、といいます。


お問い合わせ先


東北大学理学部/大学院生命科学研究科
脳機能遺伝分野
教授 山元大輔(やまもと だいすけ)
電話:022-217-6218
E-mail:daichan[at]m.tohoku.ac.jp
*[at]を@に置き換えてください


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