東北大学 大学院理学研究科・理学部

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地球のプレートは海の存在によって弱くなる−プレートテクトニクスの発生機構の解明に大きな手がかり−

概要


 静岡大学の平内健一講師と修士課程2年福島久美さん(総合科学技術研究科/理学専攻/地球科学コース)、東北大学の武藤潤准教授、岡本敦准教授らの研究グループは、室内での岩石変形実験の結果を元に、海水のプレート内部への浸透と水と鉱物との反応によって生まれる弱い鉱物の存在がプレートテクトニクス※1を駆動するために必要であることを明らかにしました。1960年代に登場したプレートテクトニクス理論によって、地球で起こる様々な現象の説明が可能となりました。一方で、そもそも「どのようにしてプレートテクトニクスが始まったのか」という根本的な問題が解決されていません。我々は、海洋底に存在するトランスフォーム断層※2に海水が浸透することにより「力学的に異常に弱い面」が形成されることが、プレートの沈み込み、ひいてはプレートテクトニクスが起きる上で重要な役割を果たすことを突き止めました。この結果は、プレートテクトニクスの進化を明らかにするだけでなく、他の地球型惑星※3においてプレートテクトニクスが存在しない理由を理解する上で重要な成果であると言えます。
 本研究は、JSPS科研費 JP 25800279「若手研究(B)」およびJP 26109005「新学術領域研究(地殻ダイナミクス)」の助成を受けたものです。
 本研究成果は、英国Nature Publishing Groupの科学誌『Nature Communications』に、日本時間8月26日(金)18時にオンライン公開されました。



□ 東北大学プレスリリース本文


背景


 地球はプレートテクトニクスが存在する唯一の地球型惑星として知られており、その表面は十数枚のプレートと呼ばれる硬い岩板で覆われています。それぞれのプレートは独立して動いているため、時折プレート同士がぶつかり合い、どちらか片方がもう片方の下に沈み込むことがあります。この「プレートの沈み込み」は、地球表層の物質(水や炭素)を深部にもたらす働きをするため、惑星進化の歴史を考える上で重要なプロセスといえます。しかし、そもそも「なぜプレートが沈み込みを開始できるのか」については未だ明らかになっていません。
 プレートの沈み込みはプレート間の断層に沿って起こると考えられています。数値モデルによると、プレートが沈み込むためには、断層の強度は数十メガパスカル以下である必要があります(図1)。しかし、プレートを構成する岩石(かんらん岩※4)の変形則を用いて断層の強度を推定すると、深さ10~20キロメートルにおいて500メガパスカルを超える高い値をとります。したがって、上記の深さ範囲において、プレート間断層の強度を約一桁低くするための新たなメカニズムを考える必要があります。
 地球と他の地球型惑星(金星や火星)との大きな違いとして、「海洋」の存在が挙げられます。もし海水がプレート間断層に沿って深部まで移動すると、海水中の水と鉱物が反応して含水鉱物※5が形成されます。一般に含水鉱物は力学的に弱い性質をもつため、断層の強度を低下させる働きをする可能性があります。しかし、海洋プレート深部の温度圧力条件において、どのような含水鉱物が形成され、それがどの程度断層強度の低下に寄与するのかについては、これまで検証されてきませんでした。



研究成果


 そこで、当研究グループでは、海洋プレート深部(深さ20キロメートル)に相当する温度圧力条件下でかんらん岩試料の熱水変形実験を行いました。その結果、かんらん岩と水が反応して滑石と呼ばれる含水鉱物が形成され、変形の進行とともに試料の強度が劇的に低下することがわかりました(図2)。実験で得られた最小強度は40メガパスカルでした。このことは、断層近傍のプレート構成岩石であるかんらん岩に熱水が加わることがプレート間断層の強度を低下させる有力なメカニズムであることを示唆します。そして、海洋プレート深部における岩石・水反応は、沈み込みを開始する上で極めて重要な役割を果たすといえます。
 沈み込み開始が可能なプレート間断層の候補として、トランスフォーム断層が挙げられます(図3)。一般にトランスフォーム断層の深さは十キロメートル以浅ですが、大西洋には深さ数十キロメートルに達する断層が存在します。そのような「深い」トランスフォーム断層では、プレート深部への海水の浸透が可能になるため、滑石をともなった「弱い」プレート間断層が形成されると予想されます。



