東北大学 大学院理学研究科・理学部

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【研究成果】高温適応に関わる遺伝群の特定〜異なる温度環境に生息する3種のアノールトカゲを用いて〜

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図1. キューバで異なる温度環境に生息する3種のアノールトカゲ



概要


 トカゲなどの外温性脊椎動物は高温側への適応進化が制限されていることから、温暖化によって、トカゲの約20%が絶滅すると予測されています。そのためにトカゲ類の温度適応進化機構を解明することは、多くの外温性動物の保全に重要です。キューバには、65種のアノールトカゲが生息し、幹・枝先・樹冠・草地といった生息地構造に分かれて生息するだけでなく、森林内部(低温)、林縁部(中温)、 開放環境(高温)という異なる温度環境に適応分化することで共存しています(図1)。本研究では、それら異なる温度環境に生息する3種のアノールトカゲを用いて、網羅的遺伝子発現量解析を行いました。その結果、活動時間帯と温度耐性の両方に影響する遺伝子が、低温環境から高温環境への進化に関係している可能性を示唆しました。



研究内容


 トカゲなどの外温性脊椎動物は、高温側への適応進化に制限があるといわれており、温暖化が止められない場合、2080年までに4900種いるトカゲのうち20%が絶滅すると予測されています。低温環境から高温環境へ適応進化したトカゲを対象とすることで、どのような機構が高温側への適応を可能にするのかを明らかにすることができると考えられます。
 カリブ海の島々に生息するアノールトカゲは幹・枝先・樹冠・草地などの生息地構造に異なる行動・形態(図2) を進化させて多様化するという適応放散進化のモデル生物として、ダーウィンフィンチと並んで注目されてきました。また、同じ幹に生息するトカゲ(Trunk Groundと呼ばれるエコモルフ、図2)の中でも、異なる温度環境へ適応分化することで、さらに多くの種が共存することが可能になっています。キューバでは、幹から地面という同じ樹の部位に生息するアノールトカゲにおいて、森林内はアノリル・アル ロガス(A. allogus)、林縁部はアノリス・ホモレキス(A. homolechis)、開放環境はブラウンアノール(A. sagrei)、という異なる温度環境に生息することで共存しています(図1)。キューバでは、森林内部の低温環境から高温環境へ進化したと推定されています。
 東北大学大学院生命科学研究科大学院生の赤司寛志、東北大学理学部/大学院生命科学研究科生物多様性進化分野の河田雅圭教授と牧野能士准教授らは、 これら3種のアノールトカゲを用いて、低温(26°C)と高温状態(33°C)で、遺伝子発現量が(注1)変化する遺伝子を、RNA-seq(注2)を用いて解析しました。 温度で発現量が変化する遺伝子の中で3種に共通にみられたものとして、概日リズムに関する遺伝子群が検出されました。特に、Nr1d1 遺伝子は、低温環境に生息するアノリス・アルロガスと高温環境に生息するブラウンアノールで異なる発現パターンを示しました。この遺伝子は、概日リズムと代謝の両方に影響することが知られ、マウスでこの遺伝子をノックアウトすると、朝に低温に対する耐性が変化することが示されています。このことは、一日の時間帯によって温度耐性を変化させて、温度差の激しい高温開放環境へ適応していることが示唆されます。低温環境から開放高温環境への進化は、活動時間帯の変化と同時に温度耐性の変化を引き起こす遺伝子によって可能になったことが示唆されます。



参考図

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図2. 異なる生息地構造に異なる形態や行動(エコモルフ)に分化することで適応するアノールトカゲ。Losos, J. B. 2009[. Lizards in an evolutionary tree: Ecology and adaptive radiation of Anoles. University of California Press, Berkeley]を改変



発表雑誌


Akashi, H. D., A. Cadiz, S. Shigenobu, T. Makino and M. Kawata (2016) Differentially expressed genes associated with adaptation to different thermal environments in three sympatric Cuban Anolis lizards. Molecular Ecology, 25:2273-2285



用語解説


(注1)遺伝子によって作られるRNAの量
(注2)次世代シークエンサーを用いて発現している遺伝子を網羅的に解析する手法



お問い合わせ先


東北大学理学部/大学院生命科学研究科
生物多様性進化分野
教授 河田 雅圭(かわた まさかど)
電話 022-795-6688
E-mail:kawata[at]m.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください




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