今後の展望


 今後は、地球形成初期において、どのようにプレートテクトニクスが駆動し始めたのかを検証していく必要があります。また、本研究成果は、金星や火星においてなぜプレートテクトニクスが存在しないのかを考える上で、一つの可能性を与えます。例えば、金星には巨大な断層や裂け目が数多く存在しますが、プレートテクトニクスが起こっているという証拠はありません。その理由として、惑星表面に海洋が存在しないことと関係があるかもしれません。



研究成果のポイント


▷ 海洋プレート深部の強度が岩石・水反応によって劇的に低下することを実験的に示した。

▷ 海洋プレートの沈み込み開始には、「深い」海洋トランスフォーム断層に沿った海水の浸透が必要である。

▷ 他の地球型惑星と比較して、地球においてのみプレートテクトニクスが存在する理由として、「惑星表面における海洋の存在」が挙げられる。



論文題目および著者名


題名:Reaction-induced rheological weakening enables oceanic plate subduction
著者:平内健一1、福島久美2、木戸正紀3、武藤潤3、岡本敦4
1 静岡大学理学部地球科学科
2 静岡大学大学院総合科学技術研究科
3 東北大学大学院理学研究科
4 東北大学大学院環境科学研究科
掲載誌:Nature Communications
URL:http://www.nature.com/search?journal=ncomms&q=10.1038%2Fncomms12550
DOI:10.1038/ncomms12550



用語解説


注1)プレートテクトニクス
 地球表面を覆う十数枚のプレートは、相互に水平移動しています。このプレート運動によって起こる様々な地質現象をプレートテクトニクスと呼びます。

注2)トランスフォーム断層
 プレート境界に存在する横ずれ型の断層のことを指します。中央海嶺を横切る断層として多く存在し、海嶺と海嶺の間でずれ動きます。


注3)地球型惑星
 主に岩石や金属から構成される惑星のことで、「岩石惑星」とも呼ばれます。太陽系では地球のほかに水星・金星・火星が地球型惑星にあたり、岩石からなるマントルの対流が起こっていると推測されています。


注4)かんらん岩
 地球の表面から深さ数10~400 kmに位置する上部マントルを構成する岩石の一つです。主にかんらん石からなり、そのほかに斜方輝石、単斜輝石、スピネルなどを含みます。本実験ではかんらん石に斜方輝石を混合した試料を用いました。


注5)含水鉱物
 結晶構造の中に水やヒドロキシ基(OH基)を含む鉱物の総称です。地球内部の高温高圧下で鉱物と水が反応することで形成されます。本実験では滑石が形成されました。



参考図


79bffa5af4445a95b1005b286e5dd9784d91403c.png 図1.25 Maの海洋プレートの強度断面図。

0fc989015d29338f1dca4256abf8a14635982982.png 図2.本実験におけるかんらん岩試料の応力・歪曲線の一例。

4d9cb437f801bfb07a4a8765307c91d5fd87c2cf.png 図3.東太平洋海膨Siqueirosトランスフォーム断層周辺の海底地形図。MOR:中央海嶺.Gregg et al. (2007, Nature)を一部改変。



お問い合わせ先


<研究に関すること>
静岡大学理学部地球科学科
講師 平内 健一(ひらうち けんいち)
TEL:054-238-4735
E-mail:hirauchi.kenichi[at]shizuoka.ac.jp

東北大学大学院理学研究科地学専攻
准教授 武藤 潤(むとう じゅん)
TEL:022-795-6627
E-mail:muto[at]tohoku.ac.jp

東北大学大学院環境科学研究科
地球物質・エネルギー学
准教授 岡本 敦(おかもと あつし)
TEL:022-795-6334
E-mail:okamoto[at]mail.kankyo.tohoku.ac.jp

<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)
電話:022-795-5572、022-795-6708
E-mail:sci-pr[at]mail.sci.tohoku.ac.jp

*[at]を@に置き換えてください。



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